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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第28章 ノストラウラ
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第243話『火炎』

 よく考えてみれば、当然のことだった。久世の仲間が、ウラにいることなど。


 葛城がお面に憑りつかれたのだから、お面を求める久世が、何もアクションを起こさないはずはない。葛城がお面に憑りつかれるよう仕向けたのだから、尚更だ。


 嫌な予感がした時、何故、人工種のっぺらぼう科レイパーが来ていると想像出来なかったのか。


 レーゼは目の前に現れた、全身黒いタイツを身にまとったような、顔の無い人型の化け物を見て悔やむ。


 敵は二体。人間態のまま、レーゼ、希羅々、志愛の三人を相手に出来る男。そして、こののっぺらぼう。


 のっぺらぼうの人工レイパーは、頭を動かさぬまま、背後にいる男へと、ジェスチャーで逃げるよう指示をする。


(葛城の部下を襲わない? どうやら、ミカエルの予想は正しかったようね……)


 男が黙って頷き、三人に背を向けたのを見て、レーゼは彼とのっぺらぼうの人工レイパーが仲間同士であると確信した。


「マ、待テッ!」

「っ! 駄目よシア!」


 逃げる男を、つい追いかけようとしてしまった志愛。


 レーゼは警告を飛ばすが、時既に遅し。


「グゥッ?」


 自身から意識を逸らしてしまった志愛を、人工レイパーは見逃さない。


 素早く彼女の背後に接近すると、背中に膝を打ち込み、吹っ飛ばしてしまう。


 攻撃される直前、咄嗟に『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動させたものの、鉄の棒で貫かれたと錯覚するような痛みに、志愛の口から血が零れる。


 人工レイパーは志愛へと飛び掛かり……止めを刺さんと右腕を振り上げた、その瞬間。


「させない!」


 レーゼが、人工レイパーの横顔目掛け、剣型アーツ『希望に描く虹』で突き攻撃を放つ。


 寸前でレーゼの殺気に気が付いた人工レイパーは、僅かに仰け反りその攻撃を躱すと、体を捻り、レーゼの横腹に肘打ちを入れる。


 だが、レーゼは顔を歪めるだけで、志愛程ダメージは受けなかった。


 スキル『衣服強化』を発動させ、さらに命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)も発動させていたことで、防御力を上げていたからだ。


 それでも、重い物を投げつけられたかのような衝撃を感じていたが。


(こいつ……前に戦った時より、力が強くなっているっ?)


 人工レイパーが続けて放った回し蹴りや拳の乱打を腕で受け流しながら、レーゼの額に汗が浮かぶ。


 スキルと防御用のアーツを使っているにも拘わらず、体に襲いかかる衝撃が重いのだ。


 敵の攻撃が一瞬止まった隙を見計らい、回転斬りを繰り出すが、人工レイパーはバク転してそれを躱してしまう。


 すると、


「こっちにもいますわよっ!」


 希羅々が、人工レイパーの背後から、レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』による突きを放った。


 狙いは、背中のど真ん中。


 空気を裂くようにして向かっていく、レイピアのポイント。


 人工レイパーは体を傾け、その突きを回避する。後ろに目がついているのかと思う程、悠々とした動きだ。


 人工レイパーは、攻撃してきた希羅々に反撃しようとするが、


「こっちよ!」


 不意にレーゼの声が轟き、間髪入れずに、剣の刃が顔面へと迫る。


 希羅々が気を逸らした隙にレーゼが接近し、アッパーのような斬撃を繰り出していたのだ。


 人工レイパーは体を後ろに逸らしてその攻撃を躱し、続けて放たれるであろう攻撃を警戒するが……何故か、レーゼの気配が遠ざかる。


 彼女がバックステップで、人工レイパーと距離を取っていた。


 レーゼがそんな行動をとった理由を知ったのは――上空から、空気を切り裂いて何かが迫って来る気配を感じた時だ。


 巨大なレイピアが、人工レイパーへと落下してきていた。


 これは希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』による攻撃だ。巨大なレイピアを呼び出し、敵を貫く必殺の一撃である。


