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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第24章 新潟市中央区②
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第211話『縫包』

 気絶した希羅々を抱え、仲間の元へと向かうライナ。


 その時だ。


「っ!」


 ライナの目に、レーゼが足止めしているはずのピエロ種レイパーが、こちらへと走って来るのが見えた。


 これはつまり、レーゼがやられたということだ。


 ライナは、抱えている希羅々と、ピエロ種レイパーを交互に見る。


 レイパーの邪魔をしようものなら、負傷した希羅々ごと攻撃される恐れがあるが、さりとて無視も出来ない。進行方向に邪魔者(自分達)がいれば、素通りせず退かそうとする可能性も十分に考えられる。


 そこまで瞬時に思考を巡らせたライナは、紫色の鎌、『ヴァイオラス・デスサイズ』を構え、スキル『影絵』を発動させた。


 自分の分身を創り出すことが出来るこのスキルで、十人のライナを出現させると、彼女達を一斉にレイパーへと襲い掛からせる。


 希羅々を庇いながらの戦闘では勝ち目は無い。分身で時間稼ぎをしつつ、希羅々を安全なところへと避難させるのが、ライナの狙いだ。


 だが、


「速いっ?」


 ピエロ種レイパーは無駄の無い動きで、群がる分身ライナ達の合間を通り抜けると、本体のライナの方へと走って来た。


 こうなれば、身を呈してでも希羅々を守らなければ、とライナはアーツを構えながら歯を喰いしばる。


 しかし、


「――えっ?」


 ピエロ種レイパーは、ライナと希羅々の前で跳躍すると、彼女達を跳び越え、中央区へと走り去って行く。


 ライナには知る由も無いことだが、レーゼとの戦闘で思わぬ時間を喰っていたレイパーは、さっさと優のところへと行きたかったのだ。


 標的でも何でも無いライナと希羅々など、ピエロ種レイパーにとってはどうでも良いのである。


 ただレイパーも、また邪魔される可能性は、一応考慮していた。


「……何これ? 雪? ……いや、綿?」


 空からパラパラ降ってくる、白い綿を見て、ライナが怪訝な顔をする。


 困惑していた彼女だが、それが突然、一か所に吸い寄せられ、巨大な塊になるのを見て、顔を強張らせた。


 集まっていった綿は、形を変えると、現れたのは……全長三メートルもの、巨大な白い熊。


 これはピエロ種レイパーが創り出した、レイパーと同じ力を持ったぬいぐるみだ。しかもミドル級並の巨体である。


 ピエロ種レイパーは、呼び出したそれをライナ達にけしかけると、自身は優の元へと向かって行く。


 突如現れたぬいぐるみに、近隣住民が気付き、悲鳴を上げながら逃げ始めた。


 だが、ぬいぐるみは市民には目もくれず、無機質な目を、ライナと希羅々に向ける。


 ヤバい、と直感したライナは、本能的に大量の分身ライナを呼び出して、ぬいぐるみへと襲い掛からせる――が。


 ぬいぐるみは腕を一薙ぎして、分身ライナ達を蹴散らしてしまう。


 そして、そのままライナと希羅々に踏みつけんと、片足を上げた。


 その刹那。


 全長二メートル程の投げ槍が飛んできて、ぬいぐるみの胸元に直撃した。


 さらに続けて、ぬいぐるみの後頭部へと、ブーメランがヒットする。


 二つの攻撃により、軽くよろめくぬいぐるみ。


「あなたっ! 大丈夫っ?」

「この近くに野球場があります! そっちまで誘導しましょう!」


 ライナの後ろからそんな声が聞こえてきて、振り返ってみれば、そこには六人程の女性の姿があった。


 全員、この近くに住んでいる住民、一般の大和撫子達だ。避難しようとした彼女達だが、襲われているライナと希羅々を見て、助けに来てくれたのである。


 思わぬ助けに、ライナの顔も自然と明るくなる。


「すみません! この娘、どこかに匿って頂けませんかっ?」

「怪我をしているのね! 分かった! 半分はこの娘を避難所へ! もう半分はあいつの相手よ!」


 住民の一人がテキパキと飛ばした指示の元、他の人達がすぐさま動く。


 スムーズな行動に、ライナは舌を巻く。まるで統率の取れたバスターチームのようだった。


 負けてはいられない、と、ライナはヴァイオラス・デスサイズを構え、気合を入れる。


「野球場って、どこですか? 私のスキルで気を引きます!」

「北西よ! 線路を超えた向こう側!」

「分かりました!」


 ライナは返事をするやいなや、五人の分身ライナを呼び出して、ぬいぐるみの足元に向かわせる。


 軽く攻撃はしているが、それらは全て、引っ掻き傷を付ける程度のもの。ぬいぐるみが鬱陶しく思う程度の威力だ。


 ぬいぐるみは、足元でうろちょろする分身ライナを踏みつけ始めるが、逃げ回る分身ライナ達には当たらない。


