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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第24章 新潟市中央区②
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第207話『頼人』

 時は少し遡り、午後四時四十二分。


 愛理、志愛、セリスティアの三人は、逃げたピエロ種レイパーを探していた。


 そう、『探していた』という過去形だ。


 実は愛理達は、レイパーを捜索するのに、レーゼ達とコンタクトをとろうとした。しかし彼女達は現在、通信が阻害されているエリアにいるため、連絡が付かない。それを知らないセリスティア達は、何かあったのではないか、と心配になったのだ。


 そこで優一に尋ねたところ、レーゼ達が久世浩一郎を発見し、捕獲に動いたという情報を得た。警察所属の大和撫子もレーゼ達と合流しようとしたが、人工レイパーに邪魔された、という話も聞いた。


 さらには、レーゼが指示した倉庫は激しく争った形跡があり、久世もレーゼ達もいなかった、という確認も取れた。


 ここから、愛理達や警察は、レーゼ達が久世に襲われ、逃走しているのではないか、と推測。


 そういう訳で、愛理達は警察と協力し、レーゼ達を探すため、中央区二ツ山の外れに来ている。


 ピエロ種レイパーの捜索は、他の警察に引き継いだ。こちらは狙いが優一人だとはっきりしており、敵の行動範囲も中央区だけ。人数の多い警察に任せる方が、発見しやすいと判断したのだ。


 そして、探し始めて数分後。


「しかし、マーガロイスさん達を探すと言っても、一体どこを探せばよいのやら……」

「レーゼさん達と同じデ、こっちもULフォンで通信出来なイ。地図で自分達の位置が分からないかラ、迷ウ」


 愛理と志愛が、困り果てた顔で弱音を吐く。志愛も愛理も、普段は移動に地図アプリを多用する人間だ。地図は開けても、妨害電波によりGPSで自分の居場所は分からない。そうなると、途端に方向音痴になってしまう。


 だが、


「いや、当たりは付けられる。レーゼ達も、闇雲に逃げているわけじゃねーはずだ。多分、電波や魔法が通じるところまで行こうとすると、二ツ山の辺りからは出たがるんじゃねーの?」


 セリスティアだけは、冷静な頭でレーゼ達の動きを推理し、愛理の出したウィンドウに広がる地図を眺めていた。


「北側に行ってんなら、誰かと合流している可能性は高い。でも今も連絡がとれねーってんなら、別の方角に向かったってことだ。そんで地図を見ると、南側は住宅が少ない。自分達が襲撃されても、近隣住民に被害が出ないように、こっち側に向かったのかもな」

「南側となると、江南区の辺りですか」

「ああ。レーゼ達も、派手に逃げているわけじゃないみたいだし、そこまで遠くには行っていないと考えると、まずはここら辺を探してみよう。ここからそんなに離れてもいないしな」

「タ、頼もしイ……」


 感嘆の声を漏らす志愛に、セリスティアは僅かに口角を上げる。


「探し人の居場所が分からねーって事態は、何度も経験している。今回探しているのは、よく知った相手だし、行動の予測なんて朝飯前さ。地理は詳しくねーから、人が隠れそうな場所とかはお前らが教えてくれ。行くぞ!」


 セリスティアの言葉に、愛理と志愛は強く頷いた。




 ***




 それから、二十分後。


「ちっ。どこにもいねぇなぁ」


 江南区亀田中島四丁目。丁度、栗ノ木川を挟んだ、新潟新津線とは反対側の通りにて。


 周りを見回しながらも、セリスティアの舌打ちが響く。


「どうします? もう少し向こうに行ってみますか?」

「でモ、あっちは田んボ。流石ニ――ン?」


 開けた場所では、隠れられるような場所も無い。故に、違うところを探さないか、と提案しかけた志愛の目が、不審な動きを捕える。


 僅か一瞬だが、大きな動物が暴れていたような気がしたのだ。


 豆粒よりも小さい姿。瞬きをした瞬間には、見失っていた。


 流石に、何かの見間違いだろうと思った志愛だが、一応念のため、ULフォンのアプリを使い、遠くの景色を拡大してみる。


 次の瞬間、志愛の目が大きくみ開かれた。


「――いタ! 真衣華ダッ! レイパーと戦っていル!」

「何だってっ?」


 志愛が見たのは、人工種ボンゴ科レイパーを相手に、一人で戦う真衣華の姿。荒れ狂う人工レイパーの乱打を、二挺の片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』でひたすらに防いでいる。


 完全に防戦一方で、今にもやられそうになっていた。


「シア! アイリ! 俺は先に行く! すぐに助けに来い!」


 二人を抱えていては、真衣華の助けに間に合わないと判断したセリスティアが、志愛達の返答も待たず、自身のスキル『跳躍強化』を発動させ、弓なりに大きく跳んで彼女の元へと向かう。


 同時に、セリスティアの両腕に嵌った小手が巨大化し、銀色の爪が生えてくる。

 セリスティアのアーツ『アングリウス』だ。


「マァァァイカァァァッ!」


 超特急で真衣華へと跳んでいくが、今まさに、人工種ボンゴ科レイパーの拳が真衣華のアーツを弾き飛ばし、無防備となった彼女に追撃をしようとしていた。


 間に合え! というセリスティアの魂の叫び声が木霊したからか。


 人工レイパーが声のした方を見たことで、一瞬の隙が生まれる。


 その隙のお蔭で、人工レイパーの拳が真衣華に直撃するより早く、セリスティアが真衣華と人工レイパーの間に着地した。


 ほぼ同時に、レイパーの拳が放たれ、セリスティアはアングリウスでその一撃を受け止める。防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』も発動させ、襲い掛かる衝撃からも身を守るが、それでもセリスティアが一歩後ずさる程の威力だ。


