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季節イベント『素敵』

「助けてぇ!」


 ノースベルグの街中に響く、少女の声。


 彼女の目の前には、人型のレイパー。


 六本の腕を振りかざし、八個の目玉をギョロリと光らせ、口からは糸を吐いている。『人型種蜘蛛科レイパー』だ。


 突然現れたレイパーに、街の人達は逃げ惑った。この少女も当然逃げたのだが、途中で転んでしまったのである。


 レイパーは少女を殺そうと、手を伸ばす。


 もう周りには誰もいない! このままでは少女は無残に殺されてしまう!


 だが! そんな時!




「そこまでです!」




 その場の空気を一変させる、少女の声が轟く!


 レイパーが思わずそちらを見れば、そこには桃色の髪の少女が、自身の身長よりも長い、メカメカしい見た目をした(アーツ)、『百花繚乱』を構えて立っていた。


 彼女は束音(たばね)(みやび)! 新潟市内に住む大和撫子である!


 雅はレイパーをビシっと指差し、キラリと目を光らせる。


「平和を乱すレイパーめ! 私がやっつけてやりますよ!」


 その言葉に、レイパーはグルルと唸る。まるで、『やれるものなら、やってみろ』と言っているようだ。


 雅は不敵な笑みを浮かべると――地面を蹴って、一瞬でレイパーの懐まで接近。


 目にも止まらぬ速さで剣を振るうと、レイパーの六本の腕を、あっという間に斬り落としてしまう。


「これで止めです!」


 レイパーの体を斬り上げ、敵を吹っ飛ばす。


 斬られたレイパーは、空中で体が真っ二つに割れ、そのまま爆発四散した。


「お嬢さん! 大丈夫ですか?」

「素敵! 抱いて!」


 命の危機を救ってくれた雅に、少女はもうメロメロだ!


 抱きついてくる少女の頭を、雅は優しく撫でる!


 だが、まだ危険は去っていなかった!


「むっ? この気配は?」


 雅の目が、キラリと光る。


 今の爆発を聞きつけて、三体のレイパーが集まってくるのが見えた。


 空を飛んでいる一体は、まるでハーピィのような姿をしたレイパー。『ハーピィ種レイパー』だ。


 もう一体は、人型のチョウチンアンコウである。『人型種チョウチンアンコウ科レイパー』といったところか。


 最期の一体は形容が難しい見た目をしていた。言うなら、卵型をした銀色の球体に、四本の足が生えている。目玉のような赤い光を放つそいつは、『オートマトン種レイパー』だ。


「お嬢さん、私の後ろに!」

「は、はい!」


 少女を匿うと、雅は百花繚乱の柄を曲げて、ライフルモードに変化させる。


 百花繚乱は、剣と銃の二つのモードを使い分けて戦えるアーツなのだ。


 雅はアーツの銃口を、ハーピィ種レイパーに向けると、桃色のエネルギー弾を放つ。


 空気を斬り裂くような速度で飛んでいく弾丸は、ハーピィ種レイパーの片翼に直撃すると、木っ端微塵に消し飛ばした。


 手足をばたつかせながら墜落するレイパー目掛け、もう一発エネルギー弾を放つ雅。


 エネルギー弾は正確にレイパーの胸元に命中し、敵を爆発四散させる。


「よし、まずは一体! 次です!」


 そう叫ぶと、今度は人型種チョウチンアンコウ科レイパーの方に向く雅。


 すると、人型種チョウチンアンコウ科レイパーの頭から伸びた突起が、眩い光を放つ。


 これで雅の目を眩ませ、怯ませようとしているのだろう。


 だが、しかし!


「グラァッシィズ!」


 雅はどこからともなくサングラスを取り出して身に着け、光を防ぐ!


 目眩ましに失敗し、驚いたレイパーへと、雅は三度エネルギー弾を放ち、敵の上半身を吹っ飛ばして撃破!


「さぁ! お前で最後です!」

「っ! 攻撃してきます!」


 残ったオートマトン種レイパーの目が光り、レーザーを放つ。


 避けようとする雅だが、後ろには少女! 受けるしかない!


 だが!


「効きません!」


 雅の体にレーザーが直撃するが、雅には傷一つ付かない!


「さぁ、行きますよ!」


 ブレードモードになる百花繚乱。


 二発、三発と放たれるレーザーを体で受けながらも、一切ダメージを負うことなくレイパーに近づく雅。


 斬撃の範囲に敵を収めたところで、一気にレイパーを真っ二つに斬り裂く!


 爆発四散するオートマトン種レイパーをバックに、雅は少女にサムズアップをするのだった!




 ***




「――って小説をアップしようと思うんですけど、どう思いますかっ?」

「ええい鼻息が荒い!」


 束音宅のリビングにて。


 興奮気味に、自分の書いた小説を見せる雅。ついでに顔も近づけてくるのを、レーゼは手で押し留める。


 先程までの話は、雅が実体験を元に書いた小説である。突然何か書きたくなり、衝動のままに筆を取った結果がこれだ。


 これを読まされたレーゼの顔は、ひどく微妙なものだった。


 人型種蜘蛛科レイパーの腕は、簡単にスパスパ斬れない。


 ハーピィ種レイパーの羽も、エネルギー弾如きで破壊される程脆くはない。


 人型種チョウチンアンコウ科レイパーの光も、サングラスで防げるようなものではない。


 オートマトン種レイパーのレーザーにいたっては、生身で受けようものなら体が溶けてしまう。


 まぁそれはいいだろう。一番引っ掛かったのは……


「『素敵! 抱いて!』……。いや、ミヤビ……」

「何ですかその顔はっ? いーじゃないですか妄想の中くらい!」

「まぁ……うん、そうよね、うん」


 憐みの視線を向けられた雅が軽く頬を膨らませるのを見て、レーゼは呆れるべきか泣くべきか、頭を悩ませ始める。


「……いや、考えるのは止めるわ。なんか疲れる気がする。それにしても、実際のレイパーも、これくらい簡単に倒せれば楽なんだけど」

「まぁ、上手くいきませんよねぇ。一応、再生怪人は弱体化するっていう特撮ネタを踏まえて書いたんですけど」

「何よその『トクサツネタ』って……。いや、いいわ。説明しなくて大丈夫」


 そう言うと、レーゼは深く息を吐いて、お茶をすする。雅の書いた小説を読まされる前に淹れたものだが、もう温い。


 色々突っ込みどころ満載のこの小説はアップされたのだが、冷静になった後で見返した雅が恥ずかしくなり、見事彼女の黒歴史となってしまうのであった。

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