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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第26章 エントラウラ
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第232話『麻薬』

 四葉達が人工種キンシコウ科レイパーと戦っている頃、雅達はというと。


「うわ……これ、人身売買の記録ですね。こっちは貸金の帳簿かな?」

『ちょっと見せて。――完全に暴利ね。呆れたもんだわ、全く』


 アジトの一室にあるデスクに、様々な書類を広げながら、雅は渋い顔をする。


 雅の言葉に答えたのは、レーゼ。ULフォンのビデオ通話で、彼女と話をしていた。


 ラティアを攫った犯人を尋問したところ、人攫い以外にも色々と悪いことに手を染めていると白状したのだ。所謂マフィアという連中だった。


 ファミリーは全員拘束しており、伊織がラティアを連れて、エントラウラのバスターを呼びに行っている。


 その間、雅はレーゼと連絡を取りながら、アジトを調べている、というわけだ。


『クズシロを追ってきたっていうのに、面倒なことに巻き込まれちゃったわね。でも、大手柄よ。そっちのバスターが大喜びするわ、きっと』

「探せば探す程、目玉が飛び出るようなものが出てきますもんね……。さて、向こうの棚は……えっと、これは……植物ですね。観葉植物っぽい感じじゃないですけど、なんだろう?」


 まるで、日干しした笹のような見た目の植物が、棚一杯に置かれていたのだ。


 無臭だが、雅は本能的に、それが『危ないもの』だと悟り、思わず一歩後ろに下がる。


『ふぅん、どんなの? ――って、ちょっとミヤビ! それ、絶対触っちゃ駄目よ!』

「おぉぅ! いきなり大声出さないでくださいよ、レーゼさん。ビックリしちゃったじゃないですか」


 怒ることも多いレーゼだが、今のはあまり聞いたことのない声で、珍しく雅も文句を垂れた。


『あぁ、ごめん! それ、薬なのよ。と言っても、病気を治すものじゃないわ』

「あ……もしかして、麻薬ですかっ? 危ない薬というか……」

『あぁ、あなた達の世界にも同じようなものがあるのね! なら話は早い。そうよ、そういった類の物なの。この連中、薬の売買にまで手を染めていたのね!』


 憤るレーゼの言葉に、雅は改めて棚を見渡す。


 ざっと数えると、この麻薬の数は三十。量は少ないが、今回初めて集めたわけでは無いだろう。これまでどれだけ捌いたのか、想像もしたくない。


『ミヤビ、近くに帳簿は無い? 売買のリストがあれば、使用者もまとめて摘発出来るわ』

「ええっと、帳簿帳簿……あ、あった。これだ。――ん? この名前……」


 棚の隅に仕舞われた帳簿を手に取り、何気無く中を確認した雅だが、そこで目を丸くする。


 そこに記載されていた名前の一つが、どう見ても、日本人の名前だ。しかも、購入したのはここ数日である。


 自分達の他に来ている日本人なんて、心当たりは一つしかない。


 そう、葛城の仲間である。




 ***




「あぁ? ……あぁ、こいつか。よく覚えているよ。妙な依頼をしてきたからね」


 五分後、マフィアのボス――商人のフリをして雅達を騙そうとしていた女だ――に、尋ねたところ、そう言われ、雅は首を傾げる。


「妙な依頼? 薬を買ったんじゃないんですか?」

「いや、違う。あの薬は『サルモコカイア』という植物から作られるんだが、この男はそれを持ってきて、加工してくれと頼んできたのさ。しかも、出来上がった薬じゃなくて、その時に出る琥珀色の煮汁が欲しいなんて言うんだよ」

「煮汁……ですか?」

「そうそう。普段は廃棄しろと厳命されている液体なんだがね。そんなもん、何に使うんだか」


 煮汁には興奮作用等は無く、おまけに薬の方は貰ってくれて構わないと言われた。


 断る理由も無かったので承ったが、今にして思えば、少々怪しい話だった気がして、マフィアのボスは眉を寄せる。


 だが、雅は彼女の言葉を聞いて、さらに頭に『?』を思い浮かべた。


「絶対処分しろと厳命された? 誰にですか?」

「前のボスからさ。理由は教えてくれなかった……と言うか、ボスも知らなかった。そのボスも、その前のボスから聞かされていたみたいだね」


 そんな訳の分からない命令に従っているのは、それを守らなかったことで、ボスにひどく拷問されたことがあるからだと、彼女は言う。


「一応、物のやりとりはしたんで、帳簿には載せておいたってわけさ。それだけだよ」

「……レーゼさん、どう思います?」

『話を聞く限り、何か嫌な予感はするわね……。本当に何も効果の無いものを欲しがるとは思わないわ。それにサルモコカイアって確か、中々手に入らない希少な植物だったはずよ。どこで手に入れたのかしら?』

「入手経路については気にはなったけど、そこまで詮索なんざしちゃあいないね。――ところで嬢ちゃん、随分と面白いもんを持っているじゃないか。あんたの住む国で売っているのかい?」

「ULフォンですか? ええ、日本で普通に販売されていますね。……あ、欲しくてもあげませんよ。ちゃんと罪を償ってから、真っ当に稼いだお金で買ってください」

「おいおい、まだ何も言っちゃいないだろう? まぁ、欲しいのは事実だけど。……なぁ嬢ちゃん、ところで相談なんだが、この拘束を解いてくれんか? ちょっと体が痛くなってきてねぇ」

『ミヤビ、絶対解くんじゃないわよ。いい? 絶対だからね』


 いきなり話を変えてきたと思ったら、とんでもないことを言い出してきたマフィアのボスに、レーゼは怒りを通り越して呆れた口調になる。


「横から口を出すんじゃないよ。私は嬢ちゃんと話をしているんだからねぇ。なあ頼むよ、後生だ」


 いかにも演技臭そうに、辛そうな顔になる彼女に、雅は思わず苦笑いを浮かべた。一周回って、大したものである。


「そんなことを言われても、駄目ですからね?」

「……ちぇー、駄目かい! 嬢ちゃん、ちょっと甘そうな感じだったから、いけると思ったんだけどねぇ」

「あ、あははは……」


 最早乾いた笑い声しか出てこない雅。


『……絶対に捨てろと厳命、か』


 マフィアのボスを無視することに決めたレーゼは、一人でそんなことを呟く。


 レーゼはそこが、最も気になっていた。知らないと、何かとんでも無いことを引き起こすのではないか……バスターの勘が、そう告げていた。







 そしてこの謎を、この時解明出来なかったことを、レーゼも雅も、後で大きく悔やむことになる。

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