第235話『邪竜』
突如、激しく発光し始めた、人工種蛇科レイパー。
四葉、ファム、真衣華、ノルンの四人が腕で顔を覆う中、人工レイパーはその姿を変えていく。
光は段々と強くなり、エネルギーが体から溢れ始め、衝撃波となって四人を襲う。
「み……皆! 私の後ろに!」
真衣華が前に出ると、片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を盾にして、その衝撃波を防いでいく。
自身のスキル『鏡映し』を発動し、アーツを二挺にして、足にグッと力を込める真衣華。
フォートラクス・ヴァーミリアは頑丈さが売りのアーツだ。激しい衝撃波であっても、壊れることは無い。
だが、それを操る真衣華の腕は、衝撃に痺れ、気を抜けばアーツが吹っ飛ばされそうになっていた。
「あなた達! こっちに来なさい!」
四葉がファムとノルンを抱くと、懐に収めて敵に背中を向ける。
装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』も、防御力が高いアーツ。生身の二人を、自分自身を盾にして、真衣華が防ぎきれない衝撃波から守っていた。
四人にとっては長く感じた衝撃波の猛攻だが――実時間にして、僅か数秒でそれは止む。
そして、
「ふふふ……ははははは。お待たせしましたよぉ?」
余裕綽々の声が聞こえ、四人がそちらを向き、息を呑む。
蛇の顔をした人工レイパーは、もうそこにはいなかった。
いたのは、黒い鱗が全身を覆い、翼が生えた化け物だ。
頭部は相変わらず歪だが、長く、やや捻じれた角が生えている。鰐の頭をした手も無くなった代わりに、くすんだような銀色の爪が伸びていた。
まるで邪悪な竜のような相貌だ。
改めて分類するならば、『人工種ドラゴン科レイパー』といったところか。
「へ、変身……した……?」
「嘘でしょ? あいつじゃないんだからさ……!」
その姿を見て、真衣華とファムの頬に冷や汗が流れ落ちる。
過去に戦ったレイパーで、合体する敵はいたが、このように変身をする奴など、他に一体しか知らない。
そう、魔王種レイパーだ。多くの人を殺し、真衣華やファム達を含めて十二人で戦ってもなお、完全に撃破しきれなかったレイパーである。
そいつと同じことを、葛城もやってのけたのだ。ビビるなと言う方が、無理な話だった。
人工種ドラゴン科レイパーは、首をコキコキと鳴らし……ニヤリと笑みを浮かべる。
「さぁて……先程の礼を、たっぷりとして差し上げましょうねぇ。まずは――」
「――っ!」
刹那、鋭い殺気が四葉に迫る。
ヤバい、と思った瞬間には、四葉は吹っ飛ばされていた。
人工レイパーが一瞬で近づき、腹部に攻撃を叩き込んだのだと分かったのは、その後。
呆気に取られた真衣華に、人工レイパーは尻尾を叩きつける。
「ぐっ!」
辛うじてアーツで攻撃を防いだ真衣華だが、そのあまりのパワーに、大きく仰け反らされてしまう。
「はっ!」
一足早く攻撃体勢に移ったノルン。赤い宝石のある杖型アーツ『無限の明日』を振るい、緑風を集めて作られた、巨大な球体を、敵に直撃させる。
しかし……人工レイパーに、ダメージは無い。
さらに、何事も無かったかのように大きな口を開け、ノルンに向けて炎のブレスを放った。
「ノルンっ!」
ファムが慌ててノルンを抱え、防御用アーツ『命の護り手』を発動させながら、翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』を全力で羽ばたかせ、ブレスから逃げていく。
だが、広範囲に放たれた炎を完全に避けるのは、無理があった。
「うぁぁぁあっ!」
「ファムっ?」
炎が僅かに足に触れた瞬間、あっという間に全身に広がっていき、堪らずファムは悲鳴を上げる。
命の護り手のお蔭で火傷することは無いが、痛みまで完全にシャットダウンすることは出来なかったのだ。
「ファム! ファムっ?」
「だ、大丈夫……でも、あの炎ヤバい! まともに喰らったら、終わりだ!」
以前、強力な炎攻撃を命の護り手で防ぎ切ったことがあるファム。
それだけ、この人工レイパーの攻撃が凄まじいと理解した。
人工レイパーが、二人に止めを刺さんと、再び口を開いた時、
「葛城ぉぉぉおっ!」
