第230話『猿麒』
「奴をぶちのめして、情報を聞き出すわよ」
四葉がそう言った直後、彼女の全身に銀色のプロテクターが装着される。
装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』だ。
真衣華は「分かった」と言うと、片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を出して、走り出す準備をする。
ファムとノルンも、翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』と、杖型アーツ『無限の明日』を出した
だが、
「念の為、真衣華だけ手伝ってくれれば良いわ。子供二人はここにいなさい」
二人にピシャリとそう言う、四葉。
すると、ファムが少し頬を膨らませる。
「また子供扱いした。止めてよ、そういうの」
「足手纏いが増えたら、倒せる敵も倒せなくなる」
「はぁ?」
「ちょっとファム、落ち着いて。――ヨツバさん、私達も戦います」
ノルンがファムを止めつつも、四葉に強い光を宿した瞳を向ける。
「私もファムも、遠距離攻撃が出来るんです。これなら邪魔にもならないでしょう? 止めても、無理矢理にでも戦いにいきますからね」
「…………」
有無を言わせぬ力強い言葉に、四葉も黙る。ノルンも実は、四葉に子供扱いされるのは面白くなかったのだ。
「ねぇ、四葉ちゃん。私も、二人の手を借りるべきだと思う。ちゃんと戦える娘達だし、遠距離攻撃に徹してもらえれば、いざという時は逃げてもらえるんじゃない?」
「……はぁ、分かったわよ。好きにしなさい」
真衣華のフォローに、仕方ないと言わんばかりに溜息を吐く四葉。
ファムとノルンの必要性を理解したわけでは無い。ただこれ以上の議論は、時間の無駄だと思っただけだ。
「じゃあ、行くわよ!」
言うや否や、四葉が動き出す。
マグナ・エンプレスの飛行能力を使い、猛スピードで男を通り過ぎる四葉。降り立ったのは、自分達がいた通路とは反対側の通路の出入口だ。
丁度、広間の二か所の出入口を、四葉と真衣華達で塞いだ形だ。
「っ? 何だ、お前達はっ?」
「あなた、葛城の仲間よね。知っていることを教えてもらうわ!」
「葛城様の邪魔をする奴……そうか、お前が四葉という女か……! おのれ!」
四人の存在に気が付いた男は、その顔を驚愕に染めながらも、ぐにゃりとその姿を歪ませる。
現れたのは、
「ふん、相変わらず、変な形をするわね」
「ちょ、な……なに、あれ? 何の動物っ?」
後頭部が大きく膨らんだ、異常な形状の頭。上半身は、橙色の毛皮を持ったサルのようだ。足はシマウマのように白と黒の横縞模様になりながらも、二つに分かれた蹄がある。
サルとシマウマとは少し違う感じがして、真衣華は眉を寄せた。四葉はそれに答えないが、偶然知識として持っていた、ある動物が思い浮かぶ。
珍獣とされる、キンシコウとオカピだ。
分類は『人工種キンシコウ科』といったところか。
真衣華はフォートラクス・ヴァーミリアを構え、四葉と人工レイパーは腕を上げて腰を少し落とす。
二人の背後では、ファムとノルンが息を呑んだ。
僅かな沈黙。
だが、次の瞬間、
「――っ!」
人工レイパーの姿が消えたと思った瞬間、四葉の背中に、何か硬い物を叩きつけられたような、強い衝撃が走る。
敵の肘打ちが直撃したのだと気が付いたのは、その直後。
「四葉ちゃんっ!」
真衣華が慌てて斧を振りかぶり、人工レイパーに突撃するも、再び敵の姿が消える。
「どきなさい! ――くっ……!」
四葉が真衣華に近づき、彼女を突き飛ばした刹那、彼女の腹部に、人工レイパーの膝が撃ち込まれる。
痛みを堪え、反撃しようとした彼女だが、既に敵の姿はそこには無い。
「きゃっ!」
「何っ?」
背後から悲鳴が聞こえ、振り向くも、そこには仰向けに吹っ飛ばされた真衣華の姿しかない。
敵はヒットアンドアウェイをしているだけだ。なんと恐ろしい瞬発力であろうか。
「ノルンっ! 何とかならないのっ?」
「……駄目! 敵が速すぎて、狙いが付けられない!」
ノルンが無限の明日を構えながらも、苦悶に顔を歪める。
この速度で動かれては、魔法を放っても当たらないばかりか、四葉と真衣華の動きの邪魔をしてしまうだろう。
ならば、だ。
「ファム! 動きは止められなくても、自由に動き回れなくすることは出来る?」
「それはキツいけど……近いことなら、出来るかも!」
言うと、ファムは空高く飛翔し、シェル・リヴァーティスから二十発もの羽根を、地上に向けて飛ばす。
小さな爆発音と共に巻き上がる、土煙。
「マイカっ!」
「っ! そっか!」
ファムの意図に気が付いた真衣華は、フォートラクス・ヴァーミリアを構え、意識を目に集中させる。
ピクリと、真衣華の眉が動いた。
敵の動きが、今は分かる。
相変わらず俊敏に動き回っているが、人工レイパーが通った後は、土煙が晴れていた。
ジグザグに動きながらも、真衣華の背後に回り込まんとする、その動きが。
「そこだ!」
そう叫ぶと同時に、真衣華は振り向き様に斬撃を放つ。
動きが分かれば、攻撃のタイミングも合わせやすい。
決まった! と思った、その瞬間。
「っ?」
人工レイパーは跳躍し、真衣華の斬撃を寸前のところで躱してしまう。
真衣華がしまった、と思った、その直後。
「はっ!」
空中の人工レイパーに、四葉の放った衝撃波が直撃する。
敵の動きが見えていたのは、真衣華だけでは無かったのだ。
大きく吹っ飛ばされた人工レイパーが、地面に背中を打ち付けるのと同時に、敵に向かって四葉は猛スピードで飛び掛かる。
「調子に乗るんじゃないわよ!」
上半身を起こした人工レイパーの頭部を殴りつけ、間髪入れずに蹴りをお見舞いして空中に浮かせると、頭上で両手を組み、敵の背中に叩きつけながら叫ぶ四葉。
地面に伏した人工レイパーに、さらなる追撃をせんと拳を振り上げた、その時。
「ヨツバさん! そいつから離れて!」
ノルンの言葉が響く。
その切羽詰まった声に、本能的に危機を感じた四葉が、思わず後方へと跳び退いた刹那。
「――っ?」
どこからともなく、彼女の腹部に、何かが直撃した。
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