第215話『新具』
ピエロ種レイパーが病院にいる優を襲撃してから少し経った後、雅達も病院へと戻って来ていた。
ファムとラティアに、九歳の頃に起きた事件の話をした雅。
その後、優ともう一度話をしようと思ったのだが、いざ病院の近くまで来てみると、何やら騒がしい。
辺りの人に事情を聞き、レイパーが出現したのだと聞いたのが、丁度今である。
すると、キョロキョロしていたファムは、外で治療を受けるノルンとミカエルの姿を見つけ、血相を変える。
「ノルーン! ミカエル先生―!」
「あ、ファム!」
「何っ? どうしたのっ? 何があったのっ?」
「落ち着いて、ファムちゃん」
軽い怪我をしており、髪は乱れ、服は汚れている。明らかに戦闘の跡は残っているものの、二人に大事は無い。
だが、雅はこの場に優とシャロンがいないことに、顔面蒼白になっていた。
「すみません、二人とも……あの、さがみんとシャロンさんは……」
「ユウちゃん達なら、私達がレイパーを引き付けている間に逃げたわ。でも、ごめんなさい。本当はここでレイパーを倒したかったんだけど……」
雅はすぐにULフォンを起動させると、優の居場所を探し始め――中央区栄町を北に移動していることを知る。
「二人とも、海の方に向かってますね。そっか。海上なら、あいつも追ってこれない。でも……」
「ミヤビ……行こう!」
「えっ?」
「ユウのこと、心配なんでしょ? 私なら、ミヤビをユウのところに連れていける」
ファムが、背中の白い翼、『シェル・リヴァーティス』を広げて、雅に手を差し出してくる。
雅が頷き、ファムの手を取ろうとした、その時だ。
「警部っ! 優香さんっ!」
そんな声が聞こえる。そちらを見れば、そこにいたのは雅もよく知る女性警察官がいた。目つきの悪い、おかっぱの彼女は、冴場伊織である。
いや、それよりも、だ。
二人はなんと、揃って担架に乗せられていた。
「優香さんっ? 優一さんも……けど、怪我してるっ?」
「行ってみましょう!」
***
「すまない。やって来たはいいんだが……」
治療を受ける、優の両親。優一と優香は、揃って『面目ない』という顔をしていた。
二人が来たのは、勿論、優がレイパーに襲われたという話を聞いたからだ。
だが、病院に来たところで、偶然ピエロ種レイパーと鉢合わせてしまい、スタン効果のあるジャグリングボールを喰らって、今まで気絶していたと言う。
ピエロ種レイパーが優を襲う直前のことだった。
「でも、二人とも無事で良かったっす。警部と連絡が取れなくなった時は、どうしたのかと……」
伊織はふぅ、と溜息を吐く。実は伊織はずっと、ピエロ種レイパーを探していたのだ。
そんな時、レーゼ達から、ピエロ種レイパーが病院の方へ向かったと連絡を受け、ここに駆け付けたという訳である。
だがそのことを優一にも報告しようとしたのだが、先の言葉の通り連絡が付かず、不審に思っていたところ、このような事態になっていたのだ。
「心配を掛けてすまない。だが、早くこれを優に届けなければ……」
そう言って優一が取り出したのは、指輪だ。
丁度、雅や優が嵌めているものと、同じものである。
「あの、これはもしかして……」
「ええ。あの娘の、新型アーツよ。霞、壊れちゃったから」
答えたのは、優香だ。
いつの間にこんなものを用意していたのか、と驚く雅達。
「本当は、もっと早く渡すつもりだったんだけど、調整が終わったの、ついさっきなのよ。ねぇ雅ちゃん。これから、優のところに行くんでしょ? これ、あの娘に渡してくれないかしら?」
優香の言葉に、優一も「すまない、頼む」と頭を下げた。
優は今、空にいる。ファムの力では、雅一人を運ぶだけで限界だ。
本当は自分達で渡したかったが、優がレイパーに追われている今、最善の選択は、雅達に渡してもらうことだと、優香と優一は判断したのである。
「分かりました。持っていきます。ただ、あの……実は私達……」
「もしかして、優と喧嘩でもしちゃった?」
一瞬どもった雅を見れば、それくらいのことはすぐに想像がついた優香。
それに、優が治療を受けているというのに、彼女に付きっ切りになっていないというのも、実は引っ掛かっていた。
それを見破られ、雅は力なく頷く。
「ごめんなさい。悪いのは私で、さがみんが怒ったのも当然っていうか……」
「喧嘩の理由は気になるが……それにしても、久しぶりだね。君と優が喧嘩するのは」
「長い付き合いだし、そういうこともあるわよ。普通普通!」
優一の声は思いやりがこもっており、優香は明るい顔で、雅を励ますように、彼女の背中を軽く叩く。
優一と優香は、雅が異世界に転移した後から、戻ってくるまでの、優の様子を思い浮かべていた。
人の前では普通に振舞っていても、一人だと苦しくなって、泣きそうな顔になっていたことを、二人は知っている。
そして雅が戻って来て、優がどれだけ喜んでいたかも、知っている。
