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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第28章 ノストラウラ
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第242話『武術』

「変身されると厄介だから、人工レイパーになる前に捕えたい。私とキララで奇襲を仕掛ける。シアはフォローをお願い。奴が逃げようとしたり、強引に変身しようとしたら、邪魔して頂戴。ミカエルはここに待機で」

「ちょ、ちょっと待ってレーゼちゃん? 何で私が待機なの? 戦えるわよ?」


 素早く指示を出すレーゼに、ミカエルは困惑の表情を浮かべる。自分の魔法なら、遠距離から三人を支援することも出来る上に、万が一に彼が人工レイパーに変身してしまっても、攻撃することだって可能なのだからと思っていた。


 しかし、レーゼは難しい顔で首を横に振る。


「不測の事態に備えて欲しい、という意味での待機よ。何だか嫌な予感がするの……」

「バスターとしてノ、勘というやつですカ?」

「かもしれないわ。だからってわけじゃないけど、あなた達も、十分注意して行動して欲しい」

「ええ。分かりましたわ」

「うぅ……分かったわよ」


 いまいち納得しきれていない……そんな気持ちをにじませながらも、ミカエルも頷くのだった。




 ***




 木陰に隠れつつ、別々の方向から男の側面に回る、レーゼと希羅々。丁度、男を挟み内にするような位置取りだ。


 その手には、アーツが握られている。


 レーゼの手には、空色の西洋剣。剣型アーツ『希望に描く虹』が。


 希羅々の手には、金色のレイピア。『シュヴァリカ・フルーレ』だ。


 男はサルモコカイアの採取に集中しているようで、レーゼ達には気が付いていない。


 希羅々はレーゼへとアイコンタクトを飛ばしてから――男がサルモコカイア採取用のナイフを腰にしまったタイミングを見計らい、勢いよく男の方へと走り出す。


「はぁぁぁあっ!」

「っ? なんだっ?」


 希羅々は男に気が付かせるように声を張り上げ、その顔面へと、レイピアによる突きを放つ。


 突然のことに驚いた男だが、体を逸らし、ギリギリのところでその一撃を躱した。


 だがその刹那、希羅々の口角が上がる。


「――っ?」


 男の背後には、音も無く近づいていたレーゼの姿。


 剣を振り上げ、その柄の尻で、男の後頭部を狙っていた。


 希羅々の攻撃を躱させ、その隙に、後ろに回っていたレーゼが男を気絶させる。これが二人の作戦だ。


 男が気が付いた時には既に、レーゼは腕を振り下ろしていた。


 完璧に決まった奇襲――かに思われた。


「なっ?」


 辺りに響いたのは、レーゼの驚愕の声。


 希羅々も目を見開いている。


 男は素早く腕を頭の後ろに回し、剣の柄を手で受け止めていた。


 男は剣を払うと、振り向き様に、レーゼの腹部へと蹴りを入れて吹っ飛ばす。


「レーゼさんっ? ――ちぃっ!」


 そして、再び突き攻撃をしかけてきた希羅々のレイピアの側面を腕で捌くと、彼女の懐へと潜り込み、腹部へと肘を打ち込み悶絶させる。


「何者だ、貴様ら!」


 少し焦りの混じった声でそう叫びながら、男は二人から距離をとる。


 そして、その体がぐにゃりと歪むが、


「ハァッ!」

「三人目っ?」


 男が人工レイパーに変身することは無い。


 隠れていた志愛が、変身を妨害しようと襲い掛かったからである。


 手には、長い棍。先端には紫水晶を咥えた、銀色の虎の頭が付いている。志愛のアーツ『跳烙印・躍櫛』だ。


 志愛は男の横腹や腕、太腿辺りを狙い、棍による乱打を繰り出す。


「クッ……!」


 しかし、彼女の顔は渋い。


 棍の嵐を、男は腕や足で受け流し、時には体を逸らして紙一重で回避していたからだ。


 最初こそ、多少は力をセーブしていた志愛だが、今はほぼ全力で棍を振っている。それでもクリティカルヒットしない。


(動きが鋭ク、無駄が無イ……。この人、武術か何かやっていル……ッ!)


 このままでは埒が明かない。


 そう思った志愛。


 必然、焦りが出る。


 やや大振りになってしまった棍の一撃を、男がバックステップで躱すのは容易だ。


 すると、


「舐めないでくださいましっ!」


 男が下がった先には、希羅々が迫っていた。


 だが、志愛は希羅々の行動が、悪手だと直感する。


 良いようにあしらわれ、意地になった希羅々の動きは、攻撃のことしか頭にないそれだった。


 希羅々がレイピアで突き攻撃を繰り出すより、男の蹴りが放たれる方が先。


 そこで希羅々がようやく『ヤバい』と思った、その時だ。


「くっ!」

「マーガロイスさんっ?」


 レーゼが、希羅々と男の間に割り込み、蹴りの一撃を剣で受け止めていた。希羅々の迂闊な行動に気が付いたのは、レーゼも同じだったのである。


 剣を傾かせ、力を受け流し、何とか男の蹴りを凌いだレーゼ。


 希羅々と一緒に後ろに跳び退き、男と距離を取る。


「ありがとうございます、マーガロイスさん……!」

「こっちこそごめんなさい! 敵の力を見誤っていた……!」


 男から目を離さず、そんな会話をするレーゼと希羅々。


 男の後ろでは、志愛が棍を下段に構えている。


 男も戦闘態勢を崩さぬまま、三人から注意を逸らさない。彼とて、敵の数が多い故に、人工レイパーに変身する隙が無く、やや苦悶の表情を浮かべていた。


 一定の距離を保ったまま、睨みあう四人。互いに、中々隙が無いのだ。


 この膠着をどう破ろうかと、四人が頭を悩ませていた、その時。


「……っ!」

「きゃっ?」


 ぬるりとした、気味の悪い風が、レーゼの頬を撫でた。


 自身の背後から、何か嫌な気配が迫って来るのを感じるレーゼ。


 直感のままに、希羅々を掴んでその場を跳び退く。


 刹那、今までレーゼが立っていた場所を、黒い何かが通過。


 ザッ……という音と共に地面に着地したその何かに、レーゼは視線を向け……現れたそいつに、心の中で舌打ちをする。


 感じていた『嫌な予感』は、こいつのことだと分かったのだ。


 全身黒いタイツを着たような、人型のフォルム。


 頭部はあるが、顔は無い。


 そう、そいつは――


「また現れたわね……!」

「ア、あの時ノ……ッ!」


 レーゼと志愛が、三条市下田地区で戦った敵。愛理とセリスティアも含め、四人で戦って敗北を喫した相手。


 人工種のっぺらぼう科レイパーだった。

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