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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第28章 ノストラウラ
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第28章幕間

 一方、時は少し遡り、八月二十五日土曜日の二十時過ぎ。


 雅達は、ウラの南側にある街、エントラウラにいた。


 先程まで葛城と戦い、何とか生き延びた彼女達。そのまま北へと逃げた葛城を追いかけるには、受けたダメージがあまりにも大きい。


 そう言うわけで、葛城を追いかけるのは明日の夕方からにして、一度エントラウラで休むことにしたのである。


 そして、雅達の泊まる宿から、少し離れたところにある通り。


(あー……なんつーか、やっぱ誰かと一緒に来れば良かったすね。どこが美味い店なのか、さっぱり分からねーっす)


 飲食店が並び、比較的治安も良く、活気のあるエリアを、目つきが悪い、おかっぱの女性――冴場伊織は歩きながら、困ったような顔をする。


 エントラウラで見つけたマフィアの後始末をエントラウラのバスターに引き継ぎ、新潟県警にも報告を済ませた伊織。


 皆と簡単に夕食を摂った後は、各自自由時間となった。


 宿の部屋にいてもやることが無く、またまだ若干お腹に物足りなさを感じていた伊織は、こうしてブラブラと歩きながら、良さそうなお店を探していたのである。


 ただ、伊織は異世界の街をブラブラするのは初めて。今一勝手が分からなかった。


 すると、


「あ、いたいた伊織さーん!」

「ん? ……おぉ、雅ちゃんにラティアちゃんじゃねーっすか。どうしたんすか?」


 後ろから声がして振り向き、柔らかい表情を浮かべる伊織。


 ラフな格好をした雅とラティアが、そこにいた。


「いやー、ラティアちゃんと一緒に伊織さんに会いに行ったら、部屋にいなくて。GPS見たら、ここにいたから。もしかして、夕食、足りなかったですか?」


 雅が、辺りの飲食店を見回しながら聞くと、伊織は苦笑いを浮かべる。


「よく分かったっすね。いや、実はそんなんもんで。……でも、ここら辺のお店、よく分からなくて困ってたんすよ」

「あ、じゃあ私も一緒に探しましょうか? ウラは初めて来ましたけど、これでも異世界で生活していましたからね。良いお店くらい、勘で当てられますよ」


 えへんと胸を張る雅に、伊織はピューと口笛を吹く。


「流石っすねぇ。や、こっちはありがてーですけど、でも、いーんすか? ファムちゃんやノルンちゃん達と一緒じゃなくて」

「んー……皆はお疲れみたいですけど、私はちょっと元気が出せるというか……。あおれに私も、ちょっとお腹が空いていますし。それに、今はちょっと、伊織さんと一緒にいたい気分です」


 そう言って、雅は小さくウインクを飛ばす。


 半分は嘘だ。雅も疲労困憊で、宿の部屋で寝てしまいたい気持ちがあった。


 だが、お腹が空いているというのと、伊織と一緒にいたいという言葉は本当である。伊織とは、あまり絡みが無い。折角の機会だから、コミュニケーションをとりたいと思ったのだ。


「一緒にいても、面白いことはねーですけどね。まぁ、それでも良けりゃあ……」

「おっけーおっけー! ノープロブです! じゃ、行きましょう!」


 元気よく拳を空に突き出す雅と、それを真似するラティア。


 先導して歩く二人に、伊織はふふっと笑みを浮かべて、着いて行くのだった。




 ――そして、十分後。


「あ、伊織さん! 向こうに美味しそうなお店がありました! 入ってみません?」

「美味しそうなお店? ――いや、雅ちゃんっ? あれ居酒屋じゃねーっすか! いや異世界なら酒場すか? どっちにしろ、子供にはまだはえーです!」

「えぇ? いいじゃないですか! 私達はお酒飲めませんけど、伊織さんは飲めるんでしょう? ラクダ料理なんてものがあるみたいなんですけど、ちょっと気になりません?」

「ラクダ料理っ? ラクダって食えるんすかっ?」

「エジプトとかだと、普通に食べているところもあるみたいですよ? 焼くとジャーキーみたいな感じらしいですけど、異世界のラクダですからね。もしかすると、ちょっと味も違うかもしれません」