横から四葉の、強烈な跳び蹴りが直撃する。
僅かに体が揺らぐが、効いた様子は無い。
それでも、四葉は間髪入れずに、蹴りや拳を、嵐のように敵に叩き込んでいく。
「はっ!」
最後に衝撃波を叩きつける四葉。
しかし、
「……効きませんねぇ!」
人工レイパーの体は、無傷。その防御力の高さに、四葉は顔を強張らせる。
お返しと言わんばかりに放たれる、レイパーの拳。
二度も直撃はしまいと、四葉は腕をクロスさせてその一撃を受ける……が、
「ぐぅっ?」
プロテクター越しにも拘らず、腕が折れたと錯覚する程の衝撃を受け、呆気なく吹っ飛ばされてしまった。
すると、
「はぁっ!」
ノルンの声が轟くと同時に、人工レイパーの方へと、緑風を集めて作られた、巨大なリングが襲い掛かる。
切断性に富んだ、ノルンの最大魔法だ。
だが、その攻撃が直撃すると思った、その刹那。
「――っ!」
ノルンのスキル『未来視』が、ノルンに危険を知らせる。
彼女はファムを抱え、慌ててその場から横っ跳びするのと、人工レイパーが腕を振って、ノルンの魔法を弾き返すのは同時。
跳ね返された魔法は、先程までノルンがいたところの地面に落下し、地面を爆発させた。
「きゃぁっ!」
スキルのお蔭で直撃こそしなかったものの、その衝撃に吹っ飛ばされるノルンとファム。
「ぅっ!」
「くっ……って、ヤバいよ、ノルン!」
「えっ? ……っ!」
ノルン達が吹っ飛ばされた先には、四葉を抱えた真衣華もいた。
真衣華は、焦ったような顔で、人工レイパーの方を見ている。
敵は適当に攻撃しているように見せて、上手く四人を一か所に集めていたのだ。
そして、空に舞い上がる人工レイパー。
ノルンの『未来視』が再び彼女に危険を知らせるが、それが無くても、すぐに動かなければマズいと、ノルンは直感していた。
「皆! 私の近くに! 師匠のように上手く出来ないかもだけど……!」
そう指示を出しながら、ノルンは杖を振るうと、緑風が集まり、巨大なドーム状の盾が出来上がる。
直後、人工レイパーから放たれる、炎のブレス。
炎がノルンの盾に激突。
激しい熱に、汗をダラダラと零しながらも、ノルンは杖を振って、炎を脇へと受け流していく。
まともに防ぐことは不可能。何としてでも攻撃を逸らさなければ、あっという間に盾は壊れ、ノルン達は焼き尽くされてしまうだろう。
故に、ノルンも必死だ。必死で風を操っていた。
そして、
「――よしっ、凌ぎきったっ! ……っ?」
辛うじて炎を捌いたノルンだが、その視界に、恐ろしい光景が映る。
既に人工レイパーが、拳を振り上げ、目の前まで迫っていたのだ。
ブレスを防がれることを、人工レイパーは読んでいたのである。
「ノルンちゃん! 下がって!」
真衣華が慌ててノルンの前に出て、命の護り手を発動させると同時に、フォートラクス・ヴァーミリアを構える。
盾にされたアーツに打ち込まれる、人工レイパーの強烈な拳。
「ぁっ!」
「わっ!」
「きゃっ!」
「ぐっ!」
その威力は地面を抉り、アーツ諸共、四人を大きく吹っ飛ばしてしまう程。
倒れた四人は、起き上がろうともがくのが精一杯なくらい、大きなダメージを受けていた。五体満足なのは、奇跡に近い。
「はっはっは! どうしましたぁ、四葉嬢? 『四人なら必ず勝てる』等と仰っていましたが……随分なご様子ですねぇ!」
「くっ……この……!」
ギリっと奥歯を鳴らす四葉。葛城が変身出来るとは知らず、しかもここまでパワーアップするとは、全くもって予想もしていなかった己を、激しく責めていた。
「他愛もありませんねぇ……。さぁ、止めですよぉ!」
上機嫌にそう叫ぶと、人工レイパーは再び、大きく口を開ける。
ブレスを放ち、今度こそ止めを刺そうというつもりだ。
今、あのブレスを放たれたら終わり。そんなことは、誰もが分かっている。
だが、体が思うように動かない。
万事休すか、と、四人が歯を喰いしばった、その瞬間。
「そうはさせん!」
空気を震わせるような咆哮が轟き、豪風と共に、人工レイパーと四葉達の間に、山吹色の鱗を持った巨大な竜が割り込んできたのだった。
その背中に、桃色の髪をした少女を乗せて。
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