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第239話『雷砲』

「はぁあっ!」


 竜から人間態へと戻ったシャロン。彼女が両手を前に突き出すと、腕の周りにある十二個の雷球から電流が迸り、縦横に繋がる。


 雷球型アーツ『誘引迅雷』で、巨大な網を創り出したのだ。


 それを、葛城――人工種ドラゴン科レイパーへと飛ばす。


 だが、


「そんなもので、私を捕えられるとでもぉッ?」


 縫い目が粗い。


 人工レイパーは高笑いしながら飛翔し、その網目を悠々と通り抜ける。


 しかし、その直後。


「――ッ?」


 脳天に叩きつけられる、重い衝撃。


 装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』で、人工レイパーよりも空高く飛翔していた浅見四葉。


 彼女の踵落としが、敵の頭に直撃したのだ。


 下に広がる電流のネットに纏わりつかれながら、人工レイパーは地面に落下していく。


 それでも空中で体勢を整え、地面に上手く着地した、その刹那。


「喰らいなさいっ!」

「チィッ!」


 二発目の踵落としが、人工レイパーに迫る。


 人工レイパーは頭の角で、四葉の攻撃を受け止めると、さかさず爪を振り回して反撃。


 だが四葉はそれをバク宙で躱し、着地と同時に敵の頭部へと回し蹴りを放つ。


 だが、


「っ?」


 人工レイパーはその攻撃を腕でガードしつつ、尻尾を四葉の腹部に叩きつけ、彼女を大きく吹っ飛ばしてしまった。


 仰向けに倒れた四葉に、ブレスで止めを刺さんと、人工レイパーは口を大きく開く。


 その時、


「ッ!」


 人工レイパーの体に、緑色の突風が直撃する。


 ノルンが、魔法で攻撃したのだ。


 赤い宝石のついた、節くれだった黒い杖の『無限の明日』を振り、風を集めて作られた巨大な球体を、敵に直撃させるノルン。


 彼女の攻撃は、まだ終わらない。二発、三発と同じ魔法を放ち、それら全てを敵に当てていく。


 人工レイパーの目が、怒りに燃える。


 大したダメージは無いが、鬱陶しいと思う程度には衝撃が強かったのだ。


「こ、の……小癪なぁッ!」


 人工レイパーは攻撃を受けながらも、開いた口を、ノルンへと向ける。


 そして、炎のブレスを放とうとした、その時だ。


「ッ?」


 人工レイパーの顎に『何か』が直撃し、その口を閉じさせる。


 直撃した『何か』というのは……刃。


 人工レイパーの顎の下に丸い穴が出現し、そこから百花繚乱の刃が飛び出していた。


 これは、雅が『共感シンパシー』のスキルで使った、『アンビュラトリック・ファンタズム』というスキルによるもの。


 ワームホールを創り出し、離れた相手に攻撃が出来るスキルだ。


 雅は自分の手元と敵の顎の下を繋ぐワームホールを創り出して、敵に奇襲を仕掛けたのである。


 吐き出そうとしていたブレスは、人工レイパーの口内で爆発。


 その衝撃で、敵の意識が一瞬吹っ飛んだ。


 その意識が戻ったのは、痺れるような感触が全身に駆け巡った時。


 気が付けば、人工レイパーの胴体は、腕と尻尾ごと、電流が巻き付いていた。


 シャロンが誘引迅雷を操り、電流で縄を創って拘束したのである。


「な、舐めるなぁッ!」


 人工レイパーのパワーなら、この縄を引きちぎること等、容易。


 だが、僅かな時間でも動きを封じられれば、それで充分。


「――ッ!」


 完全に竜化したシャロンの尻尾と、ファムの飛び蹴り、真衣華の片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』による攻撃が、敵のボディに同時にヒット。


