第244話『薄弱』
「皆、ごめんなさい! 私の判断ミスだった……!」
人工種のっぺらぼう科レイパーから逃げ、三十分後。
身を隠せそうな洞穴を見つけ、そこで敵を撒くことにした四人。
そんな中で、レーゼは希羅々、志愛、ミカエルの三人に、頭を下げた。
「奴が現れたところで、撤退するべきだった。そうしなかったせいで、こんなことに……」
「レーゼさんのせいではありませン。窮地に陥った原因ハ、私にもありまス」
軽く火傷した腕を、濡れたタオルで抑えながら、志愛は首を横に振ってそう呟く。
逃げようとする男を、迂闊に追いかけようとしてしまった。思えばあれのせいで、敵に主導権を握られてしまったのだ。
「はいはい二人とも、反省会はそこまでに致しましょう。もう終わったことですわ」
「ちょっとキララちゃん、駄目よ! まだ安静にしていないと……」
防御用アーツ『命の護り手』を発動させていたとは言え、希羅々は火炎放射をもろに受けたのだ。あちこち火傷もしており、ダメージも大きい。ミカエルがそう言うのも、無理は無かった。
「平気ですわ。動けない程ではありませんし、この通り、応急処置もしていますし」
「応急処置はあくまでも応急処置よ。ちゃんと手当しないと」
「……流石にまだ、奴が近くをうろついているかもしれない。もう少しここに隠れて、日が暮れる前に街へと戻りましょう」
言いながら、レーゼは拳を握りしめる。
自分がもっと強ければ、彼女達を守りながら帰ることも出来た。いやそもそも、撤退に追い込まれることも無かっただろう。レーゼはそう思ってしまう。
己の無力さが、ひたすらに悔しかった。
***
一方、その頃。
ここは、ノストラウラの東の地域。丁度、レーゼ達がいるところと真逆の方向だ。
「うひゃぁ……こりゃ、ひでぇな……」
崩壊した村を見て、赤毛の女性、セリスティア・ファルトは、溜息を吐くようにそう呟く。
色々と話を聞いて回ったところ、この辺りに壊滅させられた街があると聞いてやって来たのだ。葛城がやったのかは分からないが、何か手掛かりがあると思ったのである。
「これ全部、葛城がやったのかな?」
「うーん……?」
黒髪サイドテールの少女、相模原優と、片目を隠した銀髪の少女、ライナ・システィアも、この惨状を見て眉を寄せる。
優の言葉に、ライナは首を傾けた。
煉瓦で出来ていた建物は壊れて瓦礫と化し、地面は抉れ、微かに死臭も残っている。
だが何となく、葛城の仕業のように思えなかった。明確な根拠があるわけでは無いが。
「死体がありませんね。既に誰かがここを見つけて、近くの村にでも知らせたのかもしれません。そっちは後で話を聞きに行くとして……葛城に繋がる手掛かりがあるかもしれませんし、少し探してみましょう」
辺りを見回しながら、三つ編みの少女、篠田愛理がそう提案する。
「だな。四人で纏まっていても効率わりぃし、二手に別れるか。俺とアイリは向こうを見てくるから、ライナとユウはこの辺りを調べてくれ」
「敵の気配は無いけど、警戒は怠らないようにしないとね。気をつけなきゃ」
優の言葉に、三人はコクンと頷いた。
――そして、探し始めて間もなく。
「……む?」
愛理のULフォンに、メッセージが届く。
優から何か来たのかと思ったが、差出人はレーゼだ。
メッセージに目を通すと、愛理は眉を顰め、セリスティアに声を掛ける。
「マーガロイスさん達から、連絡が来ました。向こうで、我々が前に戦った、あののっぺらぼうの人工レイパーが現れたそうです」
「あぁ? おいおい、あいつら無事なのか?」
「手酷くやられたみたいですが、生きていますね。今は身を隠して、様子を見て街へと戻るそうです」
愛理の言葉に、セリスティアはほぅっと安堵の息を吐く。
「そうか……無事なら良かったぜ。でも、何でここに奴らが? ――いや、そうか。あいつら、あの謎のお面を狙っているんだもんな。それが葛城に憑りついたんだから、来ていてもおかしくねえか」
「彼の身に起こったこの一件は、久世側が仕組んだことのようですしね。葛城の部下もその場にいましたが、逃げられたとのことです。その男なんですが、どうやらマーガロイスさん達の話では、久世と内通していた様子みたいですね」
「部下の一人が裏切ったってことか。いや、最初からクズシロを罠に嵌めるつもりで近づいたのかね?」
セリスティアの疑問に、愛理は黙って首を横に振る。
そこら辺のことは、本人から直接話を聞かなければ分からない。
「とにかく、ノストラウラに奴がいると分かった以上、バラバラに行動するのは危険です。一旦相模原とシスティアに合流しましょう」
「そうだな。ライナに連絡して――うん?」
「どうしました?」
「いや、ジャストタイミングだ。向こうから連絡が来た。ちょっと待ってろ」
そう言って、通話の魔法でライナと話し始めるセリスティア。
すると、セリスティアは目を丸くする。「おう、分かった。すぐにそっちに行く」と言って、通話を切った。
そして、
「アイリ。向こうに人がいたってよ。この村で何が起きたのか、知っているみたいだ。これから話を聞くらしい。俺達も行くぞ」
そう言うのであった。
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