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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第26章 エントラウラ
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第230話『猿麒』

「奴をぶちのめして、情報を聞き出すわよ」


 四葉がそう言った直後、彼女の全身に銀色のプロテクターが装着される。


 装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』だ。


 真衣華は「分かった」と言うと、片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を出して、走り出す準備をする。


 ファムとノルンも、翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』と、杖型アーツ『無限の明日』を出した


 だが、


「念の為、真衣華だけ手伝ってくれれば良いわ。子供二人はここにいなさい」


 二人にピシャリとそう言う、四葉。


 すると、ファムが少し頬を膨らませる。


「また子供扱いした。止めてよ、そういうの」

「足手纏いが増えたら、倒せる敵も倒せなくなる」

「はぁ?」

「ちょっとファム、落ち着いて。――ヨツバさん、私達も戦います」


 ノルンがファムを止めつつも、四葉に強い光を宿した瞳を向ける。


「私もファムも、遠距離攻撃が出来るんです。これなら邪魔にもならないでしょう? 止めても、無理矢理にでも戦いにいきますからね」

「…………」


 有無を言わせぬ力強い言葉に、四葉も黙る。ノルンも実は、四葉に子供扱いされるのは面白くなかったのだ。


「ねぇ、四葉ちゃん。私も、二人の手を借りるべきだと思う。ちゃんと戦える娘達だし、遠距離攻撃に徹してもらえれば、いざという時は逃げてもらえるんじゃない?」

「……はぁ、分かったわよ。好きにしなさい」


 真衣華のフォローに、仕方ないと言わんばかりに溜息を吐く四葉。


 ファムとノルンの必要性を理解したわけでは無い。ただこれ以上の議論は、時間の無駄だと思っただけだ。


「じゃあ、行くわよ!」


 言うや否や、四葉が動き出す。


 マグナ・エンプレスの飛行能力を使い、猛スピードで男を通り過ぎる四葉。降り立ったのは、自分達がいた通路とは反対側の通路の出入口だ。


 丁度、広間の二か所の出入口を、四葉と真衣華達で塞いだ形だ。


「っ? 何だ、お前達はっ?」

「あなた、葛城の仲間よね。知っていることを教えてもらうわ!」

「葛城様の邪魔をする奴……そうか、お前が四葉という女か……! おのれ!」


 四人の存在に気が付いた男は、その顔を驚愕に染めながらも、ぐにゃりとその姿を歪ませる。


 現れたのは、


「ふん、相変わらず、変な形をするわね」

「ちょ、な……なに、あれ? 何の動物っ?」


 後頭部が大きく膨らんだ、異常な形状の頭。上半身は、橙色の毛皮を持ったサルのようだ。足はシマウマのように白と黒の横縞模様になりながらも、二つに分かれた蹄がある。


 サルとシマウマとは少し違う感じがして、真衣華は眉を寄せた。四葉はそれに答えないが、偶然知識として持っていた、ある動物が思い浮かぶ。


 珍獣とされる、キンシコウとオカピだ。


 分類は『人工種キンシコウ科』といったところか。


 真衣華はフォートラクス・ヴァーミリアを構え、四葉と人工レイパーは腕を上げて腰を少し落とす。


 二人の背後では、ファムとノルンが息を呑んだ。


 僅かな沈黙。


 だが、次の瞬間、


「――っ!」


 人工レイパーの姿が消えたと思った瞬間、四葉の背中に、何か硬い物を叩きつけられたような、強い衝撃が走る。


 敵の肘打ちが直撃したのだと気が付いたのは、その直後。


「四葉ちゃんっ!」


 真衣華が慌てて斧を振りかぶり、人工レイパーに突撃するも、再び敵の姿が消える。


「どきなさい! ――くっ……!」


 四葉が真衣華に近づき、彼女を突き飛ばした刹那、彼女の腹部に、人工レイパーの膝が撃ち込まれる。


 痛みを堪え、反撃しようとした彼女だが、既に敵の姿はそこには無い。


「きゃっ!」

「何っ?」


 背後から悲鳴が聞こえ、振り向くも、そこには仰向けに吹っ飛ばされた真衣華の姿しかない。


 敵はヒットアンドアウェイをしているだけだ。なんと恐ろしい瞬発力であろうか。


「ノルンっ! 何とかならないのっ?」

「……駄目! 敵が速すぎて、狙いが付けられない!」


 ノルンが無限の明日を構えながらも、苦悶に顔を歪める。


 この速度で動かれては、魔法を放っても当たらないばかりか、四葉と真衣華の動きの邪魔をしてしまうだろう。


 ならば、だ。


「ファム! 動きは止められなくても、自由に動き回れなくすることは出来る?」

「それはキツいけど……近いことなら、出来るかも!」


 言うと、ファムは空高く飛翔し、シェル・リヴァーティスから二十発もの羽根を、地上に向けて飛ばす。


 小さな爆発音と共に巻き上がる、土煙。


「マイカっ!」

「っ! そっか!」


 ファムの意図に気が付いた真衣華は、フォートラクス・ヴァーミリアを構え、意識を目に集中させる。


 ピクリと、真衣華の眉が動いた。


 敵の動きが、今は分かる。


 相変わらず俊敏に動き回っているが、人工レイパーが通った後は、土煙が晴れていた。


 ジグザグに動きながらも、真衣華の背後に回り込まんとする、その動きが。


「そこだ!」


 そう叫ぶと同時に、真衣華は振り向き様に斬撃を放つ。


 動きが分かれば、攻撃のタイミングも合わせやすい。


 決まった! と思った、その瞬間。


「っ?」


 人工レイパーは跳躍し、真衣華の斬撃を寸前のところで躱してしまう。


 真衣華がしまった、と思った、その直後。


「はっ!」


 空中の人工レイパーに、四葉の放った衝撃波が直撃する。


 敵の動きが見えていたのは、真衣華だけでは無かったのだ。


 大きく吹っ飛ばされた人工レイパーが、地面に背中を打ち付けるのと同時に、敵に向かって四葉は猛スピードで飛び掛かる。


「調子に乗るんじゃないわよ!」


 上半身を起こした人工レイパーの頭部を殴りつけ、間髪入れずに蹴りをお見舞いして空中に浮かせると、頭上で両手を組み、敵の背中に叩きつけながら叫ぶ四葉。


 地面に伏した人工レイパーに、さらなる追撃をせんと拳を振り上げた、その時。


「ヨツバさん! そいつから離れて!」


 ノルンの言葉が響く。


 その切羽詰まった声に、本能的に危機を感じた四葉が、思わず後方へと跳び退いた刹那。


「――っ?」


 どこからともなく、彼女の腹部に、何かが直撃した。

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