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第223話『援護』

 ジリジリと四葉とライナに近づいてくる、人工種蛇科レイパー。


 装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』を纏った四葉の激しい攻撃を受けたにも拘らず、多少のダメージはあれど、この人工レイパーは平気な様子だ。


「この……!」


 四葉は構えるが、その瞳には迷いの色がある。このアーツを以てしても、ここまで攻撃が効かない相手は、初めてだった。


 攻撃する場所が悪いだけなのか、そもそも自分のパワーが足りていないのか。前者ならまだ戦いようがあるが、後者であれば詰みだ。


 ここは一旦退却すべきだと、四葉の本能が告げる。


 しかし、それを行動には移せない。葛城にいいようにされっぱなしというのは、四葉のプライドが許さなかった。


 では、どうするか。


 四葉が次の一手に迷っていた、その時だ。


「ちぃ! またこいつらか!」


 人工レイパーの周りに、十五人の分身ライナが出現し、一斉に鎌形アーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』で攻撃しだした。


 ライナのパワーでは、人工レイパーの体に傷を付けることは出来ない。だが、痛みを感じないわけでは無いのだ。


 イライラしたように、人工レイパーは分身達を蹴散らし始める。


「ちょっとライナ! また余計なことを……!」

「そんなことを言っている場合ですか! このままじゃ、やられます!」


 ライナを睨む四葉だが、逆にライナに睨み返されてしまい、押し黙る。


「あいつを倒す作戦があります! ここじゃ駄目だから、場所を変えますよ!」


 そう言うと、ライナは四葉の返答も聞かずに、彼女の手を取って走り出した。


 されるがままになりながらも、四葉は、人工レイパーの方を見る。


 絡んでくる分身ライナを、腕を振り回して纏めて倒した瞬間が、目に飛び込んできた。


 四葉は悔しそうに歯噛みするが、理があるのはライナだというのは分かる。


 葛城に敗走することと、誰かと協力して戦うこと。どちらを取らねばならぬのなら、どちらを選ぶかなど、悩むまでも無い。


「良いわ、ライナ。あなたに協力する! でも、足を引っ張ったら承知しないわよ!」


 せめてもの意地として、少し高圧的な態度を示す四葉に、ライナは軽く苦笑いを浮かべるのだった。




 ***




 ライナ達は、建物の南側から東側へと移動する。


「ライナ! どこまで行くつもりっ?」

「もうちょっと先――」

「行かせませんよぉ!」


 しかし、そんなライナと四葉の後ろから、葛城の声と共に、長い尻尾が迫る。


 二人はそれぞれ左右別々の方向に跳ぶと、尻尾がその間に叩きつけられ、地面を砕いて小さなクレーターを作った。


「ちぃ! もう追いついてきたか!」

「ヨツバさん! 私が隙を作ります!」


 ライナがそう叫ぶと同時に、スキルを発動。


 五人の分身ライナが出現させると、人工レイパーに襲い掛からせた。


「同じ手を何度も何度も……! 効かないと分かっているでしょう!」


 人工レイパーは苛立たちながらそう吐き捨てると、腕を振り上げる。


 だが、その瞬間。


「四葉嬢っ?」


 分身ライナの後ろから、四葉が飛び出してきた。


 ライナが分身を創り出すのと同時に、四葉が接近していたのである。


 この分身ライナ達は、攻撃のために創り出したわけでは無い。


 四葉の攻撃を補助するために生み出したものだった。


 一体の分身が、人工レイパーの腕に纏わりつき、残りの分身も敵の尻尾や体にしがみついていく。


 完璧に生み出された隙に、四葉は軽く笑みを浮かべると、あらん限りの力を拳に込める。


 そしてそのまま、人工レイパーのムカつく面目掛け、アッパーを放った。


 人工レイパーの口から、くぐもった葛城の声が漏れる。


 仰け反った敵の腹部は、がら空きだ。


 そこに、四葉は次々に拳を叩き込んでいく。


 敵の骨を圧し折らんという気迫を、張り上げる声と拳に乗せ、五発、十発と打ち込む。


 さらに本体のライナも、人工レイパーの背中へと回り込み、斬撃の嵐を浴びせていく。


 しかし――


「調子に乗るんじゃありませんよぉ!」


 葛城は吠えると、二人の攻撃を受けつつも、しがみつく分身達を吹っ飛ばし、腕を振り回して攻撃する。


「ぐっ?」

「きゃっ!」


 攻めることに集中していた二人に、今の人工レイパーの攻撃は避けられるはずも無い。


 四葉は咄嗟に腕でガードし、ライナは防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動するも、二人は吹っ飛ばされてしまう。


