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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第23章 中央区京王~山二ツ
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第202話『名前』

 新潟市中央区紫竹山のとある通りを歩く、三人の少女。


 一番背が高い、三つ編みの少女は篠田愛理。


 次に背が高い、赤髪のミディアムウルフヘアーの少女はセリスティア・ファルト。


 一番背が低い、ツリ目でツーサイドアップの髪型の少女は、権志愛。


 彼女達はレーゼ達がヤバい事態に陥っていることなど露程も知らず、優の自宅へと向かっていた。アーツの調子が悪い優の護衛の為である。


 優の家には既にシャロンがおり、四人体制で優を守るのだ。


 とは言え、実際に優を守るために動くのは志愛とシャロンになろう。愛理とセリスティアは病み上がりなのだから。護衛のメンバーに選出されたものの、実を言えば、愛理とセリスティアも守る対象だったりする。


 そんな彼女達だが、何やら難しい顔をしている様子。一分前に送られてきた雅からのメッセージが理由だ。


「束音の奴、苦戦しているようですね。でも、もう犠牲者が六人……」

「話を聞きゃあ、レイパーは何かしらのルールを元に殺しをしている、と。んで、後三人殺すつもりらしいな」

「死体の側ニ、マス目の書かれている紙が残されていたっていうのが気になりまス。クロスワードパズルみたいだけド、ヒントが無いから解けないようですネ」

「文字数的に、人の名前が入るらしいのはミヤビもイオリも分かったみてーだな。残りが予想出来れば、対処出来るんだろうが……」


 雅から送られてきたマス目の紙の画像を見ながら、あれこれと自分の意見を言っていくセリスティアと志愛。


 そんな中、愛理だけは眉を寄せながら、黙って画像をジッと見つめていた。


 クロスワードパズルのように並べられたマス目は、全部で四十六個。そこに被害者の名前が書かれている。


挿絵(By みてみん)




 何だか似たようなものを、最近見た記憶があるな……と思っていた愛理だが、突如頭の中に電流が走り、目を見開いた。




「ダブルオーワードパズルだ!」

「おぉっ? 急にどうしたアイリっ?」

「ファルトさん、志愛、これはダブルオーワードパズルですよ! 正式名称はオンリーワンスワードパズル……『ゐ』『ゑ』以外の五十音を一度だけ使って、マスを埋めていくパズルなんです! 今埋まっている文字を見て下さい! ダブリが無い!」

「えエ? そんな都合良ク……っテ、本当ダッ?」


 カームファリアから帰る馬車の中、優やミカエルと一緒に解いたパズルが役立つとは思ってもみなかった愛理。


 マス目が四十六個なのと、ヒントが一切無いことでピンと来たのだ。


「いや、でもアイリ。だとすりゃあ、レイパーはどうやって標的の名前と居場所を知っているんだ?」

「束音の話からすれば、奴は三日前に市役所に侵入しています。そこで調べたのでしょう。中央区役所で調べたから、被害者は全員中央区の女性だったんですよ。誰も殺さずに出て行ったのは、自分が決めたルールに反するからだと思います」


 ただ、市役所に侵入したところで、個人情報を調べるためにはいくつか障壁がある。その一つが指紋認証だ。一定の立場の人間でなければ、データベースを開くことは出来ない。


 敵は一体どうやってそれをクリアしたのか……と愛理が悩みだすと、志愛がハッとしたように口を開く。


「前に戦った姥の面のお面ハ、カベルナさんを操っていタ。火男のお面モ、同じ力があるんジャ……」

「それで職員を操って調べたわけか!」


 指紋認証なら、顔がお面で隠れていても問題は無い。


 これで繋がった、と三人は確信を持つ。


 と、なれば、だ。


「空いているマス目は十三個。残った文字は『う』『か』『き』『こ』『し』『に』『は』『へ』『ほ』『み』『や』『ゆ』『よ』だ。これがどこに入るか分かりゃあ、被害者を無くせるぜ!」

「濁音や半濁音は、ついていない字としてカウント……つまり『ぼ』や『ぽ』は『ほ』として扱います。『ゃ』は『や』の扱い。それも踏まえて考えないと……」

「出来上がるのは人の名前……残った文字なラ、自然と埋まるはズ!」


 既に埋まっているマス目からして、一人は苗字が『あ』から始まる女性。一人は苗字が『え』から始まる女性。一人は苗字が『さ』から始まり、苗字か名前の一部に『ら』が入る。


 それをヒントにして、三人がパズルを解き終わった刹那。


 愛理はすぐさま、雅へと電話を掛けた。


 ワンコールで出た雅へと、青い顔をした愛理は叫ぶ。


「束音! 標的にされている三人の人物が分かった! 次に言う二人の名前の女性のところに、冴場さんと一緒にすぐに向かってくれ! 一人は『あべきょうこ』さん、もう一人は『えにしぼみや』さんだ! アストラムさん達にもすぐに伝えて、向かってもらうようにする!」

