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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第23章 中央区京王~山二ツ
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第199話『罠嵌』

 八月十五日水曜日。午後三時二十六分。


 新潟県中央区山二ツ。ピエロ種レイパーが榎本あんなを殺害した現場から五百メートル程度離れた辺りだ。


「さて、ここら辺でしたわね」

「念のため、アーツの準備しておく?」

「いえ、目立ちますし、止めておきましょう。……でも、いつでも出せる準備はしておいた方がよさそうですわね」


 ゆるふわ茶髪ロングの、いかにもお嬢様のような出で立ちの少女と、エアリーボブの髪型の、涼しげなワンピースを着た少女が、道を歩きながらそんな会話をしていた。


 桔梗院希羅々と、橘真衣華である。


 二人はレーゼに頼まれ、一時間前までは京王で、雅と四葉が逃がしたピエロ種レイパーを探し回っていた。


 山二ツではレーゼとライナがレイパーを探していたのだが、そんな二人から大至急、こちらに来てほしいと連絡が入り、今向かっている最中だ。


 そんな希羅々と真衣華の顔は、緊張に塗れていた。


 その理由は、レーゼ達がピエロ種レイパーを探していたところ、思いもかけない人物を見かけたと言われたからだ。




 久世浩一郎である。人工レイパー創り、かつてアーツ製造販売メーカー『StylishArts』を乗っ取った人物だ。




 久世は『レイパーを滅ぼすために人工レイパーを創った』と言うが、そのために女性が殺される被害が発生した。放っておけない相手で、今までずっと探していたが、一向に見つからなかった。


 何故こんなところをうろついていたのかは分からないが、そんな人物が見つかったのだ。スルー出来ない。


 二分後。


 希羅々と真衣華が到着したのは、古びた倉庫。


 長年手入れされていないのか、地面には雑草が生い茂り、建物も老朽化して屋根に穴が開いていたり、窓ガラスが割れている。


 誰も使っていないのは明らかだ。


 レーゼ達はどこにいるのかと、希羅々と真衣華が慎重に辺りを見回すと、黒いフードを被った人物が、物陰から手招きをしているのを見つけた。


 ライナ・システィアである。


 そしてその側には長髪の少女が、腰に収めたスカイブルーの長剣の柄に手を掛け、窓からこっそり中を伺っていた。レーゼ・マーガロイスだ。


 レーゼはこちらに向かってくる希羅々と真衣華を見ると、口に人差し指を当ててから、空中で指をスライドさせてウィンドウを出す。


『久世がこの中にいる。気づかれないように。他の警察や大和撫子もこっちに来ている。集まったら突入する』


 ウィンドウに書かれたその文字を見て、二人は無言で頷いた。


 希羅々はレーゼと同じように、ウィンドウを出現させると、文字を打ち込み始める。


『他に敵の姿は?』

『無い。でもライナ曰く、気配はある。ライナが辺りを警戒しているけど、どこから襲われても対処出来るようにしておいて』


 希羅々の質問にメッセージで返すと、レーゼは窓を指差した。


 二人も慎重に中を覗くと、息を止める。


 倉庫の中は備え付けの棚がいくつかある以外はガラガラだが、黒いスーツ姿の久世は確かにそこにいた。


 倉庫の真ん中で腕を組み、立っているだけだ。


『彼は何を?』


 希羅々がメッセージでそう尋ねるが、レーゼは首を横に振る。


 久世は倉庫に来てから、ずっとあの調子だった。


 だが、様子を伺うこと数分――久世が倉庫の奥へと向かいだす。


 そこに行かれると、この窓から監視することは不可能だ。


『追う。足音を立てないように、着いてきて』


 額に汗を浮かべながら、レーゼはそう伝えると、三人も小さく頷いた。


 倉庫の中が空のため、身を隠すのは難しかったが、それでも久世は四人に気付く様子は無い。


 緊張の糸が張り詰める。レーゼ、希羅々、真衣華は久世を追うことに全神経を集中させていた。


 そんな中、


「…………」


 ライナだけは、久世の行動に訝しむだけの心の余裕があった。


 久世の向かう方向には何も無い。これまでの彼の立ち振る舞いから、暇潰しで倉庫内を散策するような人間とも思えなかったライナ。


 そこでふとライナの脳内に電流が走り、三人を制止しようとした、その時。


 久世がぴたりと足を止める。


「……まぁ、そろそろよかろう」


 一人でそんなことを呟いたと思った、次の瞬間。


 久世の目が、レーゼ達が隠れているところへと向けられる。


「出てきたまえ。隠れているのは分かっている」

「っ?」


 レーゼ達の顔が緊張で青くなり、ライナは細く息を吐いた。


 自分達のことは、最初からバレていたのだ。久世が倉庫の奥に向かいだしたのは、レーゼ達をおびき寄せるための罠だった。


 気が付くのが遅かったと、ライナは奥歯を噛み締める。


 レーゼの指が動き、ウィンドウが出る。


『バレている以上、ここで一気に捕える。念のため、ライナは正体がバレないように。あなたはまだ奴らに顔が割れていないから』


 レーゼ達四人の視線が交錯し――小さく頷いた。


 レーゼは腰の剣型アーツ『希望に描く虹』を抜く。


 希羅々と真衣華の指輪が光る。希羅々の手には金色のレイピア、『シュヴァリカ・フルーレ』が握られる。


 真衣華の手には半円形状をした片手斧。『フォートラクス・ヴァーミリア』だ。


 ライナから伸びる陰からは、紫色の鎌が現れる。『ヴァイオラス・デスサイズ』である。


 四人は軽く深呼吸すると、アーツを構え、一斉に久世の方へと走り出した。


 その刹那。


「……私が丸腰でいるとでも思ったのか?」




 久世の言葉と共に、二体の異形の化け物がどこからともなく現れ、レーゼ達の行く手を阻んだ。

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