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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第28章 ノストラウラ
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第247話『気配』

 アサシン種レイパーが姿を消したのと同じタイミングで、セリスティア、愛理、優の三人の体を、白い光が包む。


 防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り(イージス)』を発動させたのだ。


 命の(サーヴァルト・)護り(イージス)には二つのモードがある。発動時間が短い代わりに防御力が高いモードと、防御力が低い代わりに発動時間が長いモード。今は後者の方を使用した。


 敵の武器に塗られた毒が厄介な為、少しでも長い時間身を守ろうという考えだ。


 さらに、


「お前ら、俺と背中合わせろ! そうすりゃ、背後からの奇襲は防げる!」

「な、成程!」

「背を合わせたら、目の前に集中! とにかくまずは凌ぐぞ!」

「は、はい!」


 姿が見えない敵に動揺する二人に、テキパキと指示を飛ばすセリスティア。


 何とも頼りになると、愛理と優は舌を巻く。


 とは言え、指示を出したセリスティアは、内心でほとほとに困り果てていた。


 敵は姿を消す能力と、毒が付いた武器で攻撃してくる。


 ここは崩壊した建物や瓦礫等のせいで、ただでさえ敵が身を隠すには打って付けな場所。ナイフや針で奇襲を仕掛けることにも向いている。強力な毒を持っている以上、一発でもモロに喰らってしまえばアウトだ。


 本来ならもっと開けた場所に移動して戦いたいところだが、万が一にもライナ達の方へと向かわれては困る。


(地の利は奴にある……。やべぇ、どうすりゃいい……?)


 二人には『凌ぐぞ』と言ったものの、いつまでも防戦一方というわけにはいかない。命の(サーヴァルト・)護り(イージス)の効果時間は五分。それを過ぎれば、毒を防ぐ手段が無くなってしまう。


 どこかで攻めに転じなければならない。


(奴は俺の攻撃が当たった時、姿を現した。まぐれでも何でも、当てられれば何とかなるか……?)


 等と考えていた、その時だ。


「……っ! アイリ!」

「えっ? ――いっ?」


 刀型アーツ『朧月下』を構え、辺りを警戒していた愛理の腕に何かが命中する。


 その衝撃で、思わず刀を吹っ飛ばされてしまった。


「愛理っ? このぉ!」


 叫びながら、スナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』を構え、敵がいそうなところへとエネルギー弾を放つが、空しく空を切るのみ。


「ぐっ……針か……!」


 腕を抑えながら呻く愛理。


 彼女を襲ったのは、毒の塗られた細い針だ。


 命の(サーヴァルト・)護り(イージス)のお蔭で毒に侵されることは無かったが、それでも強い衝撃で、腕に痺れたような感触が残っていた。


「っ? ユウ!」

「――きゃっ?」


 セリスティアが警告を飛ばした直後、優の背中に、何かに斬りつけられたような衝撃が襲う。


「そこかっ!」


 セリスティアが爪型アーツ『アングリウス』を振ると、爪先に何かが引っ掛かるような感触が僅かにしたものの、クリーンヒットはしない。


 だが、


「っ! ユウ、後ろに跳べ!」


 セリスティアの鋭い指示に、優は必死でその通りに動く。


 刹那、今まで優がいた場所を、針が通過した


 さらに、


「アイリ! 右から来てるぞ!」

「っ?」


 咄嗟にその場を跳び退く愛理。そのすぐ横を、何かが通り抜けた感じがして、彼女は顔を強張らせる。


 そして、


「おらぁっ!」


 セリスティアがアングリウスを振ると、高い音と共に、空へと何かが弾き飛ばされる。レイパーの投げた針だった。


 そこで、優と愛理は確信する。


 セリスティアは敵の攻撃が読めるのだ、と。


(んだよ、最初は焦ったが……案外、分かるもんじゃねぇか!)