「さぁ、止めを刺しましょぉ!」


 甲高い声でそう叫ぶと、人工レイパーは、倒れる四葉へと近づいていく。


 そうはさせまいと、ライナが分身を一人創り出して、背中から襲わせる。


 だが、


「ふんっ!」


 その気配に気が付いていた人工レイパーは、尻尾を一振りして、分身を消し飛ばす。


「どうやら、あなたから先に死にたいようですねぇ!」


 人工レイパーは振り返ると、ライナの方へと近づいていく。


 その眼は、怒りに燃えていた。大した力も無いのに、何度も何度も邪魔され、ストレスが限界に達していたのだ。


 どうやって殺そうか、葛城は少し悩みながらも、本能のままに左腕を振り上げた、その時。




「――がぁっ?」




 突然、人工レイパーの左肩に何かが直撃し、緑の血を噴き上げた。


 痛みに呻く葛城。肩を腕で押さえて、そこで彼は理解する。


 まるで銃弾のような何かが、自分の肩に命中したのだと。


 そして、人工レイパーが何かの気配を感じ、本能的にその場を跳び退いた。


 その直後、今まで敵がいた場所を、白と桃色が混ざり合った、円錐状のエネルギー弾が通過する。


「狙撃されたっ? どこだっ? どこから――っ!」


 攻撃が飛んできた方に目を向け、敵の姿を探す人工レイパー。


 すると、三発目のエネルギー弾が、人工レイパーの方目掛けて飛んでくるのが見えた。


 体を捻り、それを躱しながらも、人工レイパーは低く唸る。


 エネルギー弾は、およそ二キロ先の山の中から放たれていたのだ。


 これは、雅と優の合体アーツによる攻撃である。二人はライナのサポートとして、山で待機していたのだ。


 葛城が人工レイパーに変身した際、ライナが二人に援護射撃を依頼するメッセージを送り、狙撃可能な地点まで、敵を誘導したという訳である。これこそが、ライナの作戦だった。


 先程ライナが分身で攻撃を仕掛けたのも、敵が雅と優に背中を向けるようにするためだ。


「ちぃ……流石に分が悪いですねぇ!」


 それにまんまと引っ掛かった葛城は、脱兎のごとくその場を逃げ出す。


「ま、待て!」

「駄目ですヨツバさん!」


 背中を向けた人工レイパーを追おうとする四葉だが、ライナはそれを手で制する。


「今彼を追いかければ、援護が受けられないところで戦わなければいけません! そうなったら、こちらに勝ち目は無いですよ!」

「……ちっ!」


 一瞬ライナを睨みつけた四葉だが、言われている言葉の意味は理解出来た。


 舌打ちしか出来ない自分が悔しくて、四葉は拳を地面に叩きつける。


 ライナも、闇夜に消えていく人工レイパーの姿を見つめ、ヴァイオラス・デスサイズを握る手に力が籠るのだった。




 そして、十分後。


「……ライナ。正直、今日は助かった。ところであなた達、葛城を追うんでしょう?」

「ええ、勿論。ただ、足取りが上手く追えるかどうか……。さっき警察に送ったULフォンに、彼の今後の行動のヒントがあれば良いんですけど」

「私も、出来る限り調べてみるわ。何か分かったら、情報を共有しましょう」

「ええ」


 容疑者の情報を外部に漏らすわけにはいかないのだが、それを分かった上で、ライナは頷く。今は少しでも、葛城への手掛かりが欲しかった。


「……ところで、さっきの援護、誰が?」


 四葉が、攻撃が飛んできた方を見ながら、ボソリとそう尋ねる。


「ミヤビさんとユウさんです。二人に会ったことはあるんですよね?」

「ええ。ちょっとだけ。あなたの方から、二人にお礼を伝えておいて」


 先日、雅とは揉めたこともあって、どうにも顔を合わせ辛かった四葉。


 そこら辺の話は、ライナも雅から聞いていた。故に、四葉の心情も察せられたため、了承する。


 四葉はそのまま立ち去ろうとしたが、小さく「あっ」と声を上げて、再びライナの方に顔を向けた。


「ライナさえ良かったら、偶に一緒に組手でもどうかしら? 実は、トレーニング相手を募集しているのよ」

「えっ?」

「スキル持ちで、結構修羅場も潜っているでしょ。そんな相手、滅多にいないから。時間がある時でいいわ」

「……まぁ、私で良ければ、よろしくお願いします」


 そんな提案をされるとは夢にも思っていなかったライナは、少し困惑しながらも受け入れる。


 四葉は小さく笑みを見せると、今度こそ飛び去るのだった。

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