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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第24章 新潟市中央区②
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第206話『偶蹄』

 一方、レーゼ・マーガロイス、桔梗(ききょう)(いん)希羅々(きらら)(たちばな)()()()、ライナ・システィアの四人。


 火男のお面を着けたピエロ種レイパーを探していた彼女達は、途中で久世(くぜ)(こう)一郎(いちろう)を発見した。彼は人工レイパー――人間が変身する異形の化け物で、レイパーと同じ力を持つ生命体だ――になるための薬を創った人物である。


 一度は希羅々の父、桔梗院光輝(こうき)が経営するアーツ製造販売メーカー『StylishArts』を乗っ取り、何やら良からぬことを企んでいたのだが、その事件の後、姿を消していた。


 警察やレーゼ、雅達が探していた人物。


 それが偶然とは言え見つかったことで、捕まえるチャンスと思い、行動に移したレーゼ達だが、実はそれは久世の仕掛けた罠だった。隠れていた二体の人工レイパーに返り討ちにされてしまったレーゼ達だが、何とか隙を突いて逃走し、事態を仲間に知らせる為に移動中である。


 レーゼ達が久世を見つけたのは、新潟市中央区山二ツエリア。そこから栗ノ木川を渡って東区に逃げたのだが、そこはULフォンによる通信、そして何故か魔法による通話も阻害されていた。


 そういう訳で、彼女達は現在、雅達と連絡がとれるようにするため、人目を避けつつ南下して、江南区へと向かっていた。


 人目を避けるのは、敵に見つからないようにするのもあるが、万が一見つかった際、他の市民への被害を防ぐ意味もある。そちらは田んぼが広がっており、民家が比較的少ない。


 時刻は午後五時ジャスト。


 逃走してから一時間程が経過し、周りは田んぼや畑がちらほら見えてきた。四人は丁度、北山跨線橋(こせんきょう)――信越本線の上を通る橋である――の辺りにいる。そこを過ぎれば、江南区だ。


 しかし。


「駄目ね。ミヤビ達と繋がらない」

「通話の魔法も、応答無しです」


 青髪ロングの少女と、銀髪フォローアイ――前髪で片目を隠す髪型だ――の少女が、力無くそう呟く。青髪の方がレーゼで、銀髪の方がライナである。


 二人の言葉を聞いた、エアリーボブカットの少女は、難しい顔をした。彼女が真衣華だ。


「困ったね……。希羅々、ここからどうする? 東に向かえば、さっきの倉庫からは離れるから、電波妨害されているエリアは抜けられるかもしれないけど……」


 真衣華の言葉を聞いた、ゆるふわ茶髪ロングの少女は、すぐには返答せず、小さく唸る。


「因みに真衣華、電波妨害の具合はどんな感じですの?」

「相変わらず繋がらないのは変わらないけど、若干マシになったかも。若干、ね」


 真衣華は『若干』という言葉を強調する。正直、誤差レベルと言えなくもない違いしか無かったのだ。


 真衣華の話し方で意図が伝わったからか、希羅々は眉間に皺を寄せる。


「このまま逃げても、埒が明きませんわね。もう電波妨害されているエリアを突破するのは諦めて、束音さん達と合流する為に北へ向かう方がよろしい気がしますわ。最も、束音さん達がどこら辺にいるのかは分かりませんが」