『えっ? でも、どうしてその人が狙われているって分かるんですかっ?』

「このパズルは、五十音を一つずついれていくものなんだ! 残りの文字で出来上がるのは、その名前だけだった!」

『――ちょっと待ってください愛理ちゃん! じゃあ、最後の一人って……』


 頭の中でパズルを埋めていた雅は、残った文字で誰の名前が出来上がるのか知ると、悲鳴にも近い声を上げる。


 無理も無い、と、愛理は奥歯をギリっと鳴らした。彼女もそれが分かった時、背筋が凍ったのだから。




「あぁそうだ。残った文字で出来るのは――『さがみはらゆう』! 奴め、多分最初から相模原が目的だったんだ! 相模原の家は私達が近い! そっちは任せろ!」




挿絵(By みてみん)




 ***




 愛理達がいたところから、相模原家までは徒歩で約三分。


 セリスティアが二人を抱え、スキルを使って最短距離で向かえば、一分も掛からない。


 住宅街の端っこにある、青い瓦屋根の一戸建てが彼女の家だ。


 しかし家に着いた三人は、すぐに異変に気が付く。




 優の部屋は二階にあるが、その窓が割れていた。




「アイリは一階を調べろ! シアは家の周りだ! 俺は二階に行く! レイパーがいたら知らせろ!」


 そう言うと、セリスティアは二人の返事も待たずに『跳躍強化』のスキルを使い、割れた窓から中へと入る。


 すると、


「っ? シャロン!」


 ガラスの破片が散らばり、部屋は荒れている。明らかに争った跡だ。


 その中心で、シャロンが倒れていた。


 彼女を抱きかかえたセリスティアだが、すぐにホッと息を吐く。彼女はまだ息があった。どうやらただ眠らされていただけのようだ。


「おい! 起きろ!」

「……っう?」


 激しくシャロンの体を揺すると、彼女はすぐに目を覚ます。


 数秒ボーっとしていたシャロンだが、すぐにハッとすると、慌てて辺りを見回しだす。


「サガミハラはどこじゃっ?」

「ここにはいねぇ。アイリ達が他のところを探している。何があった?」


 まずは状況把握が先だ、と、荒ぶる心を無理矢理押さえつけ、セリスティアはそう尋ねる。


 シャロンの話を纏めると、こうだ。


 今から二分程前。優がお手洗いに行くと部屋を出た数秒後。


 突然窓を割って、火男のお面を付けたピエロ種レイパーが侵入してきたのだ。


 レイパーはシャロンに眠り薬を染み込ませた布を嗅がせて意識を奪ったと言う。


「意識が無くなる直前、部屋に優が戻ってきた気がする。儂が覚えておるのはそこまでじゃ……すまぬ!」

「部屋の荒れ方を見ると、ユウの奴、シャロンを助けるために矢をぶっ放したみてーだな。……シャロン、立てるか?」

「う、うむ……」


 セリスティアの肩を借り、ヨロヨロとシャロンが立ち上がった、その時。


「ファルトさん! 裏口から逃げた形跡があります!」


 愛理のその声が聞こえ、二人はそちらへと向かうのだった。




 ***




 一方、家から離れたところにある通り。以前、雅とレーゼが般若のお面を被ったレイパーと戦った辺りでは……優がゼィゼィと息を切らしながら走っていた。その手には、不調の弓型アーツ『霞』が握られている。弦を引っ張っており、矢型エネルギー弾を装填している最中だ。


 すぐ後ろからは、ピエロ種レイパーが追いかけてきている。


 シャロンの薄らとした記憶の通り、部屋から出たすぐ後、けたたましい音がしたので戻ったところ、ピエロ種レイパーが侵入していたのだ。


 ピエロ種レイパーの狙いが自分だとは思っていなかった優。


 シャロンを助けるために、咄嗟にアーツを呼び出して矢型エネルギー弾を放って敵の気を逸らし、そのまま家から逃げだした。


 ただ逃げるだけではすぐに追いつかれてしまう。故に、優は走りながらレイパーの方へと振り返る。


 たっぷり二十秒以上掛けて装填されたエネルギー弾をレイパーに放ったが、軽やかな動きでスルリと躱されてしまい、優は盛大に舌打ちをした。


 一応、優には霞の代わりに別のアーツが支給されているが、一定以上の強さのレイパー相手では護身ですら役に立たない。不調でも何でも、霞を使う方がマシだ。


 雅達にSOSを発信したくても、この状況ではそれもままならない。


 だがここで諦めたら、待っているのは死。


 殺されてたまるものか、と優が再び弓の弦を引いた、その時。


 レイパーは赤いジャグリングボールを投げつけてくる。


 ボールは優の足元に落ちると、大爆発を引き起こした。


 悲鳴を上げながら吹っ飛ばされる優。


 宙に体が投げ出され、地面に体を打ち付けた彼女は、立ち上がろうとしたところで、手に持っていたはずの霞が無いことに気が付き、顔を青褪めさせる。


 そして、爆煙の中から歩いて出てきたピエロ種レイパーの手に、自分のアーツが握られているのを見て、本能的に自分の死を悟った。


「ヒッモムゾ。メケタグメジマアヘニンアル」


 レイパーはそう言うと、弦を引き、矢型エネルギー弾を装填し始める。


 充填し終わるまで掛かった時間は三十秒。


 それが、優には途方も無く長い時間に思えた。


 動けない優へと、無慈悲に矢型エネルギー弾が向けられる。そのエネルギー弾は黒ずみ、今にも消えそうな程に揺らいでいた。


 まるで、持ち主への攻撃を拒否するように。







 レイパーが弓の弦を離そうとした瞬間、霞から白い煙が上がるのだった。

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