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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第26章 エントラウラ
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第26章幕間

「正直、助かったわ。ありがとう」


 人工種キンシコウ科レイパーを倒し、その変身者である男を拘束した後、四葉はファムとノルンにそっぽを向きながら、お礼を言う。


「子供だと侮っていなのは詫びる。ごめんなさい」


 敵の如意棒の奇襲を読めなかったのは自分の落ち度。それをファムとノルンにフォローしてもらったのだ。己を恥じねばならいと、四葉は心の中で苦い顔をした。


「もー、しょーがないなー。後でご飯でもおごってくれるなら、許してあげてもいいよ」

「こら、ファム! 調子に乗らないの! ……すみません、ヨツバさん。こんな娘で」

「ちょっと、なにさノルン。母親みたいなこと言わないでよ」

「そう思うなら、もっと年相応な大人な対応とりなよ、もう」

「……ふふっ」


 二人のやり取りに四葉が僅かながらも笑みを零し、ファムとノルンが目を丸くする。


 その視線に気が付いたのか、四葉は慌てて咳払いをすると、わざとらしく、広間の隅にいる真衣華へと目を向けた。


 すると、二人は「あっ」と声を上げる。


「いっけない。マイカのこと、すっかり忘れてた」

「ちょっとファム! 失礼でしょ、もう! ほら、行くよ!」


 人工レイパーの攻撃でダウンした真衣華。『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』で防御していたから無事だろうが、介抱は必要だろう。


 ファムとノルンが慌てて彼女の元に向かい、四葉も少し遅れてそれに続こうとした、その時だ。


「……うぅ」

「あら、もう起きたの? 案外タフね、あなた」


 気を失っていた男が目を覚ましたのだ。


 少し休んだら、無理矢理にでも叩き起こそうと思っていたのだが、手間が省けた。


「お、俺は……倒されたのか……?」

「ええ。少し苦戦させられたけどね。それより、色々教えてもらうわよ。口を噤んだら……分かっているわよね?」


 四葉が、男に見せつけるように拳を握りしめる。


 男は一瞬眉を寄せたが、やがて観念したように息を吐いた。


「知っていることは全て教えよう。だがその前に、場所を変えさせてくれないか? 恐らくもう少ししたら、俺を始末しにくる人間がやって来る」

「安原と同じように、口封じされるって訳ね。自業自得だと思うけど、いいわ。大人しくこちらに従うと言うのなら、奴らから守ってあげる」

「俺の懐にULフォンがある。それを壊すなり捨てるなりすれば、彼らは追ってこられない。頼む、助けてくれ」


 あっさりと頭を下げた男に、侮蔑の目を向けた四葉だが、溜息を吐くと、男の懐に手を突っ込むのだった。




 ***




 その十分後。


 別の裏路地の一角にて、四葉達は、拘束されたままの男から、話を聞かされていた。


 葛城がウラに来たのは、今から三日前。


 ライナと四葉と戦い、そのすぐ後、ウラ行きの船に乗り込んだそうだ。


 目的は、自身のパワーアップのため。


「『サルモコカイア』という植物がある。ウラの北部の、極一部の地域にしか分布していない、珍しい植物だが……それにのみ含まれている成分が、葛城の身体能力を上げることが分かった」

「葛城は、どうやってそのことを知ったの?」

「聞いた話では、久世が隠し持っていた資料を盗み見て知ったらしい。久世がなんでそんなことを知っていたのかは分からないが……。ただ、葛城は言っていた。『久世は、私が力を付けることを恐れて、敢えてこの情報を教えなかった』と」


 それまでは久世に従順だった葛城だが、その一件で、自分が久世に良いように扱われていると思うようになったと、男は続ける。


「それから、葛城が久世を、トップの座から引きずり降ろそうとするようになったって訳ね」

「元から、割と野心家だったがな。従順だった時も、いずれ久世が退いた際は、自分がトップになるのだと触れ回っていた。……とにかく、こっちに来た俺達は、そのサルモコカイアを入手しはじめた。もう一人仲間がいるが、そいつと手分けしてな」

「え? まだ仲間がいるの? そいつはどこに?」


 真衣華の驚く声に、男は頷く。


「そいつはサルモコカイアが生えている場所にいるはずだ。まだ少ししか採取出来ていないから、今も探していると思う」

「ん? あんたも一緒に探してないの?」

「あ、そうだよね。なんでここに? ウラの北にしか生息していないんでしょう?」


 ファムとノルンが、揃って首を傾げる。てっきり、この男も仲間と一緒に、サルモコカイアを探しているものと思っていたのだ。


「俺は、そいつから貰ったサルモコカイアを、この辺りにいるマフィアみたいな奴らに渡しているんだ。そいつらがサルモコカイアを加工して、その時に琥珀色の液体が出る。葛城が欲しがっているのはそれだ」


 一方で、マフィアの方はその液体は捨ててしまう。葛城がそれを貰えば、廃棄する手間が省けるということで、互いの利害が一致したのである。


「お仲間が材料を確保して、あんたが加工屋と取引、そして葛城に受け渡しするってことね。大体分かったわ。さて、その葛城はどこに行ったの?」

「多分。隠れ家に戻ったと思う。場所は――」


 男がそう言って示したのは、ここから北上したところにある、荒野。


 丁度、ウラの真ん中辺りである。


「いくら葛城でも、ここまで行くのに一時間は掛かるはずよね。今から向かえば、待ち伏せできるはず……。よし、あなた達、行くわよ!」

「あれ? 連れて行ってくれるんだ」

「ふん。どうせ止めたところで、着いてくる気でしょう? 仕方ないから、許してあげるわ」

「全く、素直に『一緒に戦って欲しい』って言えばいいのに……」

「ファム、しー!」


 ニヤニヤと呟くファムに、ノルンが窘めるような視線を向けるが、当の本人には聞こえていない。


 男をその場に残し――後で雅達に回収してもらうよう、伝えてある――四葉達は葛城の隠れ家へと飛び立つのであった。

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