第24章幕間
優と雅が、ピエロ種レイパーを撃破してから五分後。
新潟市急患診療センターに、八人の女性がやって来る。
愛理を先頭に、セリスティア、志愛、真衣華、希羅々、レーゼ、ライナ、そして四葉だ。
それぞれ人工レイパーを倒したり、ピエロ種レイパーと交戦したりした後、合流したのである。
レーゼや希羅々は手当が必要な程に負傷し、他の六人も無傷では無い。優の様子を確認するついでに、ここに治療を受けに来た。
この中では、四葉が最も平気そうな様子。装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』の防御力が優れているのもあるが、四葉自身も鍛えてあるというのが大きな理由である。
故に、別に病院に行くまでも無いと思っていたのだが、真衣華から「念のため、診てもらった方が良い」と強く勧められ、断れなかった。
最も、理由はそれだけでは無いが。
レーゼや希羅々の介抱に、人手が要りそうだと思ったのもある。
そして何より、火男のお面を被ったレイパーの行方に、最も近いのが彼女達だから、情報を得ようという目的もあった。
しかし、
「え? 奴がここに現れた?」
「ええ。でも、さっき海の辺りで、大きな爆発があったって聞いたわ。多分もう、倒されていると思う」
ミカエルからそんな話を聞かされ、四葉は眉を寄せる。
正直なところ、逃がしたレイパーは自身の手で確実に仕留めておきたかった。四葉が戦う理由の一つに、今自分が使っているマグナ・エンプレスの宣伝というのがあるからだ。
しかし、レイパーが倒されたのは素直に喜ぶべきこと。不満そうな気持になってしまったことを、四葉は内心で恥じる。
とは言え、だ。
「あのレイパー、火男のお面を着けていた。きっと警察の方で、色々調べるでしょう? 何か分かったら、こっそりでも教えて欲しい」
四葉はミカエルとは初対面であり、話しかけた際は、互いに自己紹介から始まった。その時、ミカエルが警察と繋がっていることは聞かされてある。
四葉も、お面を着けたレイパーを探していた。火男のお面ではない、別のお面だ。妹を殺した敵のレイパーは、未だ倒されぬままどこかへ逃げている。火男のお面は、そいつに繋がる手掛かりになるかもしれなかった。
その理由をわざわざミカエルに話はしなかったが、四葉の頼みに、ミカエルはどこか鬼気迫るものを感じたのだろう。「分かったわ」と了承してくれた。
***
十分後。
ミカエルと話を終えた四葉は、待合室の椅子に座り、自分の番が来るのを待っていた。
周りには、他にもレイパーに襲われた人達で溢れている。
帰れるのは何時になるのやらと、四葉が若干渋い顔をしていると、遠くからセリスティアがやって来るのが見えた。
「うぃっす、ヨツバ。さっきはサンキューな」
「別にお礼なんていいわよ。大したことは――」
そこまで言いかけて、四葉の言葉が止まる。
セリスティアはラティアの手を引いており、四葉の目は、ラティアに釘付けになっていた。
ラティアは美しい少女だ。普通に歩いていても、すれ違った人が思わず振り向いてしまうくらいには。
最初セリスティアは、四葉もきっとラティアに見惚れたのだろうと思ったが、すぐに様子がおかしいことに気が付く。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないわ」
四葉は目を見開いているのだが、どこか動揺している印象を受けた。その顔に浮かんでいる感情は、どちらかと言えば『恐怖』に近い。
ラティアは表情こそ変えないが、四葉の態度に、少し困惑している雰囲気を醸し出していた。
ラティアが四葉の隣に座ると、スッと四葉は横に移動する。
さらにラティアが詰めようとするが――四葉はそれを、目で制した。
ギロリと光る、鋭い眼差しに、ラティアの体がビクリと震える。
「おいおい。あんま威嚇するなよ。相手は子供だぞ」
「いや、別に威嚇したわけじゃ……。そんなつもりは……。でも、ごめんなさい」
窘めるような口調のセリスティアに、四葉の言葉も弱々しいものになる。
自分の態度にしょげるラティアを、四葉は長く見ていられなかったのだろう。
四葉はそっぽを向くと、一言も喋らなくなってしまった。
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