雅と優の仲の良さは、二人が出会った時から、優一も優香もずっと見ていた。
故に、確信していた。きっと優と雅は、元の鞘に収まるだろう、と。
「……ありがとうございます。そう言って頂けると、ちょっと気持ちが楽です」
そこで言葉を切ると、雅はチラリと、ファムの顔を見る。
雅の視線に気が付いたファムは、恥ずかしいのか、プイっとそっぽを向いてしまう。
実はここに来る前、雅はファムから、こんな言葉を貰っていた。
『自分とノルンだって仲直り出来たんだから、ミヤビとユウだって大丈夫さ』と。
九歳の頃の事件の話を聞いた後、ファムが雅を励ますために、こう言ったのだ。
雅は優一の持つ指輪を受け取る。
指輪をギュッと握りしめつつ、目を閉じること数秒。
再び雅が目を開いた時、そこに確かに、強い光が宿っていた。
「今から、仲直りしてきます」
***
「ミヤビっ! ユウは今、どこにっ?」
「この辺りです!」
それから数分後。
雅とファムの二人は、中央区栄町まで来ていた。
二人の顔は、険しい。
海の方へと向かっていたはずの優が、何故か飛砂防備保健保安林の中を移動し始めたのだから。
これはつまり、何らかのトラブルがあり、シャロンが空を飛べなくなったということだ。
レイパーに追いかけられているとなれば、事態は一刻を争う。
雅はULフォンを起動させ、GPSで優の居場所を確認しながら、ファムに指示を飛ばす。
すると、
「――いたっ!」
ファムの目が、ピエロ種レイパーの姿を捕える。
レイパーは追ってくる二人には気が付いていない。敵は丁度、林の中へと入っていったところだった。
優はいないが、レイパーがこのまま進めば、彼女に追いついてしまう。
ならば、やることは一つだ。
「ファムちゃん! 林の中に突っ込めますかっ? 奴の背中が見えたら、私が狙撃します!」
「いけるよ!」
ファムの返事を聞くと、雅の右手に嵌った指輪が光り、彼女の手に、柄の曲がった、メカメカしい見た目の剣が握られる。
ライフルモードになった剣銃両用型アーツ『百花繚乱』だ。
ファムが林の中に突入すると、木の枝や葉っぱが顔に当たり、雅は顔を顰める。
それでも、目は閉じない。
そして――
「っ! そこだっ!」
雅が素早く銃口を向けた先に、レイパーはいた。
敵が雅達に気が付くより早く、雅のアーツから放たれた桃色のエネルギー弾が、真っ直ぐに標的へと向かい、背中に直撃して爆発する。
背中に衝撃を受け、吹っ飛ばされるレイパー。だがすぐに起き上がった敵の姿を見て、然程ダメージは無いと判断する雅とファム。
無論、これで倒せるとは思っていなかったが、それにしても中々に頑丈な体で、二人は揃って眉を寄せた。
流石に今の一撃で、レイパーも雅達の存在に気が付き、足を止めると、どこからともなくジャグリングボールを六つ取り出す。
一斉に投げられたそれを、雅はエネルギー弾で、ファムは、シェル・リヴァーティスの羽根を飛ばし、空中でボールを破壊した。
「ぉっとっ?」
「ファムちゃん気を付けて! 爆発するボール、厄介です!」
「だったら――ミヤビ! 背中に捕まって!」
空中で破壊したボールからの爆風で、軽く吹っ飛ばされたファム達。
だが、ファムはすぐに空中で体勢を整えると、地面すれすれに縦横無尽に飛び回り、木々の間をすり抜けながら、隙を見計らって羽根を飛ばす。
高速でちょこまかと動き回る標的には、流石にレイパーも狙いが付けられない。
そして、ファムの羽根がレイパーの首にヒットし、僅かに怯んだ、その瞬間。
「今だっ!」
雅は素早く、百花繚乱の柄を伸ばしてブレードモードに変形させ、『共感』であるスキルを使い、自身のすぐ横に、丸い穴を創り出す。
雅がその中にアーツを突っ込んだ刹那――レイパーの腹部の近くにも穴が出現し、百花繚乱の刃が飛び出した。
これは『アンビュラトリック・ファンタズム』というスキルだ。先日カームファリアのワルトリア峡谷で出会った、ミカエルの妹、カベルナのスキルである。
穴はワームホールのように繋がっており、片方の穴から入った物は、もう片方の穴から出てくる仕組みだ。
意識外の、強烈な突き攻撃が決まり、流石のレイパーもよろめき、攻撃されたところを手で押さえて、片膝を付く。
そこで、ファムは雅をその場に降ろすと、彼女の前に出て、口を開く。
「行ってミヤビ! ちょっとくらいなら、こいつを引き付けられるから!」
「ファムちゃん……ありがとう!」
雅のお礼に、ファムは軽くサムズアップする。
雅は『共感』により、ライナのスキル『影絵』を発動させると、ファムの隣にもう一人、雅が出現する。流石にファム一人を置いていくのは危険だと判断した。
ファムと、自分の分身を置いて、雅は優の元へと向かうのだった。
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