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第27章幕間

 八月二十五日土曜日。午後十六時二十七分。


 ウラ中央部に広がる、荒野。


 粘土質土壌の大地には多数のクレーターが出来上がり、明らかに戦闘の跡が残っていた。


 つい四、五十分程前まで、ここで人工レイパーとの大きな戦闘があったのだが、今は人一人いない……ように見える。


 だが不意に、大きく抉れた地面の一部が盛り上がると……そこから、全長三メートル程の山吹色の竜、シャロン・ガルディアルが姿を見せる。


 何かに覆いかぶさるような体勢の彼女が体を退かすと、そこには五人の少女がいた。


「ぐ……ぅ……」

「シャ、シャロンさん! 大丈夫ですかっ?」

「う、うむ……何とか、の」


 崩れ落ちるように人間態に姿を変えたシャロンの体を、雅が支える。


 そのままゆっくり地面に座らされるシャロンは、雅や他の娘が全員無事なところを見ると、ホッと息を吐いた。


「ま、守りきれたようじゃな……良かった……」

「シャロンさん、ありがとうございます!」

「なに、アプリカッツァのお蔭じゃ。礼を言うのは、儂もじゃな。助かった」

「久世と葛城は……もういないわね。逃げられたか……」


 四葉が辺りを見回しながらそう呟き、舌打ちをする。


 般若のお面に憑りつかれた葛城。彼の放った炎のブレスが、雅達に襲い掛かった。


 あの時、咄嗟にシャロンが、雷のブレスを放ったのだ。


 だが、ブレスの威力は敵の方が上。


 ヤバいと思ったその時、ノルンが魔法で風を集め、盾にした。同時にシャロンが全員に覆い被さり、ブレスをその身で受け止めたことで、ダメージを最小限に抑えることが出来たのである。


 とは言っても、全員が纏めて吹っ飛ばされる程の威力だったのだが。敵の放ったブレスは大地を砕き、シャロン達は地中に埋まってしまった。


「クズシロ、あの攻撃で私達を倒したと思ったんだろうね。いないってことは、クゼを探しにいったのかな?」

「うーん……どうかな? 完全に我を忘れていた様子だったし、本能的に、どこかの街を襲いに行ったのかもしれない。だとしたら、早く追いかけないと」


 ファムの言葉に真衣華は小さく唸り、そう言って立ち上がろうとする。


 しかし……体に力が入らない。


「あ、あれ……?」

「無茶をするな、タチバナ。儂らが受けたダメージは大きい。クズシロがどこに向かったのか、手掛かりも無い。一旦街へ戻るべきじゃ」

「そうですね。とにかく、動けるようになるまで、休みましょう。四葉ちゃんも、それで良いですか?」

「……分かったわよ」


 雅の言葉に、四葉は頷く。


 四葉とて、疲労困憊だ。そんな体で、一人でも葛城を追いに行こうとする程、彼女は無鉄砲では無い。無論、そうしたい気持ちが無い訳では無いが。




 ――二十分後。




「そろそろ戻るかの。タバネとタチバナは、儂の背中に乗れ。アサミ、アプリカッツァを頼めるか?」

「え? ノルンなら、私でも抱えて飛べるよ?」

「駄目よ、パトリオーラ」


 ファムの言葉に、そう返したのは四葉だ。


「まだ体力的にキツイでしょ? それでアプリカッツァを運ぶのは無茶よ。飛ぶ時も、私の肩に掴まりなさい。少しは楽なはずだから」

「……まぁ、楽ちんならいいけどさ」


 また子供扱いされたように思えて複雑な気持ちを覚えながらも、敢えて深くは突っ込まないファム。


 動けない訳では無いとは言え、体が厳しいのは確かだ。


「…………」

「む? タバネ、どうかしたか?」


 ファムと四葉のやりとりを、ジッと見つめていた雅。


 それに気が付いたシャロンが、そう尋ねるが、雅は「いえ、大したことでは」と首を横に振ってから、シャロンの耳元に口を近づける。


「四葉ちゃんって、意外と周りをよく見ているなって思って。今の、ファムちゃんのことを気遣ったのもそうですけど、ラティアちゃんが誘拐された時も、いなくなったことにすぐに気が付きましたし」

「……ほう? ぶっきらぼうに見えるが、優しい娘なんじゃな」


 そんなコソコソ話をしているとは知らない四葉は、ノルンを担ぎ、ファムに肩を貸しながら、空に飛び立つ。


 シャロンもすぐに、その後を追う。


 六人は、ゆっくりと、エントラウラへと戻っていった。




 ***




 それから、二時間後。


 エントラウラ、北部の入り口近くにて。


 そこに、二人の人影がある。


 一人は、おかっぱで目つきが悪い女性。冴場伊織だ。


 そしてもう一人は、白髪ロングの、美しい少女。ラティアである。


「お、皆が来たっすよ! おーい!」


 遠くからやって来る竜の姿を見て、ラティアと一緒に大きく手を振る伊織。


 そろそろ戻ってくるという連絡を受けていたため、ラティアと一緒に待っていたのだ。


 誘拐されていたラティアに無理をさせたくないから、本当は宿で皆の帰りを待つつもりだったのだが、その本人が迎えに行きたいという意思を見せた。宿から近いこともあり、自分から絶対に離れないという約束の元、ここに来ていたという訳である。


 シャロン達も、伊織達に気が付いたようで、真っ直ぐに彼女達の方へと降りてきた。


 そして、着陸するや否や、


「ラティア!」


 四葉が、真っ先にラティアの元へと駆け寄り――彼女を抱きしめる。


「大丈夫? 怪我は無かった?」


 周りの全員が目を丸くするのも気に留めず、四葉はラティアにそう尋ねる。


 聞かれた本人も少し驚いた様子を見せたが、すぐにコクンと頷いた。


「あ、あの……四葉ちゃん?」


 安堵の息を吐く四葉に、雅がおずおずとそう話しかける。


 刹那、油の切れたロボットのような動きで、四葉が周りを見渡し……すぐにそっぽを向く。


「ゆ、誘拐された娘を心配するのは、おかしなことでは無いでしょう? ……早く宿に行くわよ」


 そう言い放つと、誰かが何か言う前に、四葉はスタスタと、一人どこかへ去っていく。


 宿がどこか分からないはずなのだが……と、誰もが思ったが、口に出すものはいない。


(……やっぱり四葉ちゃん、ラティアちゃんのことが嫌いってわけじゃ無いみたいですね。でも、ちょっと避けている節もある。どうしたんでしょう?)


 四葉の背中を見ながら、雅はそんなことを思うのだった。

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