 人工レイパーの意識が自分からレーゼに移ったと分かった希羅々は、一気に敵と距離をとり、このスキルで仕留めようと構えていた。


 その意図を悟ったレーゼが、希羅々に合わせたというわけだ。


「これで止めですわっ!」


 希羅々の声が、轟いた。




 ***




 一方、木陰で息を潜めていたミカエルはというと、赤い宝石のついた、節くれだった白いスタッフ『限界無き夢』を人工レイパーに構えながら、レーゼ達を援護する構えを取っていた。


 最初こそレーゼの指示に不満を覚えていたミカエルだが、今はレーゼの判断が正しかったのだと理解していた。


 素晴らしい危機察知能力だとレーゼに感心する一方で、現れた人工種のっぺらぼう科レイパーの身体能力に舌を巻く。


 希羅々が必殺スキルを放ち、これで勝負が決まったと思った。


 だが――すぐに、ミカエルは目を見開く。希羅々やレーゼの驚愕の声も聞こえた。


 人工レイパーは、迫る巨大なレイピアを見ると、その側面に跳び乗ったのだ。


 そのまま空まで駆け上る人工レイパーを、魔法で撃ち抜こうとしたミカエルだが、焦る気持ちを必死で押し留める。


 志愛が吹っ飛ばされた時や、レーゼと希羅々が敵と戦っている時など、何度か援護しようという気持ちが顔を出したが、それもグッと堪えていたミカエル。


 敵の動きは機敏だ。魔法による奇襲攻撃も、簡単に回避されると直感していた。下手をすれば、却って味方の動きを邪魔しかねないとも思ったのだ。


(敵は、多分私には気が付いていない。なら、最初の一発が勝負……!)


 巨大レイピアを駆けのぼる人工レイパーだが、いつかは飛び降りる時が必ず来るはずだ。


 その時が、魔法を当てるチャンス。


 息を殺し、魔力を集中させ、ミカエルは必死に我慢する。


 そして、ついにその時がやって来た――のだが、


「っ?」




 人工種のっぺらぼう科レイパーの顔に、火男のお面が現れたのを見て、ミカエルは驚愕で魔法を撃ち損ねてしまう。




 地上にいるレーゼ達も、驚いていた。


 この火男のお面は、以前新潟で、のっぺらぼうの人工レイパーが体内に取り込んでいたもの。


 それが表に出てくるとは、全く想像もしていなかった。


 火男のお面の口から、炎が噴き出る。


 火炎放射だ。


 このお面を前に被っていたピエロ種レイパーも火炎放射を放って攻撃してきたが、今回放たれた火炎放射は、地上にいるレーゼ、希羅々、志愛の三人を纏めて焼きつくせる程の、極めて強力なもの。


「権さんは私が! お逃げなさい!」

「っ!」


 希羅々の切羽詰まったような声が響き、レーゼが躊躇うような顔をしながらも、すぐに言う通りにする姿が、ミカエルは見えた。


 レーゼが全力疾走し、跳び伏せて炎の攻撃範囲から逃れ、


「キ、桔梗院っ?」

「あぐぅぁっ?」


 希羅々が命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を使いつつ、志愛を抱いて炎から守る。


 防御用アーツのお蔭で火傷することこそ無いが、熱による痛みは完全には防げない。


 何という威力か。


 ――勝てない。


 今の火炎放射を見て、ミカエルは、瞬時にそう理解する。


 ならば、打つ手は一つしかない。


 空中を落ちる人工レイパーに向けていた杖を、すぐにその下の地面へと向け、火球を放つ。


 出来上がったクレーターの中心に着地する、人工レイパー。


 刹那、大量の白い煙が、辺りを覆った。


「レーゼちゃん! しんがりは私が!」

「くっ……ごめん、ミカエル!」


 レーゼに駆け寄り、ミカエルは杖を構えたまま、レーゼにそう叫ぶ。


 そして、


「二人とも! 逃げるわよ! 私の肩に!」

「ス、すみませン……桔梗院、しっかりしロ!」

「くっ……」


 満身創痍の志愛と希羅々を抱え、その場を逃げ出すレーゼ。


 ミカエルは杖を振って、分厚い炎の壁を創り出すと、その跡を追うのであった。

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