 分身ライナを踏みつけ、消したとしても、すぐに別の分身ライナが出現するため、数は減らない。


 さらに、そこに住民達の飛び道具系アーツがぬいぐるみの頭部にヒットし、ぬいぐるみのイライラを煽っていく。


 ぬいぐるみは、分身ライナ達を踏みつけることに夢中で、気が付かぬ内に、野球場の方まで移動して行った。


 そして、ついに――。


「よし! ここまで連れてくれば、後は警察の大和撫子に任せましょう!」

「あなたも、早く逃げないと!」


 ぬいぐるみを野球場まで誘導し終わった彼女達は、急いでその場を離れようとするが、ライナは首を横に振り、ぬいぐるみを睨みつける。


「皆さんは先に行ってください! 逃げる時間は、私が稼ぎます!」

「いや、だけど――」

「後で追いかけますよ! さぁ、早く!」


 口ではそう言いつつも、ライナは実は、ここでぬいぐるみを倒すつもりだった。何故なら、警察所属の大和撫子は今、ピエロ種レイパーや人工レイパーの対処で手一杯だと知っているからだ。こちらに人員を割く余裕はない。


 つまり、ここでライナが逃げてしまえば、誰もあのぬいぐるみを止める者はいなくなってしまう。派手に戦っても被害が少ないこの場所にいる今の内に、誰かがここできっちり倒さなければならないのだ。そしてその役目は、自分が負うべきだとライナは思っている。


 ライナだって、表立って活動しないだけでバスターなのだから。


 一般の大和撫子達は一瞬躊躇ったものの、すぐに避難していく。


 ここに残ったのは、ライナとぬいぐるみだけ。


 ライナの目が、ぬいぐるみの肩口に向けられる。


 僅かだが、表面に穴が空いていた。ここに誘導する際に出来たものである。そこを集中砲火して、一気に敵の体をバラバラにすれば勝てると、ライナは踏んだ。


 三十人以上もの分身を敵の弱所に送り込み、自身も鎌を構えてぬいぐるみへと突撃していく。


 ぬいぐるみは腕を振り回し、襲い掛かってくる分身達を吹っ飛ばしていくが、突如、右足から力が抜けて、ガクリと体勢を崩した。


 ぬいぐるみが分身の対処に集中させている間、本体のライナが膝裏を斬ったのだ。関節部分の強度は弱く、ライナが全力で斬りつけたことで、表面が破れ、中から綿が飛び出した。


 さらに分身ライナ達が、肩口の傷へと群がり、鎌を突き刺して右肩を斬り落とす。


 そこからどんどんとぬいぐるみを斬り裂いていき、あっという間に体をバラバラにして、無傷で残ったのは頭だけとなった。


 このまま押し切れる、とライナが確信した、その刹那。


「っ?」


 飛び出たぬいぐるみの綿が繋がって、無数の触手となり、激しくうねって分身ライナ達を絡めとっていく。綿で強く締め付けられ、捕らわれた分身ライナ達が次々と消えていった。


 ライナがすぐに追加の分身を呼び出すが、それでも綿が分身ライナを倒す速度の方が早い。


「くっ……!」


 ついには本体のライナにまで綿の触手が襲い掛かってきて、ライナはそれに対処するので手一杯になってしまった。最早スキルで分身を出す余裕も無い。


 のたうつ綿は、ヴァイオラス・デスサイズで斬っても斬ってもすぐに新しい綿を紡ぎ、より強固な触手を作り上げてしまう。


 頭が無傷だから、綿を操れるのだろう。ならばそこが損傷すれば倒せるはずだが、今のライナはそれどころではない。


 このままでは、やられる。


 ライナが歯を喰いしばった、その時。




 突如、空から巨大なレイピアが飛んで来て、ぬいぐるみの頭を貫いた。




「これは……キララさんのスキルっ?」


 貫かれたぬいぐるみの頭が裂け散り、辺りにうねっていた綿の触手が霧散する中、ライナは驚いた目で、レイピアが飛んできた方向に目を向ける。


 遠くで、希羅々が他の大和撫子に支えられながらも、レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を構え、立っていた。




 ***




「あなた、無茶をするわね……」

「仲間が戦っているので。いつまでも寝てはいられませんわ」


 遠くで、巨大な熊のぬいぐるみが消え去るのを眺めながら、希羅々は、自分を支える大和撫子の言葉にそう返す。


 一般の大和撫子に引き渡された後、希羅々は意識を取り戻した。それから彼女達に状況を聞かされ、ライナの助太刀に来たのである。


 無論、本調子ではない状態で近接戦闘などしようものなら、却ってライナの足手纏いになるのは分かっていたため、遠くから自身のスキル『グラシューク・エクラ』を発動し、巨大なレイピアを呼び出して、ぬいぐるみを撃破したというわけだ。


「おいしいところを持っていってしまいましたわ。システィアさんには、後で謝らないと。――うっ」

「あぁ、もう!」


 ふと、クラリとした希羅々。慌てて、隣の女性が彼女を支える。




 この二十分後、希羅々とライナは、負傷したレーゼを連れた愛理達と合流するのだった。

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