第200話『蛇鼠』
レーゼ達の行く手を阻んだのは、二体の細身のレイパー。
どちらも頭部が歪な形状をしていることから、人工レイパーと分かる。
一体は蛇のような顔をした、長い尻尾を持つ人型の人工レイパーだ。特徴的なのは、左腕が鰐の頭のような形状をしていることか。あれが標的の胴体を嚙み千切るためのものというのは、レーゼ達にも容易に想像がつく。分類は『人工種蛇科レイパー』だろう。
もう一体は、リスのような頭をした、人型の人工レイパー。背中からは蝙蝠のような羽が生えている。分類は『人工種リス科レイパー』か。しかしこちらは人工種蛇科レイパーと比べると、どのように攻撃をしてくるのか予想が出来ない。
「キララとマイカはリス頭の方をお願い」
レーゼはそう指示しながらも、ライナへと目配せしつつ、右手で剣型アーツ『希望に描く虹』を構えながら人工種蛇科レイパーの方へとジリジリと近づいていく。
そして左手でライナに指示を出すと同時に、一気に人工レイパーへと接近すると、眼前目掛け、横に一閃を放つ。
人工レイパーは一歩だけ後ろに退がりそれを躱すが、レーゼにとってそれは想定内の動きだ。
人工レイパーが反撃と言わんばかりに鰐の腕を伸ばしてくる。噛み付き攻撃だ。
レーゼは後ろに跳び退いて攻撃を回避するが、人工レイパーの攻撃は止まらない。
二発、三発……と鰐の口が襲い掛かってくるが、回避に徹すれば避けられない速度では無い。
敵の攻撃を躱しつつ、レーゼは少しずつ後ろに移動していく。
そして六発目の攻撃で一気に横に跳び退いた。
鰐の口が向かう先は、棚の柱。レーゼは攻撃を避けながら、ここに誘導していたのである。
鰐の口が柱に噛み付けば、僅かでも隙が生まれるはず。その瞬間に攻撃を仕掛けることが、レーゼの狙いだった。
だが――
「っ?」
レーゼの目論見は外れた。鰐の口は、柱を容易に嚙み砕き、少しの隙すらも生まなかったのだ。
背中に嫌な汗が伝うレーゼ。
ぼろいとは言え、金属で出来ていた棚だった。それが簡単に噛み砕かれたとなれば、自分のスキル『衣服強化』と、防御用アーツ『命の護り手』を併用しても、ただで済むとは到底思えなかった。
七発目の人工レイパーの攻撃が迫り、レーゼは少し大袈裟な動きでそれを躱す。
その時だ。
人工レイパーの背後に、誰かが迫る。
ライナだ。いつの間にか背後に忍び寄っていたのである。
ライナは鎌型アーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』で敵の背中を思いっきり斬り付けた。
しかし……フードの下で、ライナは顔を歪める。
細身の割に体は頑丈で、傷が付かなかったのだ。
人工レイパーは蛇の尻尾を振り回し、ライナに叩きつけて吹っ飛ばす。
思わず彼女の名前を呼びそうになったレーゼだが、ライナがヨロヨロと立ち上がったことで、寸前で堪える。今の一撃は、ちゃんと鎌で防いでいたのだ。
それでも、レーゼもライナも少しずつレイパーから距離をとっていく。
今の攻防で、二人は理解した。
こいつは、自分達だけでどうにかなる相手では無い、と。
***
一方、人工種リス科レイパーと戦う希羅々と真衣華は。
「やぁぁぁあっ!」
気合を込めた声を上げ、人工レイパーに迫る真衣華。その両手には、斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』が二挺。彼女のスキル『鏡映し』で、アーツを増やしたのだ。
加えて真衣華のもう一つのスキル『腕力強化』も発動。
威力の上がった攻撃を、Xの字を描くように人工レイパーに放つ。
だが、人工レイパーはそれを跳んで躱した。真衣華の攻撃は決して遅くは無く、リーチもある。
それをやすやすと回避するあたり、随分と身軽な相手だ。
しかし、人工レイパーが真衣華の背後に着地した、その瞬間。
「はっ!」
鋭い声と共に、針のように細く、鋭い突きがレイパーへと襲い掛かる。
希羅々が、人工レイパーが着地する瞬間目掛け、レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』で攻撃を放ったのだ。
レイピアの突きは、吸い込まれるようにレイパーの喉元へと向かっていく。
強烈な一撃が決まる、と希羅々が確信した、その刹那。
レイパーの姿が消えたと思ったら、突如腹部に鉛のように重い衝撃が走った。
レイパーが突きを躱し、希羅々の懐に入り込んで、膝蹴りのカウンターを喰らわせたのだ。
念の為に命の護り手を発動させたことで致命傷にはならなかったが、それでも骨が砕けたと錯覚しかねない痛みと共に、希羅々は吹っ飛ばされる。
「希羅々っ! ――っ?」
思わず希羅々に気を取られてしまった真衣華。そんな彼女に、人工レイパーは迫ると、素早い横蹴りを連続で放ってくる。
まるでマシンガンのような蹴りの嵐に、真衣華はアーツを盾にして受けるしかない。それでも、すぐに手が痺れ、アーツを落としてしまいそうになる程の衝撃が襲い掛かってきていた。
こんな防御、長く持つはずは無い。
真衣華は攻撃を受けながらも、敵の様子を伺う。
そして人工レイパーが蹴りを放つために足を後ろに引いた瞬間を狙って、攻撃に転じた。
それが敵がわざと見せた隙だとも知らずに。
真衣華の斧の一撃が、弧を描きながら人工レイパーの脇腹へと向かっていくが、威力が乗り切る寸前で、人工レイパーは手で斧を掴み、受け止めてしまう。
反撃が来る、ヤバい――と真衣華の顔が青褪めた、その時。
「真衣華から離れなさい!」
その声が響いたと思ったら、天井を突き破って巨大なレイピア――見た目はシュヴァリカ・フルーレだ――が出現した。
レイピアのポイントは、人工レイパーを真っ直ぐに狙っている。希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』である。巨大なレイピアを召喚する、希羅々必殺の一撃だ。
吹っ飛ばされた希羅々だが、上手く受け身を取っていたために、すぐに反撃に移れた。
人工レイパーも、見ただけでその威力を悟ったのだろう。真衣華を突き飛ばすと、すぐさまその場を跳び退いた。
降り注ぐ天井の欠片と共に、標的を失った巨大なレイピアは床を砕く。
敵を仕留めるには至らなかったが、何とか真衣華を救い出せたことに、希羅々は少し胸を撫で下ろした。
「真衣華っ? 怪我はっ?」
希羅々はすぐに真衣華のところへと駆け寄り、そう尋ねると、真衣華は首を横に振る。
「ありがと希羅々。でも、どうする? ちょっと手に負えないよ、あの人工レイパー……!」
遠くからゆっくりと近づいてくる、人工種リス科レイパーに、二人は揃って顔を強張らせるのだった。
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