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第236話『迅雷』

 四葉達が絶体絶命のピンチに陥っていた時。


 葛城――人工種ドラゴン科レイパーと四人の間に割り込んできた、山吹色の巨大な竜と、桃色ボブカットの少女。


 それは、


「シャロンさん!」

「ミヤビさんもっ?」


 真衣華とノルンの声がハモる。


 やって来たのは、シャロン・ガルディアルと束音雅だった。


 雅がシャロンの背中から飛び降り、シャロンの体が発光して、人間の少女の姿に変化する。


 最も、シャロンの腕は鱗に覆われ、銀色の爪が生えており、翼と尻尾も生えている状態だが。これはシャロンが人間態のまま戦う時の姿だ。


「皆さん! 無事ですかっ?」

「う、うん……私は何とか。でも――」


 ノルンの目が、他の三人に向けられる。


 敵の一撃を防ごうとした真衣華や、ブレスを受けたファムは満身創痍だ。全く動けないわけでは無いが、激しい戦闘は不可能だろう。


 そんな中、


「ふん……心配はいらない。私ならまだ戦える……!」


 あらん限りの気合を振り絞ったような声を上げたのは、四葉。


 フラフラになりながらも立ち上がろうとする辺り、驚くべき根性だと感服するノルン。


 すると、


「アサミ……じゃったかのぅ? その体では無茶じゃ」

「無茶では――」

「しばらく休んでおれ」


 決して大きな声では無いが、どこか諭すようなシャロンの言葉に、四葉はグッと唇を噛み締める。


 それでも意地で、再び口を開く。


「……まさか、あんた達二人で奴と戦うつもり? それこそ無茶よ」

「何じゃ、心配してくれるのか? 嬉しいが、動けるようなら、パトリオーラやタチバナ達の避難を頼む。お主もちゃんと体を休めよ」

「……ちっ」


 まるで「足手纏いだ」と言われているようで、悔しかった。それでも舌打ちしか出来ない自分がひどく情けないと思いながらも、言われた通りに、ファムや真衣華を担ぐ。


 感情はともかく、今の自分に出来る最善のことは、シャロンに言われたことだと理屈では理解していた。分かってしまったことも、腹立たしくて堪らない。


「アプリカッツァ。奴がクズシロか? 聞いていた情報とは、随分見てくれが違うようじゃが……」

「変身したんです! そしたら、信じられない強さになって……!」

「変身したっ? あの魔王みたいなレイパーと同じ……っ」


 戦慄の表情を浮かべる雅とは裏腹に、シャロンは納得したと言うように深く息を吐くだけ。


「気を付けて……!」


 そう言うと、ノルンは四葉と一緒に、その場を移動して行く。


 そんな彼女達を尻目に見ていたシャロンだが、人工レイパーに視線を戻すと、口を開く。


「儂が言うのも難じゃが、逃がして良かったのか? 止めを刺すつもりじゃったのじゃろう?」

「……はっ。よく言いますねぇ。あなたの体から溢れる殺気……迂闊に動けば、一気に倒しにくるおつもりだったくせに」

「なんじゃ、分かっておったか」


 四葉と話をしている最中も、シャロンに隙は無かった。


 隣の雅が、剣銃両用アーツ『百花繚乱』を構え、油断なく敵を睨んでいることもあり、葛城は動きたくても動けなかったのである。


「一応聞くが……今ここで、大人しく捕まる気は無いか?」

「シャ、シャロンさん? 何を……」

「すまん、タバネ。人工レイパーとはいえ、奴は人間。叩きのめして、いい気分はせん」


 以前、一度だけ人工レイパーと戦ったことがあるシャロン。その時は見た目が化け物だったため、戦っている最中はあまり気にならなかったが、倒した後で人間に戻ったところを見て、胸が苦しくなった。


 甘っちょろいと分かっているが、人間に暴力を振るうというのは、自分が思っている以上に忌避感を覚えているのだと、気が付かされたのである。


 仲間は派手にやられたが、まだ五体満足で生きているのだ。ならば、こいつがどんな人間でも、話し合いで解決出来るのであれば、そうしたかった。


 だが、


「捕まれと? 嫌ですねぇ!」

「……まぁ、そう言うじゃろうな」


 シャロンの言葉に、葛城が高笑いをして首を横に振ったのを見れば、覚悟を決めるしか無い。


 大きく深呼吸すると、眼を鋭く光らせ、翼を広げる。


「ならば仕方あるまい! 少し痛い目を見てもらおう! ゆくぞ、タバネ!」

「はい!」

「ふん! たった二人で、私に敵うとでもぉっ? 貴様らのデータは知っている! 方や戦闘能力の低いボンクラ! 方やアーツを持たぬ竜人! ドラゴンの力にさえ警戒していれば、負けるような相手ではありませんねぇ!」


 戦う前から、勝敗など分かりきっている。


 人工レイパーの目は、そう言っていた。


 しかし、それを聞いて――シャロンと雅は、ニヤリと笑う。


「それはどうかのう? 見くびるなよ、小童! 儂とて、何時までも竜の力に頼るだけの能無しでは無いわ!」


 そう叫んだ刹那、シャロンの右足に着いているアンクレットが輝いた。


 すると、シャロンの腕の周りに、子供の握りこぶし程の大きさの、球体が出現する。


 バチリバチリと音を立てながら、山吹色の光を発生させるそれは、雷球。


 片腕に六個。両腕合わせて、十二個。


 これは、アーツ。


 名前は『誘引迅雷』。




 シャロン・ガルディアルの、新たな力だ。

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