 足に力を込め、吹っ飛ばされるのは何とか堪えた人工レイパー。


 だが、


「――がッ?」


 時間差で迫っていた四葉による、腹部への掌底が、人工レイパーの体をくの字に曲げる。


 直後、四葉の左手に、エネルギーが収束する。


 衝撃波の構えだ。


 追撃の一発を放つつもりなのだろう。しかし、人工レイパーは焦らない。


 四葉の放つ衝撃波の威力は知っている。ドラゴンの鱗に傷を付けることが出来ない程度だ、ということを。


 真っ向から衝撃波を受け止め、腕で反撃すれば、四葉を沈められる……そう思った、次の瞬間。


「はっ!」

「ッ?」


 四葉は、手の平を地面へと向け、衝撃波を放った。


 爆ぜる地面。


 小さなクレーターが出来上がり、四葉諸共、人工レイパーの体は宙へと舞い上がる。


 衝撃波が通用しないことくらい、四葉も織り込み済。


 狙いは、敵の隙を生み出すこと。


 吹っ飛ばされる中で、四葉の目が、背後へと向けられていた。


 その視線の先には――真衣華に自身のアーツを投げ渡す、雅の姿。


「おのれぇッ!」


 人工レイパーは翼を広げ、空中で急ブレーキをかけると、ガッと口を開く。


 眼下には、全員の姿が映っていた。


「皆の者! 儂の後ろに!」


 何をする気か悟ったシャロンがそう叫ぶと、顎門を広げ、こちらもエネルギーを収束させる。


 そして、人工レイパーの炎と、シャロンの雷が、同時に放たれた。


 空中で激突する、二つのブレス。


 人工レイパーのブレスは、シャロン達全員を纏めて倒そうとした故に、広範囲のもの。


 一方でシャロンのブレスは、敵のブレスを突き破ろうとした故に、一点集中させたもの。


 普通なら、シャロンのブレスが、敵のブレスを貫くだろう。


 しかし、それが拮抗……否、それも一瞬。


 すぐに、シャロンのブレスの方が、僅かに押され始めてしまう。


(ぐ……力の差は、これ程とは……!)


 押し込まれる自分のブレスと、むせ返るような、土の焼ける臭いに、シャロンは顔を歪める。


 力を振り絞り、ブレスの出力を上げ――ついに、二つのブレスが爆発と共に相殺された。


 黒煙が辺りを覆い、互いの姿が見えなくなる中、人工レイパーは再び大きく口を開く。


 見えなくなったところで関係無い。広範囲のブレスを上から叩きつければ、全員を仕留められるのだ。


 しかし、その時。




「――ッ?」




 煙を突き破り、人工レイパーの腹部に、『何か』が直撃する。


 それは、翼の生えた深紅の斧。


 否。


 その翼は、剣。


 真衣華のフォートラクス・ヴァーミリアと、雅の百花繚乱の合体アーツだ。


 合体アーツは人工レイパーの腹部を、まるでドリルで貫くかのように回転しながら、敵を地上に墜落させていく。


 木霊する、人工レイパーの悲鳴。


 ドラゴンの鱗に、バキリバキリと、小さな亀裂が作られていた。


 一度シャロンに付けられ、サルモコカイアを注入し、パワーアップした際に修復された鱗。だが、実は完全に治りきっていた訳では無かったのだ。


 度重なる攻撃によるダメージが蓄積され、この合体アーツの攻撃で、再び傷が広がったという訳である。


 人工レイパーが地面に激突すると同時に、合体アーツは分解し、真衣華と雅の元へと戻っていく。


「お、の……れぇッ。……ッ?」


 人工レイパーがヨロヨロと起き上がると、その周りで、爆発音が鳴り、土煙が上がる。


 見上げれば、ファムがノルンを抱え、空中を飛んでいた。今の爆発は、羽根と風魔法を飛ばして攻撃したことによるものだ。


 しかし、その攻撃は、人工レイパーには当たらない。全て、近くの地面に向けて放たれていた。


 我武者羅に攻撃している様子ではない。明らかに、何かの狙いがある。


 そこまで瞬時に悟った、人工レイパー。


 恐らく目晦ましなのだろうとは想像出来るが、その真の目的を理解したのは、そのすぐ後、




「タバネ! いけるかっ?」

「いけますっ!」




 爆音の外から轟く、シャロンと雅の声を聞いた時だった。


 土煙の隙間から、二人の姿が見えた人工レイパー。


 シャロンは人間態に戻り、雅の側にいた。


 雅が百花繚乱の柄を曲げ、ライフルモードに変化させる。


 シャロンの両腕の周りにある雷球、誘引迅雷が、百花繚乱の方へと移っていく。


 銃身の周りで、まるでリボルバーのように高速回転し始める雷球。


 その瞬間、人工レイパーは『しまった』と目を見開いた。


 シャロンのアーツ、誘引迅雷は、『StylishArts』製。


 つまり――雅のアーツと合体が可能なのだ。


 バチリバチリと、聞くだけで震えあがるような電流の音が鳴り響き、銃口にエネルギーが溜まる。


 人工レイパーが『回避行動をとらねば』と翼を広げた時には、もう遅かった。


 雅とシャロンの合体アーツから放たれるは、雷を纏った、桃色のエネルギー弾。


 だが、それを視認出来たものはいない。


 派手な爆音と放電音と共に、重い衝撃が人工レイパーの体を襲う。


 悲鳴を上げることも忘れ、想像以上のダメージに意識を持っていかれながら、人工レイパーは弓なりに吹っ飛んでいくのだった。

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