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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第24章 新潟市中央区②
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第215話『新具』

 ピエロ種レイパーが病院にいる優を襲撃してから少し経った後、雅達も病院へと戻って来ていた。


 ファムとラティアに、九歳の頃に起きた事件の話をした雅。


 その後、優ともう一度話をしようと思ったのだが、いざ病院の近くまで来てみると、何やら騒がしい。


 辺りの人に事情を聞き、レイパーが出現したのだと聞いたのが、丁度今である。


 すると、キョロキョロしていたファムは、外で治療を受けるノルンとミカエルの姿を見つけ、血相を変える。


「ノルーン! ミカエル先生―!」

「あ、ファム!」

「何っ? どうしたのっ? 何があったのっ?」

「落ち着いて、ファムちゃん」


 軽い怪我をしており、髪は乱れ、服は汚れている。明らかに戦闘の跡は残っているものの、二人に大事は無い。


 だが、雅はこの場に優とシャロンがいないことに、顔面蒼白になっていた。


「すみません、二人とも……あの、さがみんとシャロンさんは……」

「ユウちゃん達なら、私達がレイパーを引き付けている間に逃げたわ。でも、ごめんなさい。本当はここでレイパーを倒したかったんだけど……」


 雅はすぐにULフォンを起動させると、優の居場所を探し始め――中央区栄町を北に移動していることを知る。


「二人とも、海の方に向かってますね。そっか。海上なら、あいつも追ってこれない。でも……」

「ミヤビ……行こう!」

「えっ?」

「ユウのこと、心配なんでしょ? 私なら、ミヤビをユウのところに連れていける」


 ファムが、背中の白い翼、『シェル・リヴァーティス』を広げて、雅に手を差し出してくる。


 雅が頷き、ファムの手を取ろうとした、その時だ。


「警部っ! 優香さんっ!」


 そんな声が聞こえる。そちらを見れば、そこにいたのは雅もよく知る女性警察官がいた。目つきの悪い、おかっぱの彼女は、冴場(さえば)()(おり)である。


 いや、それよりも、だ。


 二人はなんと、揃って担架に乗せられていた。


「優香さんっ? 優一さんも……けど、怪我してるっ?」

「行ってみましょう!」




 ***




「すまない。やって来たはいいんだが……」


 治療を受ける、優の両親。優一と優香は、揃って『面目ない』という顔をしていた。


 二人が来たのは、勿論、優がレイパーに襲われたという話を聞いたからだ。


 だが、病院に来たところで、偶然ピエロ種レイパーと鉢合わせてしまい、スタン効果のあるジャグリングボールを喰らって、今まで気絶していたと言う。


 ピエロ種レイパーが優を襲う直前のことだった。


「でも、二人とも無事で良かったっす。警部と連絡が取れなくなった時は、どうしたのかと……」


 伊織はふぅ、と溜息を吐く。実は伊織はずっと、ピエロ種レイパーを探していたのだ。


 そんな時、レーゼ達から、ピエロ種レイパーが病院の方へ向かったと連絡を受け、ここに駆け付けたという訳である。


 だがそのことを優一にも報告しようとしたのだが、先の言葉の通り連絡が付かず、不審に思っていたところ、このような事態になっていたのだ。


「心配を掛けてすまない。だが、早くこれを優に届けなければ……」


 そう言って優一が取り出したのは、指輪だ。


 丁度、雅や優が嵌めているものと、同じものである。


「あの、これはもしかして……」

「ええ。あの娘の、新型アーツよ。霞、壊れちゃったから」


 答えたのは、優香だ。


 いつの間にこんなものを用意していたのか、と驚く雅達。


「本当は、もっと早く渡すつもりだったんだけど、調整が終わったの、ついさっきなのよ。ねぇ雅ちゃん。これから、優のところに行くんでしょ? これ、あの娘に渡してくれないかしら?」


