第209話『始末』
真衣華達が人工種ボンゴ科レイパーを倒してから、二十分後。
「それじゃあ、よろしくお願いします!」
服がボロボロになり、体中痣だらけの男性を警察に引き渡し、真衣華はペコリとお辞儀をする。
彼は、人工種ボンゴ科レイパーに変身していた男だ。人工レイパーが爆発した後、地面に倒れていたのである。気は失っているだけで、死んではいない。
人工レイパーを倒した後、ULフォンの通信障害も復旧したので、真衣華がすぐに警察に連絡して、人を寄越してもらった、という訳である。
男を乗せたパトカーが、新潟県警察本部へと戻っていくのをしばらく眺めてから、真衣華はホッと一息吐く。
「皆、本当にありがとう。ええっと、浅見四葉ちゃん、だよね?」
「何故私の名前を?」
四葉の記憶の中には、真衣華の存在は無い。初対面のはずなのに、と怪訝な顔を浮かべる。
最も、四葉が覚えていないだけで、真衣華は小学校低学年の頃、四葉と会話したことがあるのだが。
「私、橘真衣華。むかーしの話だけど、『StylishArts』主催のパーティ会場で、希羅々って友達と一緒に会ったことがあるんだけど、覚えてないかな? まぁ、私も四葉ちゃんのことを思い出したの、つい最近なんだけどね」
「橘? もしかして、開発部長の橘さんの娘さん?」
「そうそう。もしかして、お父さんと会ったことがある?」
「いえ。直接お会いしたことは無いわね。でも、優れた技術者だという話は聞いているわ」
四葉もアーツ製造販売メーカーの社員。一応、ライバル社の優秀な人間のことは頭に入れていた。
話している内に、パーティの日のことを思い出したのか、四葉は唸るような顔になる。
「薄らだけど、ちょっと話をしたことがあったかも。何を喋ったかは忘れたけど。――いや、それよりも、あのレイパーは何? レイパーを倒したら、人が突然現れたんだけど」
「人工レイパー。ほら、最近存在が確認されたっていう、あの特殊なレイパー」
人工レイパーを見たのは初めての四葉。
事情を知っている真衣華達が、人工レイパーについて掻い摘んで説明する。
愛理と志愛、セリスティアは、ついでに自己紹介も済ませた。
「成程。そうか、あれが噂の人工レイパーか。それにしても、あなた達も、随分妙な事件に巻き込まれたわね。いや、それはうちもか……」
「ん? どういうこと?」
「さっき警察に引き渡したあの男、うちの社員なのよ。名前は確か、安原剛。営業部の人間だわ」
「ええっ?」
人工レイパーに変身するあの男性……安原が気絶していなかったら、四葉は色々と問い詰めていただろう。安原が現れたことは、四葉には二重の意味で驚いていたのである。
「これは社長に報告しないと……」
「あのさ。一戦終わったばかりでこんなお願いするのも申し訳無いんだけど……希羅々達を助けるの、手伝ってくれないかな?」
真衣華が、そう言って四葉に頭を下げる。
人工レイパーは倒せたが、これで終わりではない。
「あぁ、そうだ! レーゼ達はどこに行った? 俺達、お前らと連絡着かなくなったから、それで心配になって探していたんだ」
「橘達が久世と戦って逃げた、という話は聞いている。行きそうなところをファルトさんが推理したら、ピタリと当たったんだ」
「見つけた時にはもウ、真衣華がやられそうなところだっタ。危ないところデ、運が良かっタ」
「そっか。それで皆来てくれたんだね。実は、あの人工レイパーに希羅々がやられて、私が引き付けている間に、先に安全なところまで向かってもらったんだ。中央区方面に向かって逃げて行ったよ。……四葉ちゃん、お願い出来る?」
希羅々の状態を考えると、一刻も早く病院まで連れて行きたい。そうなると、四葉のアーツ『マグナ・エンプレス』の飛行能力を頼りたかったのだ。
元々、自分が逃がしたピエロ種レイパーを探していた四葉は、一瞬困ったような顔をしたが、状況が状況だと判断したようで、「分かったわ」と言って頷いてくれた。
「ありがとう! じゃあ、早速レーゼさんに連絡して――」
真衣華がそう言った直後。
少し離れたところで、何かが爆発した音が響いた。
***
時は、ほんの数分前。
安原剛を乗せたパトカーが、新潟県警察本部へと戻る途中のことだ。
「ぅ……」
気絶していた安原は、車の揺れで目を覚まし、胡乱な表情で辺りを見回した。
最初は記憶が曖昧で、自分が今、どうなっているのか分からない様子。しばらく考えて、ようやく、自分が真衣華達にやられ、警察に捕まったと知ると――血相を変えて、暴れだす。
「お、おい! 大人しくしろ!」
安原の体は既にボロボロで、暴れると言っても大したことは無い。人工レイパーにもなれないため、両隣にいる警察官が取り押さえるのは容易だ。
だが、
「なんだなんだぁ? どうしたってんだ一体……」
安原はどこか怯えたような表情をしており、言いようのない、不吉な予感に苛まれる警察官達。
「た、助け――」
安原が震えた声で、そう呟いた直後。
「ん? なんだあれは?」
パトカーを運転していた、別の警察官が、遠くに、人型の生き物がいることに気が付く。
その直後だ。
その人型の生き物が、恐ろしい程の速度で迫って来た。
三十秒後。
パトカーのボディは砕け、窓ガラスは割れ、中の警察官、そして安原剛は殺されていた。
死体には、大きな顎で噛み砕かれたような跡が残っている。
そしてパトカーから離れていく、一人の男がいた。
彼も人工レイパー。久世の手下……いや、久世の手下である、人工種鰐科レイパーの手下だ。
ULフォンの電波妨害は、人工レイパーが倒された際に無くなる細工が施されている。
何故そんな仕様になっているかと言えば……倒された人工レイパーの口封じをするためだ。
警察と安原を殺したこの男も、GPSで居場所を特定し、やって来たのである。
男が、人工種鰐科レイパーに、安原を始末したことを伝えている間に、後ろでパトカーが爆発するのだった。
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