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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第28章 ノストラウラ
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第246話『殺屋』

「何?」


 優は、足音が聞こえてきた方に顔を向ける。


 だが……そこには誰もいない。


「……気のせいかな?」

「いえ、私も聞こえました。何かがいるのは、間違いありません」


 そう断言したのは、ライナ。


 彼女の顔は、険しい。


 隠密行動専門のヒドゥン・バスターであるライナだからこそ、分かる。今聞こえてきた音は、明らかに気配を殺しながら歩く者の足音だ。ただものでは無い。


「皆さん、ここを――」


 と、ライナが言いかけた、その時。


「――っ!」

「きゃっ?」


 村長が突然、優を突き飛ばす。


「ちょ、ちょっと、何を……っ?」


 尻餅を付いた優が上げた抗議の声は、最後まで発せられることは無い。


 何故なら、


「ぐ……ぅ……」

「村長さんっ?」


 村長は蹲り、苦しそうな呻き声を上げていたからだ。


 右腕からは血がドクドクと流れている。


「お、おい! どうしたっ? 何があったんだっ?」

「や、奴だ……村を襲った奴が、そこに……」


 村長は震える腕を伸ばし、自分の右側の方向を指差す。


 そこには誰もいない。


 だがこの村長の様子を見れば、彼の言っていることが嘘ではないのは明らかだ。


「そこの嬢ちゃんに、針みたいなものを飛ばそうとしているのが見えて、それで……」

「待て、あんま喋んな! やべぇ……こいつは毒だ! 早く治療しねぇと!」


 村長の腕の傷口が、明らかに紫に変色しているのを見たセリスティアの顔が、ひどく強張る。


「私が別の村まで連れていきます! 案内してください!」

「あ、あぁ! 分かった!」


 村民の男性にそう声を掛け、負傷した村長を担ぐと、ライナ達はその場を離れていく。


 後に残ったのは、愛理、優、セリスティアの三人だけ。


 優の左薬指と、愛理の右薬指に嵌った指輪が輝き、二人の手にアーツが出現する。


 優の手には、白いスナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』。


 愛理の手には、メカメカしい見た目をした、刀身が一メートル程もある刀型アーツ『朧月下』だ。


 セリスティアの両腕にある小手も円盤状に大きく変化し、銀色の爪が生えてくる。爪型アーツ『アングリウス』である。


「気を付けろ二人とも! 何かいるぞ!」

「何かって……でも、見えませんよっ?」

「村長さんは、村を襲った奴だって言っていたけど……全然気配が無い!」


 会話をしつつも、辺りにしきりに見回す三人。


 愛理と優の言う通り、近くにいるはずの敵は、どこにもいない。聞こえてきた足音でさえも、もうしない。


「もしかして、私達を無視して、システィア達を追ったのでは――」

「アイリっ!」

「っ!」


 中々姿を見せない敵に、ふとそんなことを思ってしまった愛理へ、セリスティアが警告を飛ばしたその時。


 空気を切り裂き、何かが迫る気配を感じて、愛理はその場を跳び退く。


 パラリと、愛理の三つ編みの毛が数本切れ落ち、地面にハラリと落ちる。


「愛理! 大丈夫っ?」

「あぁ! だが……」


 そう言って、愛理は自分の三つ編みをチラリと見る。


 切られたところが、チリチリと焦げたようになっており、嫌な臭いもした。


「多分、毒を塗ったナイフか何かを持っている! まともに喰らったらおしまいだ!」

「ちぃ! 面倒な……!」


 姿が見えず、しかも毒を持った敵となれば、厄介なことこの上無い。


「お前ら、念のために――っ?」


 不意打ちによる即死だけは防げと指示を飛ばそうとしたところで、セリスティアは不意に、近くに迫っていた何かの気配を察知し、右腕を上げる。


 直後、甲高い音と共に、何かがアングリウスの爪にぶつかる衝撃が走る。


 姿は見えないが、感触からして、愛理の言っていた『毒の付いたナイフ』だと直感するセリスティア。


 ならば、だ。


「にゃろう……姿見せろオラァッ!」


 そのナイフを持った奴が、そこにいるということ。


 セリスティアは反対の腕を思いっきり、敵がいると思われる方向へと振り上げる。


 そして――


「捕えたっ!」


 アングリウスの爪が、何かにぶつかり、吹っ飛ばす。


 刹那、空間が僅かに揺らめき……三人を襲う、その『敵』が姿を見せる。


「何あれ? ……フード?」

「……システィアの表現が正しかったか。まるでアサシンだな」


 現れたのは、身長ニメートル弱程の人型のレイパー。


 優と愛理の言葉通り、まるでアサシンのような姿をしている。フードとコートで全身を覆っているが、赤く光る眼と口元だけは露わになっていた。


 そんな眼や口の周りには、僅かだが骨が見える。こいつの頭部は頭蓋骨のような感じに違いないと、三人は思った。


 分類は『アサシン種レイパー』か。


 右手にはナイフ、左手には針が、コートの袖からチラリと見えていた。明らかにこれが、三人を襲った凶器だ。ナイフも針もよく見れば、透明な液体で、表面をコーティングされていた。


 だが、


「……妙だな、お面が無いぞ?」


 村長は『お面を被っていた』と言っていたが、そんなものはどこにも見当たらない。


 すると、レイパーはゆっくりと、口を開く。


「ロタレコレコヘレモキヤボトムトッノ。フマヘルホゴオヘユホヒニカオルダ」

「お前ら、イージス使っとけ! ――来るぞ!」


 レイパーの言葉の後に、セリスティアの指示が飛ぶ。


 刹那、アサシン種レイパーの姿が、再びスゥーっと消えた。


 ――まるで、最初からそこにいなかったかのように。

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