「いや、そりゃ……気にならんといやぁ嘘になるっすけど……」


 伊織の目が、迷いに揺れる。視線の先にいるのは、ラティアだ。


 どう考えても、ラティアに酒場は早い。そう思ってしまう。


 だが、


「ラティアちゃんも、ラクダ料理食べたいですよねー?」


 雅がそう聞くと、ラティアは無言で、何度もコクコクと頷く。


 それを見て、伊織は溜息を吐いた。


「仕方ねーですね。んじゃ、入りましょーか」


 二人がどうしても行きたいというのなら、仕方が無い。万が一不埒な酔っ払いがいたら、自分が対処すれば良いだろうと、伊織は自分に言い聞かせる。ラクダ料理にも興味があった。


 伊織は雅とラティアを先導して、店の扉を開けるのだった。




 ***




「はぁー、成程。こりゃ美味っすね。ちょっと想像していたのとは違っていたっすけど」

「豚肉と牛肉の中間くらいの味と食感ですねぇ。あ、ラティアちゃん、あーん」


 ラクダ料理に舌鼓を打つ雅と伊織。


 口には出さないが、雅から差し出されたラクダ肉に素直に頬張る辺り、ラティアも気に入った様子だ。


「今度、うちらの世界のラクダ肉と食べ比べてみてーっす。何となくっすけど、こっちの世界とは味が違う気がするっす」

「日本じゃマイナーですけど、頑張れば手に入るかもしれませんね。――あ、そう言えば伊織さん、お酒飲まなくていいんですか?」


 三人が頼んだのは、おつまみ用のラクダ肉料理と水だけ。周りは酒が入ってバカ騒ぎする人が多い中、明らかにこのテーブルだけ場違いだった。


「ん? あぁいや、酒は好きなんすけど、うち、お酒飲むと記憶をなくすタイプなんすよ。度数が低けりゃ大丈夫なんすけどね」


 周りが同僚や友達だけならともかく、今は子連れ。


 フォローしてくれる人間もいない中、お酒を飲んだが最後、何をやらかすか分かったものでは無い。


 雅ならともかく……ラティアの前で醜態を晒してしまうのは、想像するだけで背筋が凍る。


「ま、そういう訳っすから、お酒はノーっすよ。……ちょっと失礼するっす」


 そう断って立ち上がり、伊織はお手洗いに行く。


 その背中を見つめる雅の目が、妖しく輝き……それを見つめるラティアが、『?』を浮かべながら、ちょっと頭を傾けるのだった。




 ――五分後。


 お手洗いから戻って来ると、


「ん? こんなの頼んだっすか?」


 伊織が、テーブルの端に置かれたグラスを見て、そう尋ねる。


 ルビーのような、綺麗な色の液体が入っていた。伊織がお手洗いに行く前は、無かったはずだ。


 すると、


「あ、それ。伊織さん用のお酒です。頼んでおきました!」


 そう言って、何故かビシッと敬礼をする雅が、そんなことをほざけば、伊織の顔も盛大に強張るというもの。


「ちょっ……何してくれやがるんすかっ? いやそもそも、未成年がお酒を頼んで、普通に出す店があるかっつー話で……あぁいや、ここ異世界の土地っす! そういう常識、こっちにはねーんすかねっ?」

「まぁまぁ落ち着いて、伊織さん」

「落ち着けるわけねーっすよぉ! 何で頼んだんすかぁっ?」

「だって折角酒場に来たのに、伊織さんお酒飲まないから」

「理由になってねーっす!」

「まぁいいじゃないですか。別にこれから運転する訳でもないですしー」

「だめっす! うち、お酒飲むと記憶をなくすって言ったじゃねーっすか!」


 伊織は必死で首を横に振る。


 だが、


「いいじゃないですかー! ちょっとだけ! ちょっとだけ!」

「ぜってー飲まねーっすよ!」

「えー? 酔っぱらう伊織さん、見たいですよぉ! ねー? ラティアちゃん?」

「それが目的っすかっ? な、なんてやつ……てか、ラティアちゃんをだしにするんじゃねーっす! ラティアちゃんも頷かない! だめったらだめっす!」

「大丈夫ですよー。これ、アルコール度数低いみたいですし。あぁほら、もう頼んじゃったわけですし、グビっといっちゃってください!」

「その『グビっ』がマズいんすよぉ!」


 吠える伊織。


 とは言え、頼んでしまったお酒を全く飲まずにそのままというのも、それはそれでラティアの教育に良くない気がする。


「ぐ……ぐぬぬ……ええい! ままよ!」


 伊織は腹を括り、グラスを煽る。


 雅の言葉通り、このお酒のアルコール度数が低いことを祈って。

長くなってしまったので、前後編に分けます!

続きは閑話にて!

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