 姿が見えないだけで、存在はあるのだ。針を飛ばしたり、ナイフを振ったりする動作をすれば、空気が揺れる。


 経験則から、セリスティアはそれを感じとっていた。


 敵の動きが分かれば、


「アイリ、ユウ! お前ら、そこ動くなよ!」


 作戦も思い浮かぶ。


 セリスティアは二人にそう叫ぶやいなや、自身のスキル『跳躍強化』を発動する。


 脚力を何倍にも上げるこのスキルで、セリスティアは勢いよく地面を蹴った。


 地面を水平に跳ぶその動きは、さながら高速移動。


 瓦礫等を足場にすれば、移動の方向を変えることも容易だ。


 着地と同時に再びスキルを使い、さらにまた次も同じように……縦横無尽に、無茶苦茶に動き回る。


 敵に強烈なタックルを仕掛けるつもり……では無い。当たれば儲けものだが、姿が見えない相手に簡単に当たることなど、セリスティアは端から期待していなかった。


 目的は、敵の動きを制限すること。


 セリスティアが移動するその射線上に、敵はいられないし、迂闊に動けない。


 そして、


「アイリっ!」

「……っ!」


 動き回る途中、愛理が弾き落された朧月下を、アングリウスの爪で掬い上げ、彼女へと放り投げる。


 その瞬間、愛理はセリスティアの本当の作戦を理解する。


 刀を受け取り、愛理と優の視線が交錯。


 その僅かなアイコンタクトの直後、愛理は自分の背中へと斬撃を繰り出した。


 相変わらず敵の姿は見えない。


 だが、セリスティアが何にもぶつからないのであれば、敵がいる場所は自ずと限られる。


 そして我武者羅に動き回っているように見えて、セリスティアは愛理の背後だけは、一切通らないようにしていた。


 つまり……レイパーは、そこにいるということだ。


「ッ!」

「いたっ!」


 何かに当たった手応えの後、レイパーが姿を現したのを見て、作戦が成功したことを確信する愛理。


 レイパーは腕を押さえていた。今、愛理が斬ったのはそこだろう。


 再び姿を消そうとするレイパーだが、それより早く、愛理の二撃目の斬撃が、横に一閃放たれる。


 思わず仰け反ってそれを躱しつつ、完全に姿を消してしまうレイパー。


 愛理の口角が、勝利を確信して上がったことに、気が付かない。


 次の瞬間、愛理の姿が消える。自身のスキル『空切之舞』を発動したのだ。


 このスキルは、敵に攻撃を避けられてしまった際、敵の死角に瞬間移動するというもの。


 姿が見えなかろうが関係無い。


 愛理が移動したその目の前に、必ず敵はいるのだ。


「そこだ!」


 相変わらず見えないが、愛理とて伊達に色んなレイパーと戦ってきた訳では無い。


 近くにいるのだと思えば、何となくでも敵の居場所は掴める。


 確かな抵抗と共に、刀を振りぬく愛理。


 刹那、アサシン種レイパーは姿を現した。黒いローブは背中を斬り裂かれ、くっきりと本体に傷を付けている。


 噴き出す緑色の血液。確実にダメージを与えられた証拠だ。


 だが、息の根を止めた訳では無い。


 レイパーは背中を手で押さえながら振り向き、ナイフを振り上げる。


 しかし……一歩遅い。


 敵の斬撃が繰り出されるより早く、愛理の刀が振り上げられる。


「ッ?」


 切っ先が、正確にナイフの根元を捉え――鋭い音を響かせて弾き飛ばすと、レイパーの眼の赤い光が、驚愕したように強まる。


「ラ、ラタイ……ラガリニラミ!」


 捨て台詞を残すように吐き捨てると、愛理に背を向けるレイパー。


 逃げるつもりなのだろう。その姿が、スーッと消えていく。


 だが、その刹那。


「もう逃がさない!」

「ガァッ?」


 レイパーが完全に消えるより早く、白いエネルギー弾が、背中を貫く。


 人間で言えば、丁度、心臓がある部分を。


 レイパーが振り向けば、そこには優が、ガーデンズ・ガーディアの銃口を向けていたのが見えた。


 スキル『死角強打』により、視認していない攻撃の威力が上げられた一発。


 致命傷を与えるには、十分な一撃だ。


 血がドクドクと溢れるところを手で押さえながら、体を大きく震わせ、そして――アサシン種レイパーは、爆発四散するのだった。

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