 なんというパワーか……と、セリスティアは冷や汗を流すと同時に、真衣華の助けに間に合ったことにホッとする。


 人工レイパーは二撃目を繰り出そうとするが、拳を振り上げたタイミングでアングリウスの爪が人工レイパーの腹部にヒット。


 軽く怯んだ隙に、セリスティアは真衣華の手を掴み、『跳躍強化』のスキルを発動させて大きく跳び退き、敵から距離を取る。


「セ、セリスティアさんっ? なんでここにっ?」

「それより、レーゼ達はどこだっ?」

「三人はもう逃げたよ!」

「それでマイカ一人だけで戦っていたのか! 色々話があるが、それは後だ! まずは奴をぶっ倒すぞ! アイリとシアもすぐこっちに来る!」

「二人もっ? う、うん!」


 状況が呑み込み切れない真衣華ふぁが、とにかく助けが来ることは理解した。


 弾き飛ばされたフォートラクス・ヴァーミリアを広い、スキル『鏡映し』を発動させて二挺に増やし、構える。


 人工レイパーも姿勢を低くし、唸る。敵が増えて、警戒しているのだ。


 一定の距離を保ったまま睨みあうセリスティア達と人工レイパーだが、先に動いたのはセリスティア。


 スキルを発動させ、アングリウスの爪を向けながら、猛スピードで敵に突進していく。


 少し遅れて、人工レイパーが角を向け、彼女を迎え撃った。


 激しい音を立ててぶつかり合う、銀色の爪と、黒い角。


 一瞬力が膠着したが、すぐにセリスティアの方が弾き飛ばされる。


「ちぃ!」


 空中で素早く体勢を整え、上手く着地したセリスティアだが、自身の攻撃が効かないことに顔を歪めた。


 自分の方が早く動いたのに、押し負けたのだ。原因は明らかに、パワー不足。


 カームファリアでも痛感したが、未だセリスティアはそれを、改善出来ていなかった。鍛錬はしていても、レイパーのパワーには遠く及ばない。


 どうする……と思っていると、


「はぁぁぁアッ!」


 志愛が声を轟せ、人工レイパーへと飛び掛かる。遅くなったが、線路を超え、やって来たのだ。


 志愛の手には、銀色の棍。先端は虎の頭を模した形状になっているそれは、彼女のアーツ『跳烙印・躍櫛』だ。


 無防備な背中に棍の突きがヒットするが、浮かび上がった虎の刻印は、薄い。


 毛皮が分厚く、威力が吸収されてしまうのだろう。以前戦った、人工種ゾウ科レイパーも、体には熊の毛皮を纏っており、同じように攻撃が効かなかった。あの時と同じだ。


 カームファリアの時に発現した、不思議な力があれば、効いたのだろうか……と志愛は悔しさに眉を傾ける。


 刻印がかき消えると同時に人工レイパーは振り向き、志愛へと腕を振るう。


 だが、


「させん!」


 人工レイパーの足に、鋭い痛みが走り、志愛への攻撃が中断される。


 志愛に少し遅れて登場したのは、愛理。メカメカしい見た目の刀を持っている。彼女のアーツ『おぼろ月下げっか』だ。それで、レイパーの膝の裏を斬りつけたのである。


 奇襲を受けた人工レイパーは怒りの咆哮を上げ、腕を滅茶苦茶に振り回すが、志愛も愛理もすぐにその場を飛び退いたことで、当たらない。


「橘! 遅くなってすまない!」

「人工レイパー……こいツ、久世の手下カッ!」

「二人とも、気を付けて! そいつ、凄くパワーがある!」


 迂闊に敵の攻撃レンジに入れば、待っているのは激しい乱打。


 フォートラクス・ヴァーミリアが頑丈だったから猛攻を凌げたが、そうで無ければ、真衣華はとっくにやられていただろう。


 だが、言われずとも、志愛も愛理も、今の僅かな攻防で、敵の強さを理解していた。


 額や背中に汗を浮かべ、アーツを構えながら、四人は人工レイパーを囲む。


 しかし、誰も攻め込めない。敵の構えに隙が無く、タイミングが無いのだ。


 どうする……と、誰もが状況の打破に頭を悩ませた、その時。




 まるで隕石でも落ちてきたかのような勢いで、何者かが空から降って来る。




 その人物は、全身に銀色のプロテクターを装着しており、真っ直ぐ人工レイパーの方へと向かってきていた。


 人工レイパーは寸前でそれに気付き、その場を飛び退くと同時に、プロテクターを装着した人物が地面を抉り、着地する。


「ちっ、躱されたか……!」


 撒きあがるコンクリートの破片の中、舌打ちと共にそう呟いた人物の胸元には、紫色のアゲラタムの紋様が光っていた。


 彼女は、そう――本日雅と共に、火男のお面を着けたピエロ種レイパーと戦った人物。




 浅見あさみ四葉よつばだった。

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