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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第26章 エントラウラ
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第227話『失踪』

 エスティカ大陸の西にある国『ウラ』。


 国土は同じ大陸にあるオートザギアより一回り小さい。全体的にカラッとした気候で、砂漠が多いのが特徴だ。


 ウラの沖合は岩礁が多く、港が無い。


 故に雅達は、一旦オートザギアで下船した後、ユニコーンが引く馬車を使って北上し、ウラの南にある街『エントラウラ』の近くまでやって来た。


 そして現地時間にて、八月二十五日の十一時十二分。


「やっと到着しましたー!」


 馬車から降りた雅が、伸びをしながらそう叫ぶ。


 離れたところに、石壁で周りを囲まれた街が見えるが、そこまでは砂漠が続く。砂に足を取られそうで、ちょっと気を付けないと、と思った雅。


 すると、


「うぉい雅ちゃん! 駄目っす、あんまり目立つとまずいっすよ」

「おぉっと、そうでした。すみません」


 後ろから馬車を降りてきた伊織の、どこか慌てたような言葉に、雅はすぐに自分の軽率な行動を反省する。


「ここら辺、あんまり治安が良くないんだっけ?」

「ええ。都心辺りなら安全なんですけど、郊外だと盗賊もいるんです。馬車が相手でも、平気で襲ってくることもあるみたいですよ」

「車掌さんからも、気を付けるように忠告されたしねー。注意しないと」


 真衣華とノルンが、渋い顔でそんな会話をすると、ラティアが少し不安そうな顔で、辺りを見渡した。


 馬車でさえ襲われる可能性があるせいで、ここから先は、徒歩で街まで行かなければならない。


 そんな馬車だが、雅達が全員降りたところで、すぐに次の街へと出発した。


 ファムが馬車の後姿と、街の方を交互に見ると、首を傾け、口を開く。


「アサミコーポレーションは、よくこんな国と、アーツの取引をしようって思ったね」

「こんな国だからよ。護身用にもなるから、需要もあるはずだって思ったの。実際、取引に応じた商会もあったのだから、その考えは正しかったでしょうね」


 四葉がそう答えてから、深く息を吐く。


 大きい取引になるはずだったのだが、それも葛城のせいで、一旦中止になってしまった。改めて、葛城に対してイライラが募る四葉。


「結局、日本国内では葛城は見つからなかった。奴が計画を進めるなら、この国のどこかに潜伏している可能性が高いわ。とっとと探し出して、とっ捕まえないと」

「取り敢えず、急ぐっす。何だか嫌な気配もするっすからね」


 伊織が、辺りを見渡しながらそう言った。


 岩の陰などに、誰かが隠れているような感じがしたのだ。恐らく雅達の隙を突いて、荷物等を奪おうとしているのだろう。


 事前情報の通り、確かに治安は悪そうだと、伊織は気を引き締める。アーツを持っているとは言え、無用な争いは避けるべきだ。


 伊織を先頭に、皆で固まって街へと向かう一行。


 検閲を通り、中へと通されたところで、彼女達はホッと息を吐いた。


 街は多くの人が行き交っており、頭が痛くなる程に喧噪に包まれていた。


 外に出ていく人は皆無だが、街の奥に向かう人は多い。街の外れでこんなにうるさいなら、中心部はどうなっているのか、あまり想像もしたくなかった。


「ちょっと歩いただけなのに、凄く疲れた……。なんか飲まない?」


 砂漠の空気と暑さ、そして緊張感からか、ぐったりとした顔でファムがそう提案をした。


 無論、誰も反対する者はいない。


 すると、


「おや、何だか珍しい恰好の人だねぇ。喉が渇いているなら、一杯どうだい?」


 荷馬車が通りかかり、御車台から女性の声が聞こえてきた。


 異世界では珍しく、御車台を二頭の馬が引いている。


 どうやら、今のファムの言葉が聞こえたらしい。


「おぉぅ。まさか声を掛けてくれるなんてありがてーっす。丁度良いタイミングっすね。何があるっすか?」

「飲み物は水とお茶、トフレシュ。つまみも色々あるよ。干しブドウに乾パン、ピザ風クッキー、他にもあるから、見ていきな」

「あー、私トフレシュがいい」

「私もそれで」


 トフレシュというのは、先端に突起のある、球形をした果物だ。ファム達の世界にしかないもので、果肉が硬いため、先端を切って果汁だけを飲むのが一般的である。ファムとノルンの好物だ。


 その後も、商人はあれこれと商品を勧めていく。


 だが、


「…………」

「……ん? どうしたんだい?」

「あ、いや……」


 伊織が、何故か商人に対して剣呑な目を向けていた。


 そして、それと同時に、


「……ん?」

「っ?」


 雅と四葉の眉が、ピクリと動く。


 何だか、違和感があるのだ。何か重要なことを見落としているような、そんな気持ちの悪い感覚である。


 そしてその理由は、何気無く辺りを見回して、すぐに分かった。




「あの、ラティアちゃんはどこに?」

「あの子、どこ行ったの?」




 気が付けば、ラティアの姿がどこにも無かった。


 ラティアの綺麗な白髪は、とても目立つ。明らかに、近くにはいない。


 雅と四葉の言葉に、他の四人も事態を把握して――顔が青褪める。


 以前志愛に叱られてから、ラティアは無断で自分達の側を離れるようなことはしなくなった。誰も彼女がいなくなったことを知らないなんてことは、ありえない。


「商人のおねーさん。白髪の小さい娘、どこ行ったか見てねーっすか?」

「いや、知らないねぇ。最初からいなかったと思うけど?」

「ファム! 確か、さっきまで手を繋いでいなかったっ?」

「う、うん。けど、ヤバい。どっかで離しちゃった……!」

「ええっ? じゃあまさか――」


 真衣華が、辺りの人込みに目を向ける。


 ファムが手を離したタイミングで、ラティアはこの波に飲まれてしまったのだと、そう思った。


 すると、伊織が「皆、落ち着くっす」と声を掛ける。


「四葉ちゃん。皆と一緒に、ラティアちゃんを探してくれねーっすか? いなくなってから、まだそんなに時間は経ってねーから、近くにいるかも。でも、バラバラになっちゃ駄目っすよ。全員で、一塊で動くっす。雅ちゃんだけは、ここに残ってください」

「え、ええ。分かったわ」


 伊織の言葉には、有無を言わせぬ迫力があり、流石の四葉も大人しく従う。


 そして真衣華やファム、ノルンを連れて、人込みへと消えていくのだった。

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