 優香の言葉に、優一も「すまない、頼む」と頭を下げた。


 優は今、空にいる。ファムの力では、雅一人を運ぶだけで限界だ。


 本当は自分達で渡したかったが、優がレイパーに追われている今、最善の選択は、雅達に渡してもらうことだと、優香と優一は判断したのである。


「分かりました。持っていきます。ただ、あの……実は私達……」

「もしかして、優と喧嘩でもしちゃった?」


 一瞬どもった雅を見れば、それくらいのことはすぐに想像がついた優香。


 それに、優が治療を受けているというのに、彼女に付きっ切りになっていないというのも、実は引っ掛かっていた。


 それを見破られ、雅は力なく頷く。


「ごめんなさい。悪いのは私で、さがみんが怒ったのも当然っていうか……」

「喧嘩の理由は気になるが……それにしても、久しぶりだね。君と優が喧嘩するのは」

「長い付き合いだし、そういうこともあるわよ。普通普通!」


 優一の声は思いやりがこもっており、優香は明るい顔で、雅を励ますように、彼女の背中を軽く叩く。


 優一と優香は、雅が異世界に転移した後から、戻ってくるまでの、優の様子を思い浮かべていた。


 人の前では普通に振舞っていても、一人だと苦しくなって、泣きそうな顔になっていたことを、二人は知っている。


 そして雅が戻って来て、優がどれだけ喜んでいたかも、知っている。


 雅と優の仲の良さは、二人が出会った時から、優一も優香もずっと見ていた。


 故に、確信していた。きっと優と雅は、元の鞘に収まるだろう、と。


「……ありがとうございます。そう言って頂けると、ちょっと気持ちが楽です」


 そこで言葉を切ると、雅はチラリと、ファムの顔を見る。


 雅の視線に気が付いたファムは、恥ずかしいのか、プイっとそっぽを向いてしまう。


 実はここに来る前、雅はファムから、こんな言葉を貰っていた。


『自分とノルンだって仲直り出来たんだから、ミヤビとユウだって大丈夫さ』と。


 九歳の頃の事件の話を聞いた後、ファムが雅を励ますために、こう言ったのだ。


 雅は優一の持つ指輪を受け取る。


 指輪をギュッと握りしめつつ、目を閉じること数秒。


 再び雅が目を開いた時、そこに確かに、強い光が宿っていた。




「今から、仲直りしてきます」




 ***




「ミヤビっ! ユウは今、どこにっ?」

「この辺りです!」


 それから数分後。


 雅とファムの二人は、中央区栄町まで来ていた。


 二人の顔は、険しい。


 海の方へと向かっていたはずの優が、何故か飛砂防備保健保安林の中を移動し始めたのだから。


 これはつまり、何らかのトラブルがあり、シャロンが空を飛べなくなったということだ。


 レイパーに追いかけられているとなれば、事態は一刻を争う。


 雅はULフォンを起動させ、GPSで優の居場所を確認しながら、ファムに指示を飛ばす。


 すると、


「――いたっ!」


 ファムの目が、ピエロ種レイパーの姿を捕える。


 レイパーは追ってくる二人には気が付いていない。敵は丁度、林の中へと入っていったところだった。


 優はいないが、レイパーがこのまま進めば、彼女に追いついてしまう。


 ならば、やることは一つだ。


「ファムちゃん! 林の中に突っ込めますかっ? 奴の背中が見えたら、私が狙撃します!」

「いけるよ!」


 ファムの返事を聞くと、雅の右手に嵌った指輪が光り、彼女の手に、柄の曲がった、メカメカしい見た目の剣が握られる。


 ライフルモードになった剣銃両用型アーツ『百花繚乱』だ。


 ファムが林の中に突入すると、木の枝や葉っぱが顔に当たり、雅は顔を顰める。


 それでも、目は閉じない。


 そして――


「っ! そこだっ!」


 雅が素早く銃口を向けた先に、レイパーはいた。


 敵が雅達に気が付くより早く、雅のアーツから放たれた桃色のエネルギー弾が、真っ直ぐに標的へと向かい、背中に直撃して爆発する。


 背中に衝撃を受け、吹っ飛ばされるレイパー。だがすぐに起き上がった敵の姿を見て、然程ダメージは無いと判断する雅とファム。


 無論、これで倒せるとは思っていなかったが、それにしても中々に頑丈な体で、二人は揃って眉を寄せた。


 流石に今の一撃で、レイパーも雅達の存在に気が付き、足を止めると、どこからともなくジャグリングボールを六つ取り出す。


 一斉に投げられたそれを、雅はエネルギー弾で、ファムは、シェル・リヴァーティスの羽根を飛ばし、空中でボールを破壊した。


「ぉっとっ?」

「ファムちゃん気を付けて! 爆発するボール、厄介です!」

「だったら――ミヤビ! 背中に捕まって!」


 空中で破壊したボールからの爆風で、軽く吹っ飛ばされたファム達。


 だが、ファムはすぐに空中で体勢を整えると、地面すれすれに縦横無尽に飛び回り、木々の間をすり抜けながら、隙を見計らって羽根を飛ばす。


 高速でちょこまかと動き回る標的には、流石にレイパーも狙いが付けられない。


 そして、ファムの羽根がレイパーの首にヒットし、僅かに怯んだ、その瞬間。


「今だっ!」


 雅は素早く、百花繚乱の柄を伸ばしてブレードモードに変形させ、『共感(シンパシー)』であるスキルを使い、自身のすぐ横に、丸い穴を創り出す。


 雅がその中にアーツを突っ込んだ刹那――レイパーの腹部の近くにも穴が出現し、百花繚乱の刃が飛び出した。


 これは『アンビュラトリック・ファンタズム』というスキルだ。先日カームファリアのワルトリア峡谷で出会った、ミカエルの妹、カベルナのスキルである。


 穴はワームホールのように繋がっており、片方の穴から入った物は、もう片方の穴から出てくる仕組みだ。


 意識外の、強烈な突き攻撃が決まり、流石のレイパーもよろめき、攻撃されたところを手で押さえて、片膝を付く。


 そこで、ファムは雅をその場に降ろすと、彼女の前に出て、口を開く。


「行ってミヤビ! ちょっとくらいなら、こいつを引き付けられるから!」

「ファムちゃん……ありがとう!」


 雅のお礼に、ファムは軽くサムズアップする。


 雅は『共感(シンパシー)』により、ライナのスキル『影絵』を発動させると、ファムの隣にもう一人、雅が出現する。流石にファム一人を置いていくのは危険だと判断した。


 ファムと、自分の分身を置いて、雅は優の元へと向かうのだった。

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