「中央区のどこかだろうね。少なくとも、江南区にはいないよ。……じゃあ、北に向かう?」


 と、真衣華がそう提案した、その時。


 ピクリと、ライナの眉が動く。


 ほんの僅かだが、殺気を感じたのだ。何者が奇襲を仕掛けてくる時のような、息を潜めているが故の鈍い殺気である。


 希羅々と真衣華、そしてレーゼは気が付いていない。隠密行動を主とするヒドゥン・バスターだからこそ気付けたものだった。


 三人に伝えようと口を開きかけた刹那、ライナは見る。


 真衣華の背後の茂みから、白い巨体が飛び出してくるのを。


 歪な頭部の化け物――人工レイパーだ。久世の部下だろう。


 頭からは捻じれた角が二本生えており、顔には茶色と白の縞模様がある。アフリカに生息する森の魔術師、ボンゴのような顔である。


 一方、体は白に毛皮に、黒い斑点が見受けられ、こちらはまるでパンダだ。二体の生物を掛け合わせた、奇妙な見た目の人工レイパーである。


 分類は『人工種ボンゴ科』といったところか。


「っ!」


 人工レイパーが接近していることを、ライナ以外の三人も、ここでやっと知る。


 レーゼ、希羅々の順番で気が付き、真衣華は少し遅れてしまった。背後から迫られたからだ。


 ライナとレーゼが動き出すが、それより早く、人工レイパーは剛腕を振り上げ、真衣華を殴り倒す体勢に入っていた。


 咄嗟に希羅々が言葉にならないような叫び声を上げ、真衣華を突き飛ばしつつ、人工レイパーと真衣華の間に割って入る。


 同時に、人工レイパーのスマッシュが希羅々にヒットし、彼女を大きく吹っ飛ばす。


 希羅々はライナとレーゼも巻き込み、三人一塊となって地面を転がっていってしまった。


「希羅々っ! 皆っ?」


 突然のことに声を張り上げる真衣華だが、吹っ飛ばされた三人に気を取られている暇は、本当は無かった。


 人工レイパーが、角を振り、第二撃を真衣華へと放っていたのだから。


 しかし、その攻撃は、重い金属音と共に防がれる。


 真衣華の手には、半月型の巨大な赤い斧が握られていた。彼女の持つ片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』だ。それを盾にして、角を弾いたのである。


 それでも、攻撃による衝撃でよろめいてしまった真衣華。


 そんな彼女に、人工レイパーは吠えながら、拳による乱打を放つ。


 真衣華は自身のスキル『鏡映し』を発動。アーツを複製する効果があるこのスキルで、フォートラクス・ヴァーミリアを二本に増やし、それを盾のように扱い、何とか敵の攻撃の嵐を防いでいく。


 両手が痺れ、足ももつれそうになりながらも、激しい攻撃に意識まで持っていかれまいと、真衣華は体に力を込める。


 レイパーの背後では、吹っ飛ばされたライナとレーゼがヨロヨロと起き上がろうとしていた。


 希羅々だけは、腕がピクピクと震えているだけだ。死んだ訳では無い。攻撃を受ける直前、防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動させていたため、何とか生きていたのだ。


 だが、当たり所が悪かった。敵の拳は希羅々の頭にヒットしており、脳を揺さぶられ、意識も朦朧としている。とても戦えるような状態では無い。


 そんな光景が飛び込んできて、真衣華は歯を食いしばった。


 拳や角がアーツにぶつかり、辺りに響く嫌な音に眩暈を覚えながら、真衣華は腹を括る。


「二人とも……希羅々を連れて逃げて! こいつは私が引き受ける!」

「マ、マイカちゃんっ? 何を考えているのっ? 無茶だよ!」


 必死で叫んだ真衣華に、ライナは顔を歪める。


 戦況は、どう見ても真衣華が劣勢だ。ライナの勘は、レーゼと三人で戦って、やっとイーブンになるかどうかだと告げていた。


 しかし真衣華は、即座に首を振る。


「二人が……二人が希羅々を守らなかったら、誰が守るのっ?」

「それは――」

「ライナ! マイカの言う通りにしましょう!」


 言い淀むライナに、レーゼがそう声を掛ける。彼女は既に、希羅々の肩を担いでいた。


「キララがヤバい……。今三人で戦っても、この子を狙われたら守り切れないわ!」

「でも……!」

「私はマイカを信じる……。あなたも信じなさい! 北に向かうわよ! 中央区は、そっち方面だから!」


 さっきの会話のこともあるが、真衣華がここに残り、希羅々が戦闘不能になった今、土地勘がある北の方が相対的に安全だと思ったレーゼは、そう指示した。


 レーゼの言葉に、ライナは悔しそうに歯噛みする。


 だが、希羅々の状態を見て、レーゼの言う通りにした方が良いと判断したのだろう。


 ライナは小さく頷くと、希羅々の反対側の肩を担ぎ、その場を離れる。


 人工レイパーは、逃げる三人を見て後を追おうとするが、その眼前に真衣華が割り込んだ。


 二挺の斧を構え、かつてない程の気迫で睨んでくる真衣華に、人工レイパーは僅かに体を強張らせる。


「ここから先は……行かせない!」


 自らを鼓舞するようにそう言うと、真衣華は人工レイパーに突撃するのだった。

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