表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
281/669

第221話『発語』

「葛城専務っ? 何故あなたがここにっ?」


 ここにいるはずの無い人物の登場に、四葉もライナも驚きを隠せない。


 そんな二人に、葛城の口元が不気味に歪む。


「ここ数日、誰かが私の部屋を漁っているようでしたので、餌を撒いておいたんですよ。引っ掛かった間抜けがどんな顔をしているのか見に来てビックリ。まさか四葉様とは」


 その言葉に、四葉は舌打ちをする。


「そのULフォンには細工がしてあって、私以外の人間が開こうとすれば、それが分かるようになっているんですよ」


 葛城に言われて、四葉は己の浅はかな行動を呪う。間抜けと言われてしまえば、返す言葉も無い。


 そんな彼女を他所に、葛城は続いて、ライナへと目を向ける。


 彼女はこっそりと葛城を睨みつけており、彼が隙を見せれば、すぐにでも飛び掛かるだろう。


 にも拘らず、ライナを見つめる葛城の表情は、相変わらず気味の悪い笑顔のままだ。


 何となく底知れない雰囲気に、ライナの背中も凍り付く。


「おまけに、可愛らしいお嬢さんまで釣れるとは。警察の手先ですね?」

「答える義理はありません。ところで、あなたも詰めが甘い。こんな証拠、どうして残しておいたんですか?」

「それは私も予想外でした。その手のものは、全て消し去ったはずなのですがねぇ……」


 わざとらしく、困ったような顔になる葛城。


 そんな彼を、四葉は馬鹿にしたように笑い飛ばす。


「私も間抜けだったけど、あなたはもっと間抜けだったわね。お蔭で尻尾を掴めたから助かったけど。安原に人工レイパーの薬を渡したのも、あなたかしら?」

「ええ。それなりに強い人工レイパーだったので、殺されてしまったのは残念です。――まぁ、殺すよう命じたのは私なんですけどね」

「屑が……」


 もう言い逃れが出来ないと分かったからか、質問に素直に答える葛城に、四葉は吐き捨てるようにそう言った。


「クズシロさん。あなたはどうして、そんなことをしているんですか? 何の意味も無いのに……」

「意味も無い? んふふふふ……そんなわけないでしょぉ! 意味ならありますよ! 大いにねぇ!」


 葛城が堪え切れない笑いを吐き出すようにそう叫んだ瞬間、彼の姿がぐにゃりと歪む。


 その姿を見た瞬間、ライナの目が大きく見開かれる。


 今まで葛城がいた場所には、異形の化け物が立っていた。


 そしてその姿に、ライナは見覚えがあった。


 蛇のような顔をした、長い尻尾を持つ人型の人工レイパー。鰐の頭のような形状の左腕をゆらりと上げるそいつは、『人工種蛇科レイパー』である。


 そう。中央区山二ツの倉庫にて、久世を守っていた二体の人工レイパーの内の一体だった。


 その事実に驚くライナを他所に、葛城は一オクターブ高い声で笑う。


 そして、




「こんな素晴らしい力が手に入ったのですよぉ! 意味、大有りでしょぉ!」




「喋ったっ?」

「薄気味の悪い……!」


 ライナは瞳を揺らし、四葉は顔を歪ませる。


 人工レイパーとは言え、レイパーだ。それが人の言葉を喋る光景は、あまりにも悍ましい。


「おやおや! 知らないようですねぇ! 力をコントロールすれば、普通に喋れるんですよぉ? 最も! そこまで能力のある人間は、私くらいなものですが!」

「そんなもの自慢になりません! 化け物の姿に身を堕としてまで、どうして……っ!」

「この力をさらに極めれば、レイパーだって滅ぼせるんですよぉ! そうなれば、私は英雄でしょう!」

「ふざけないで! こんな化け物、誰が受け入れるっていうのよ! 英雄どころか、恐怖の対象でしかないわ!」

「最初はねぇ! でも、世界に平和をもたらしたのが誰なのか、真に称えられるべき人間は誰なのか……聡い人間はすぐに気が付くはずですよぉ!」


 ギリっと、四葉は奥歯を噛み締め、己の拳を握りしめる。


 こんな人間が、すぐ近くにいたことに気が付けなかったことを、彼女は今、大いに恥じていた。


「邪魔をするなら、死んでもらいますよぉ! 私の英雄譚の礎となって下さいねぇ!」

「ヨツバさん! こっち!」

「ライナっ?」


 葛城が戦闘態勢に入った刹那、ライナが四葉の手を引いて、走り出す。


 向かう先は――窓だ。


「しっかり掴まって!」


 言いながら、ライナから伸びる影から、全長ニメートル程の紫色の鎌が飛び出してくる。


 ライナの使うアーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』だ。


「その鎌……貴様、先日のっ?」


 背中に響く葛城の声を無視して、ライナは鎌で窓を割る。


 そして、


「ちょ、あなた――」


 四葉を抱えて、そこからダイブした。


 因みに、ここは三階だ。まともに飛び降りれば、大怪我どころか死ぬ可能性だって十分にある。


 だが、そうはならない。


 下には既に、十人のライナがいた。全てライナのスキル『影絵』で創り出した、分身達である。


 それらが、落ちてくる二人をキャッチしたことで、ライナも四葉も怪我をせずにすんだ。


 ライナと四葉がその場を跳び退くと同時に、空気を震わせるような重い着地音と共に、葛城も跳び降りてくる。


「驚きましたねぇ。あの時はフードで分かりませんでしたが、そのアーツには見覚えがありますよぉ。あの時はまんまと逃げられましたが、今日は確実に始末して差し上げましょう!」

「そう上手くいくかしら?」


 静かな、だが怒りの籠った声が、四葉の口から漏れる。


 瞬間、四葉の体に、銀色のプロテクターとバイザーが装着された。


 装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』だ。


 指をコキコキと鳴らし、四葉はバイザー越しにギロリと、葛城を睨みつける。


「始末されるのはあなたよ! 葛城!」


 四葉の声が、闇夜に轟くのだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