表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第23章 中央区京王~山二ツ
258/669

第23章閑話

 時は、雅達がカームファリアを発った日。


 八月十一日土曜日午後十一時三十七分。


 ここはカームファリアの北にある国、ナリア。


 そんなナリアの東エリアには、遺跡がある。かつて雅が訪れ、魔王種レイパーと初めて相まみえた、ガルティカ遺跡だ。


 かつては観光地として有名だったこの遺跡も、今は地面に巨大な穴が空いている。雅達がここに来た際、遺跡の地下から巨大な島が浮遊したことが原因だった。


 今は真夜中なこともあり、全くと言って良い程に人気が無いこの場所に、三つの影がやって来る。


 内二体は、和洋の異なる鎧を着こんだレイパーだ。愛理とセリスティアに大怪我を負わせた、侍種レイパーと騎士種レイパーである。


 そして侍種レイパーの手に抱えられているのは、生まれたばかりの赤子のような姿をした、真っ黒い人型の生き物。


 雅達が『レイパーの胎児』と呼ぶ生き物だ。


 先日、カームファリアで大暴れしていたレイパー達が、何故ここにいるのか。


 それは、カームファリアで見つけた『ある物』を追いかけてきたからである。


 丁度、希羅々やファム、ラティアを見つけ、殺そうとした時のことだ。白い光球が、上空を飛んで行った。このレイパー達は、それを追って来たのである。


 白い光球はレイパー達から逃げるように飛び回っていたのだが、ここに落ちたのを、レイパー達ははっきりと目撃していた。


 意気揚々と白い光球が落ちたところへと向かうレイパー達。


 地面に出来た大きな穴の近くにそれはあった。眩かった白い光は、身を隠すように、ほんのりとしたものになっている。それでも真夜中であれば、見つけるのは容易だった。


 だが、騎士種レイパーがそれを拾い上げると、怒りを溢れさせるように、ワナワナと震え始める。


「マイソ……テヒカタジソトレモ!」


 白い光球だと思っていたそれは、ただの石ころ。


 吠えるような声を上げた騎士種レイパーは、それを思いっきり地面に叩きつける。


 一体どこで入れ替わったのか。いや、そもそも最初から偽物だったのか。


 確かに言えるのは、このレイパー達は白い光球に、まんまとしてやられた、ということである。


 地面に打ち付けられた石ころが、無残な音を響かせ砕けた。


 その刹那。


 低く唸るような声が、騎士種レイパーの背後から聞こえてくる。


 それが、レイパーの胎児の声だとすぐに分かった騎士種レイパーは、慌てて振り向くと、その場で跪く。


 侍種レイパーは既に、レイパーの胎児を地面に降ろし、土下座の恰好をしていた。


「カ、カルヘヨミロエコヒヤ、ヨボロウデ! ラ、ラヲウヘ――」


 騎士種レイパーは、まるで許しを請うようにそう言ったが、それを遮るように、レイパーの胎児は大きな声を上げて泣き始めた。


 刹那、二体のレイパーの背後の地面に、巨大なクレーターが出来る。


 何かが衝突して出来たようなものでは無い。信じられないことだが、そこにあった土が『まるごとごっそり消え去った』ことで出来たクレーターだ。


 震えながらも、必死に頭を垂れる侍種レイパーと騎士種レイパー。


 弱々しい赤子のようなレイパーの、まさに癇癪のような行為。にも関わらず、その所業に、この二体のレイパーは明らかに恐れをなしている。


 レイパーの胎児が泣き止んだのは、それから約一時間後。


 その頃には、辺りの地面は様変わりしていた。まるで流星群でも落ちてきたかのように、ボコボコの状態になっていたのだ。


 それでも、レイパーの胎児の癇癪が収まったことに、二体のレイパーはホッと胸を撫で下ろすと、レイパーの胎児を抱え、その場を立ち去るのだった。




 誰も訪れないが故に、遺跡でこんなことがあったことは、八月十五日現在でさえ、誰も知らない。




 ***




 時は、八月十三日月曜日。午後八時四十二分。


 新潟県警察本部、科捜研にて。


 部屋には、髪を肩口辺りで綺麗に切りそろえた女性が一人。優の母親の優香がいる。


 作業机の上には、今時珍しい箱型のコンピューターが置かれていた。


 先日、レーゼ達が三条市下田地区に行った時のこと。里山の奥で、久世がアジトにしていたログハウスを見つけた。そこを調べたところ、フロッピーディスクを入手したのだ。


 その後、人工種のっぺらぼう科レイパーとの交戦で、そのフロッピーディスクは破損してしまったのだが、それでも久世への数少ない手掛かりだ。


 レーゼ達が命辛々になりながらも持ち帰ってきたそれを、優香は様々なコネを使って何とか修理してみたのである。


 この箱型のコンピューターは、修理したフロッピーディスクを読み取るためのものだ。フランスのとあるマニアが、偶然コレクションしていたため貸してもらったのである。「何とかする」と格好つけた優香だが、正直望み薄だったので、見つかった時はホッとするよりも先に本当に驚いた。


 修理が成功したかどうかは、このコンピューターがフロッピーディスクを読み取れるかどうかに掛かっている。


 一度深呼吸し、手を合わせて「どうか上手くいきますように」と呟いてから、優香は恐る恐るコンピューターにフロッピーディスクを読み込ませた。


 一度読み込めれば、データをコピー出来る。この一回だけで良いのだ。


 古いパソコンかつ、フロッピーディスク自体も一度物理的に破損したもの。故に、読み込みに相当な時間を要したが――フロッピーディスクのフォルダが開いたことで、優香は奇声を上げてガッツポーズをとる。


 早速中を見た優香は、首を傾げた。


「これは……報告書が一つだけ?」


 容量が少ないから、多くの情報を得られるとは思っていなかったが、それにしたってもっと他に色々あると期待していた優香。


 最初からこれしか入っていなかったのか、破損した際にデータが吹っ飛んでしまったのか……どちらにせよ、少しがっかりしてしまう。


 だが、手掛かりは手掛かりだ。データが開ける内に急いでファイルをコピーしてから、中身を確認して――優香は、今度は盛大に舌打ちする。




 残念ながら、報告書は文字化けしていた。優香の頑張りは、まだまだ続きそうである。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