表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第24章 新潟市中央区②
260/669

第203話『大破』

 八月十五日水曜日。午後四時七分。


 新潟市中央区紫竹山、新潟バイパス付近にて。


 黒髪サイドテールの少女、相模原(さがみはら)(ゆう)は、窮地に立たされていた。


 倒れた優へと迫るのは。手首と足首だけを膨らませた細身のボディで、大きく曲がった二本の角を生やしたレイパー。『ピエロ種レイパー』である。


 レイパーの顔には、ほっかむりを被り、口を窄めた男の仮面――火男(ひょっとこ)のお面が着いていた。


 レイパーが手に持っているのは、いつもなら優が使っているはずの、メカメカしい見た目をした弓型アーツ『霞』。敵に奪われ、丸腰となった優に、レイパーはアーツで止めを刺そうとしていた。


 だが、攻撃する寸前で霞は煙を噴いた、というのが今の状況である。


「トテッ?」


 番えていたはずの、濁ったように黒ずんだ矢型のエネルギー弾が霧散したのを見て、レイパーは驚きの声を上げる。


 再び弦を乱暴に引くが、霞はうんともすんとも言わない。


「マイジソノゾタハゾレバケゾ! ヘモノトレ……!」


 レイパーは苛立つように、アーツを放り投げると、どこからともなくジャグリングボールを三つ取り出す。アーツの代わりに、これで優を殺すことにしたのだ。


 赤・黄・黒の三色のジャグリングボールの内、赤色のボールを優へと投げつける。


 剛速球で迫るそれを、優に避ける術は無い。


「っ!」


 優が咄嗟に防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動させるが、ジャグリングボールの爆発の威力に吹っ飛ばされ、電柱に背中を強く打ち付け崩れ落ちる。


 ピエロ種レイパーは倒れた優に止めを刺さんと、もう一つ赤いジャグリングボールを振りかぶった。


 その刹那。




「はぁぁぁアッ!」




 そんな声と共に、レイパーの右側から誰かが飛び出てくる。


 ツリ目に、ツーサイドアップの髪型の少女……優の友人の、(クォン)()()だ。


 手には、全長二メートル程の銀色の棍。先端は、紫水晶を加えた虎の頭を模している。志愛のアーツ『(ちょう)烙印(らくいん)躍櫛(やくし)』だ。


 優にばかり気を取られていたレイパーの胸部を、志愛は思いっきり棍で突く。


 その衝撃で数歩後退させられるレイパー。棍で突かれたところには、紫色の線で、虎の刻印が刻まれていた。


 本来ならこの刻印がレイパーの肉体を破壊するのだが、ピエロ種レイパーは体に力を込めると、その刻印をあっという間にかき消してしまう。


「優ッ! 大丈夫カッ?」

「志愛……ありがとう!」


 棍を構え、油断なくレイパーを睨みつけながら、志愛はゆっくりとレイパーの周りを移動する。


 一瞬の間。


 だが次の瞬間、レイパーは志愛へと黄色いジャグリングボールを投げつける。


 志愛はそれを最小限の動きで躱し、一気にレイパーへと接近すると、レイパーの体に連続で棍を叩きつける。


 レイパーに殆どダメージは無く、返しの蹴りが放たれるが、志愛は軽やかなバックステップでそれを回避する。


 睨みあう両者。


 すると、


「いました! あそこです!」

「しゃぁ! まだユウが無事だ!」

「すまん! 遅れた!」


 三人の少女が駆け付ける。


 背の高い、三つ編みの少女は篠田(しのだ)(あい)()


 愛理を背負い、猛スピードでやって来る赤毛の女性は、セリスティア・ファルト。


 腕が鱗に包まれ、尻尾や翼を生やした少女はシャロン・ガルディアルだ。


 ピエロ種レイパーは、集まってきた優の仲間達を見ると、小さく首を横に振った。


「グボヨウレモ。レコソセマル」


 そう呟くと、ピエロ種レイパーは優を指差す。


「ロナジコノマアヘテレム。ハイコジ、ヒレヂレテビウボレレ。――サガミハラ、ユウ」


 自分の名前を呼ばれたことで、優の背中に悪寒が走る。


 彼女の顔が青褪めたことで、満足したのだろう。


 ピエロ種レイパーは、地面に黒いジャグリングボールを叩きつけ、大量の煙幕を発生させる。


「この……!」


 シャロンが怒りのままに翼をはためかせて煙を払うが、ピエロ種レイパーは、もう姿を消していた。


「ちぃっ! どこ行きやがった?」

「隠れておるのじゃろうが、気配を上手く隠しておるのぅ。儂の鼻も効かん……!」

「とにかく、病院と警察に連絡しましょう」


 辺りを警戒するセリスティアとシャロン。愛理は、志愛に肩を貸されてヨロヨロと立ち上がる優に、険しい顔をする。


 命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)で防御したものの、爆風で大ダメージを受けてしまった優。頭から血を流しており、今や気合と根性で立ち上がっているという状態だ。


 愛理は手早く連絡を済ませ、最後に優を一番心配しているであろう人物――束音(たばね)(みやび)だ――へ電話を掛ける。


 ワンコールの途中で、雅は出た。


『愛理ちゃんっ? さがみんは――』

「心配するな束音。彼女なら無事だ。だが」

『え? な、何があったんですかっ?』


 愛理は苦い顔で、地面に投げ捨てられた霞を拾い上げる優を見つめる。


 煙を上げていたアーツは、事切れたように大人しくなっていた。




「霞が……相模原のアーツが、おじゃんになった」

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