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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第23章 中央区京王~山二ツ
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第197話『協弱』

 マグナ・エンプレス。


 これが、浅見四葉の纏うアーツの名前だ。使用者の身体能力を三倍以上も上げ、衝撃を放ったり、宙を飛び回れる機能もある。


 アーツというのは剣や弓、杖等の武器の形状であることが一般的だ。ファムの使う翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』は比較的特殊な立ち位置だったりする。


 そう考えると、全身装備型のアーツというのは大変珍しい。


 これは人気が無いとか、誰も作らなかったのではなく、今まで『誰も作れなかった』からだ。エネルギーの制御が難しく、すぐにアーツがオーバーヒートしてしまうのである。


 だがアサミコーポレーションは三年かけて開発に取り組み、つい先日、ようやく実践投入出来るレベルまで持っていった。


 使用者の身体能力が低いと動くことすらままならないため、使い手の四葉でさえ、毎日のトレーニングはかかせない。マグナ・エンプレスだって日夜改良されている。しかしそれを差し引いても、このアーツは世間で大きな話題になっていた。


 量産化への課題は山積みで、現在はそれを一つ一つ潰しているところ。フィールドテストの真っ最中という訳だ。


「レイパーはこの辺りね! どこにいるっ?」

「っ! あそこです!」


 新潟市中央区紫竹山の東の上空。丁度、新潟バイパスと栗ノ木川の間にて。


 雅が指差す方向には、手首と足首だけを膨らませた細身のボディで、大きく曲がった二本の角を生やした、まるでピエロのような格好のレイパーがいた。


 よく見れば、お面を付けている。ほっかむりを被り、口を窄めて曲げた男の顔……火男のお面だ。


 カームファリアの宿でシャロンと優が戦った敵と、同じレイパーである。


 しかも、


「ヤバい! 誰か襲われています! 助けなきゃっ!」

「降りるわよ! しっかり掴まっていなさい!」


 そう叫ぶや否や、四葉はレイパーの方へと急降下していく。


 同時に、雅の右手の薬指の指輪が光を放ち、彼女の手に、メカメカしい見た目の大剣――いや、今はグリップが曲がっているため、大銃だ――が握られる。剣銃両用アーツ『百花繚乱』だ。


 雅はライフルモードになった百花繚乱の銃口をレイパーに向けると、グリップを握る手に力を込める。


「っ? 待ちなさい!」


 雅がレイパー目掛けて桃色のエネルギー弾を放つのと、四葉が制止の声を上げるのは同時。


 エネルギー弾は、女性に襲い掛かろうとしていたレイパーへと直撃して吹っ飛ばした。


 だが、


「ちょっと! 何で攻撃するのよ! 一気に近づいて奇襲すれば、そのまま押し切れるでしょう!」

「でも、あの人を助けないと!」

「私のスピードならギリギリ間に合ったわ! ――ちっ、仕方ない!」


 想定外の雅の動きに、四葉は大きく舌打ちをするが、すぐに頭を切り替えて、襲われていた女性のところへと向かっていく。


「大丈夫ですかっ?」

「あいつはこっちで何とかする! 早く逃げなさい!」

「あ、ありがとうございますっ!」


 襲われていた女性は、助けに入った雅と四葉にお礼を言うと、すぐにその場を離れていく。


 二人は軽く息を吐いてから、吹っ飛ばされたレイパーの方へと顔を向けた、その刹那。


 黒いジャグリングボールが、二人の方へと飛んでくる。


 ジャグリングボールは足元に落ちると、大量の煙幕を噴出し、二人の視界を覆ってしまう。


「どこだっ?」

「落ち着きなさい! ――ここか!」


 レイパーを見失う雅とは裏腹に、冷静に敵の気配を探っていた四葉。


 背後から、刃渡り一メートル程のシャムシールを手に襲い掛かっていたピエロ種レイパーが襲い掛かってくるのを正確に察知し、振り返り様にレイパーの腹部に、カウンター気味に右拳を叩き込む。


 そして左手にエネルギーを集中させると、レイパーへと衝撃波を放ち、煙幕諸共吹っ飛ばした。


 そこに、


「はぁぁぁあっ!」


 怯んだレイパーへと雅が飛び掛かり、ブレードモードにした百花繚乱で斬りかかる。


 二撃、三撃と次々に攻撃を繰り出し、レイパーの体に傷を付けていく雅。


 そしてスキル『共感(シンパシー)』で真衣華のスキル『腕力強化』を発動しながら、全力の回転斬りをレイパーへと叩き込んで吹っ飛ばした。


 レイパーは一回転して着地すると、雅と四葉を交互に見てから、黒いジャグリングボールを取り出す。


 ジャグリングボールを地面に叩きつけると、自分の姿を煙幕で覆い隠した。この二人相手では分が悪いと判断したらしく、逃げるつもりなのだ。


 そうはさせまいと、四葉が左手にエネルギーを集め、レイパーへと放とうとする。


 しかしその時、四葉とレイパーの間に雅が入り込む。


 雅も敵を逃がさまいと、突っ込んで行ったのだ。何とも間の悪いタイミングだった。


 それでも雅は途中で四葉の動きに気が付き、慌ててその場を跳び退く。


 少し遅れて放たれる、四葉の衝撃波。


 だが、煙幕が吹き飛んだ時、レイパーの姿はどこにもなかった。


 敵に当たった手応えもない。まんまと逃げられてしまったのだ。




 ***




「あなたのせいで敵を逃がしたじゃない!」

「っ! ご、ごめんなさい……」


 戦いが終わって一分後。


 四葉がズカズカと雅へと近づき、彼女を思いっきり突き飛ばしながら怒鳴り散らす。


 四葉のアーツはフィールドテスト中とは言え、レイパーとの戦績はアーツの評価に関わって来る。彼女が怒るのも無理からぬことだった。


 その時だ。


「遅れちまってすまねーっす! ……レイパーはどこに?」


 白バイと共に伊織がやって来た。雅からULフォンでレイパーの居場所は聞いており、今やっと到着したのである。


 四葉はイライラしたように鼻を鳴らすと、雅を睨みながら口を開く。


「逃げられたわ。どこにいるのやら……。全く!」


 そう言うと、四葉は淡い光を纏い、雅と伊織を置いてどこかへと飛び去ってしまった。


「ちょ、どこにっ?」

「……レイパーを探しにいったんだと思います」

「……どうしたっすか? なんか元気ねーみてーですけど?」

「あ、いや……私が上手く四葉ちゃんに合わせられなくて……」


 痛む胸を擦りながら、雅は四葉が飛んで行った方向を見つめるのだった。

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