第24章閑話
一方、ピエロ種レイパーを倒した、雅と優はというと。
「さがみん、もしかして、新しいスキルを貰いましたか?」
レイパーに止めを刺した時、優の眼が赤く染まったのを見ていた雅はそう尋ねる。
アーツも淡く光っていたので、きっとスキルを授かったのだろうと思ったのだ。
しかし、優は首を横に振り、スナイパーライフル型の新しいアーツ『ガーデンズ・ガーディア』を見つめる。
「スキルで間違いないと思うけど、今はもう使えない。多分、二個目のアーツだからかも」
一般的に、元々スキルを持っている人が、様々な事情で別のアーツを使い始めた場合、新しいスキルを貰うには相当な時間を要する。詳しい理由は明らかにされていないが、新しいアーツが、以前使っていたアーツに嫉妬して、中々スキルをくれないという説が有力だ。
真衣華のように、二つのスキルを持っているというのは、本当にレアケースなのである。
「もしかすると、ガーデンズ・ガーディアも初陣だったから、色々張り切っていたのかな? お試しってことで、私にスキルを使わせてくれたのかもしれない」
「サービス精神が豊富なアーツですねぇ」
雅はそう言うと、優と共にクスリと笑う。
そして一転、真剣な面持ちになると、レイパーが倒された場所へと目を向けた。
爆発の煙はまだ晴れない。
「さがみん、念のため、アーツは出したままで。お面がまだ残っているかもしれません」
「うん」
以前、四葉とレーゼと一緒に、般若のお面を着けたレイパーを倒した際、お面だけは無傷だった。恐らく、今回もそうだろうと予想している。
ワルトリア峡谷の一件で、お面が人間に憑りつき、意のままに操ってしまうことも知っている。油断は禁物だ。
雅と優は、それぞれアーツを構える。
しばらくすると、煙も薄くなってきて――二人の顔は強張った。
地面には、予想通り、火男のお面が落ちていた。しかも無傷で、だ。
「みーちゃん! 破壊するよ!」
「ええ!」
これ以上、お面に好き勝手させるつもりは無いと、雅と優はお面に攻撃をしようとした、その刹那。
「っ? 待ってさがみん!」
「えっ? ……っ?」
辺りに立ち込める煙の中に、何かの気配がある。
雅の制止で、優もその気配に気が付いたのだろう。目を凝らすと、煙の中に、人型の黒い何かがいた。
一体何時からそこにいたのか。
ピエロ種レイパーばかりに気を取られていた雅と優は、今までその存在に、全く気が付かなかった。
突然のことに、硬直する二人。
やっと煙が消え、そこにいた存在を目視すると――雅と優の顔が、緊張で強張る。
そこにいたのは、のっぺらぼう。
真っ黒なそいつは、雅と優は初めて見たが、知っている。
こいつは以前、久世への手掛かりを探して、三条市の下田地区のログハウスに行った時にレーゼ達が戦った、人工レイパーだ。
分類は、『人工種のっぺらぼう科』。
何故そいつがここに、という疑問が、雅と優の頭の中を駆け巡る。
自分達を殺しに来たのか、と冷や汗を流す二人だが、すぐにそうではないと分かった。
のっぺらぼうの人工レイパーには眼が無いが、それでも敵の意識は、地面に落ちているお面に向けられているのが分かる。
火男のお面がカタカタと震えると、宙に浮かび上がった。
雅と優は察する。お面は、ここから逃げようとしているのだ、と。
のっぺらぼうの人工レイパーの手が、浮かんだお面へと伸びる。
お面がこの場から飛び去ろうとする前に、のっぺらぼうの人工レイパーの手が、お面を捕えた。
そして――
呆気にとられる雅と優の目の前で、のっぺらぼうの人工レイパーは、自らそのお面を被る。
刹那、お面はのっぺらぼうの顔へと吸い込まれていく。
二人は理解する。この人工レイパーはお面を着けたのではなく、取り込んだのだと。
余りにも異様な光景に、立ち尽くす雅と優。
刹那、のっぺらぼうの人工レイパーは体を震わせると、頭を抱えて苦しみだした。
ただ見つめることしか出来ない二人の目の前で、のっぺらぼうの人工レイパーは、よろめきながらも姿を消すのだった。
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