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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第24章 新潟市中央区②
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第205話『恩返』

「ごめんなさい! 遅くなって……って、あら?」

「うぃーっす、ユウ……ん?」


 雅が処置室を出ていってから、数分後。


 鍔の広いエナン帽を被った、金髪ロングヘアーの女性と、薄紫色のウェーブ掛かったセミロングの少女がやって来た。


 ミカエル・アストラムと、ファム・パトリオーラだ。


 その後ろからは、前髪に癖のついている緑ロングヘアーの少女、ノルン・アプリカッツァがいた。さらに、ファムやノルンよりも幼い、美しい白髪の娘のラティアが、ノルンに手を引かれている。


 入ってきた四人は、お通夜のような雰囲気を纏う優とシャロンを見て、首を傾げる。


「あの、ユウさん、シャロンさん? 何かあったんですか?」

「……みーちゃんと喧嘩した」


 ノルンの質問に、死んだような声を返す優。


 それを聞いたファムとノルンは、互いに目を合わせる。「え? マジで?」と、とてもでは無いが信じられないといった顔をしていた。


「本当なの?」

「喧嘩……まぁ、うむ。そうじゃのぉ……」


 頭を抱え、溜息を吐く優の代わりに、シャロンが事の一部始終を説明し始める。




 ***




 五分後。


「――と、言うわけじゃ。ところでお主ら、タバネとはすれ違わんかったか?」

「ええ。入り口から、凄い速度で走って出ていくのは見たわ。急用かしら、と思ったけど、そっか。そういう訳があったのね……」


 声を掛けようとしたが、あっという間に姿が小さくなったのだ。チラっとしか見かけなかったため、様子がおかしいということには気が付けなかったのである。


「どうしよう……なんか途中から色々頭にきて、声を荒げちゃった。突き飛ばしたのは、絶対やり過ぎだったって……」


 悪いのはこの手か、と言わんばかりに掌をベッドに叩きつけるが、柔らかいところでは痛くも何ともない。


 気持ちは燻るばかりで、それが優をさらに苦しめた。


「さっさと謝って、仲直りすればよかろう」


 シャロンの言葉に、ラティアがコクコクと頷く。ラティアもこの場の雰囲気から、状況をちゃんと理解していた。


「それが出来れば苦労無いのよ……。みーちゃんと喧嘩したの、凄く久しぶりだし……」

「えっ? そうなの? 意外……でもないのかしら?」


 途中まで驚いた顔をしたミカエルだが、よく考えると、雅が女の子相手に声を荒げる姿が想像出来ず、妙に納得してしまう。


「うん。相手と分かりあうために、どうしても必要なら怒ることもあるけど、基本的には穏やかな子なのよ。だから、私がみーちゃんを怒ることはあっても、みーちゃんが私に怒ることって滅多になくて。だから喧嘩にならないっていうか……」

「でも、ないわけじゃないんでしょ? いつもはどうやって、元の鞘に戻っているの?」

「いや……その……喧嘩して最初に謝るの、決まってみーちゃんで……」


 ファムの質問に、優は苦虫を嚙み潰したような顔をする。優は意地っ張りな方だから、自分から素直になるのが苦手だった。誰かからクッションを差し出してもらわねば、振り上げた拳が下ろせない人間なのである。


 最も、高校生となった今は比較的改善している。だから、優も自分の気持ちを上手くコントロールして、行動に移す努力は出来るようになっていた。


 だが、


「今回は私が言い過ぎたから、ちゃんと謝んないと……。でも、どうやって謝ればいいか分かんない……」


 我ながら子供過ぎて、自分が嫌になる優。


「タバネも、出ていく前に『ごめんなさい』と言っておった。どのような形であれ、お主が仲直りの意思を見せれば問題なかろうて」

「どんな顔でみーちゃんに会えばいいか、分かんない」

「馬鹿者め」


 呆れた溜息以外、何も出ないシャロン。


 すると、


「シャロン。年頃の女の子はね、色々あるんだよ」

「儂も一応、竜の中では『年頃の女の子』じゃぞ?」


 小生意気な顔で、何やら失礼なことを言うファムに、シャロンは半眼を向ける。


 ノルンは、ファムの発言に苦笑いを浮かべていた。


 ラティアでさえ、ファムの言葉に怪訝な顔を浮かべる始末だ。


 だがミカエルだけは、ファムの発言に籠る、複雑な気持ちが読み取れた。


「まぁ、ユウはどうやってミヤビに謝るか、考えていなよ。ミヤビは、私が迎えに行くからさ」

「えっ?」

「ユウのところに連れていくよ、って意味。ミヤビ、今どこにいるの?」

「GPSだと、この辺り。うーん……なんかうろちょろしているから、行く当てが無くて彷徨っている感じがする」

「ここを出たら右にちょっと行った辺りだね。ラティアもいた方がいいか。一緒に行こ」


 ファムはラティアの反応も待たずに彼女の腕を引くと、早足で処置室を出る。


 だが、すぐに戻って来て、顔を覗かせたと思ったら、


「ちゃんと、ミヤビと仲直りするんだよー?」


 悪戯っぽくそう言った。


「……分かっているわよ。ごめんファム、ラティア、お願い」


 ファムはサムズアップをし、ラティアが後ろから顔だけ出して軽く頷くと、今度こそ雅を探しに行く。


 そんな彼女の後姿を見て、ノルンは目を丸くしていた。


 夏の暑い中、自ら進んで人探しを買って出るとは思わなかったのだ。ここに来る間も、ぶつくさ暑さに文句を言っていたくらいである。


「なんかファム、随分協力的。どうしたんだろう?」

「多分、恩を返しに行ったんだと思うわ」

「恩?」

「ファムちゃんも私も、ミヤビちゃんには大きな恩があるのよ」


 ミカエルが思い出すのは、初めて雅と会った日のこと。


 あの時、ファムとミカエルの間で起こったあれやこれは、実はノルンは薄らと悟っているだけで、ちゃんとは知らない。


「ファムちゃんがミヤビちゃんと話をしに行ったのなら、私はユウちゃんとお話しさせてくれないかしら。謝り方、一緒に考えてあげるわ」

「……すみません、助かります」


 自分一人でどうにか出来ないのを情けなく思いながらも、正直悩んでいる優は、素直にミカエルの提案に頭を下げるのだった。

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