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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第23章 中央区京王~山二ツ
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第196話『幼顔』

 八月十五日水曜日。午後二時十一分。


 新潟県中央区京王(けいおう)。丁度、雅の家から、川を挟んだ南東にある地区の、住宅街にて。


 パトカーが止まり、立ち入り禁止のテープが張られ、辺りには野次馬がちらほら見受けられる。明らかに事件現場だ。


 現場検証をしているのは、警察所属の大和撫子と鑑識。このことから、レイパーに関する事件なのは明らかである。そんな大人達の中に、桃色の髪にムスカリ型のヘアピンを付けた少女が混じっていた。明らかに場違いな彼女は、束音雅である。


 実は雅は、レーゼに頼まれ、ここに来ていた。彼女もこちらへと向かっている。


 雅の隣には、おかっぱで目つきの悪い女性。警察所属の大和撫子の、冴場伊織だ。


「こ、これは……」

「被害者は榎本(えのもと)あんなさん。大学三年生っす。死因は御覧の通り焼死っすね。全身焼かれていて、唯一無事なのは顔だけっすけど、それもこの有様で……」


 雅と伊織は、顔を強張らせながらも、死体を見てそんな会話をしていた。


 今日の正午過ぎ、ここにレイパーが現れ、一人の女性を殺した。二人が見ている死体は、その被害者のものだ。


 ただのレイパーによる殺人事件なら、一般人である雅が呼ばれることは無い。雅が来たのは、ちゃんと理由がある。これと似たような状態の死体を、つい最近見たことがあったからだ。


 死体は今説明があった通り、顔以外を焼かれているのだが、唯一残ったその顔も、何故か生まれたての赤子のようになっていた。


 勿論、被害者が元々そのような顔をしているわけではない。


 そして同じような事件が、ここ数日で他に四件発生していた。


 吐き気を抑えるように、口元に手を当てながらも、雅は口を開く。


「これは確かに、ワルトリア峡谷で見たバスターの死体と似ています。最も、彼女達はこの方とは逆で、顔がヨボヨボのおばあさんみたいになっていましたが……」

「同一のレイパーがやった訳では無いってことっすか?」

「同じでは無いかも。でも、きっとそいつはお面を付けたレイパーだと思います」

「雅さんとレーゼさんが戦った、般若のお面を付けたレイパーに殺された女性達も、顔がグチャグチャに引き裂かれていたって言ってたっすよね」


 伊織の言葉に、雅は頷く。


 どうにもこの類のレイパーに殺された女性は、何かしら顔に酷い損傷を受けている。


 ただの偶然とは、雅にはどうしても思えない。


 お面と関わりのある部位だからだろうかと、雅が考え込んでいると、


「あと気になるのは、やっぱこれっすかね?」


 伊織がそう呟きながら、被害者の側に落ちている紙を拾い上げる。


 そこには、正方形のマス目が、四十六個並べられていた。


挿絵(By みてみん)


「他の被害者の側にも落ちていたやつですよね。まるでクロスワードパズルみたい。それにしてはヒントが無いから、答えようも無いですけど」

「やっぱレイパーが置いていったってことっすよね。何のためか分かんねーっすけど……」


 と、二人がうんうん唸っていた、その時。


「何故あなたがここにいるの?」


 不意にそう声を掛けられ、雅は振り向くと、目を丸くする。


 そこにいたのは、目にナイフのような鋭い光を宿した娘。


 全身銀色のプロテクターを装着し、ヘルメットを被っている。全身装備型のアーツだ。胸元には、紫色のアゲラタムの紋様が刻まれている。


 浅見四葉だった。


「よ、四葉ちゃんっ? どうしてここに?」

「質問しているのは私なのだけれど……。こっちでレイパーが出たと聞いて、倒しに来たのよ。……遅かったけどね」


 四葉はちらりと被害者を見て、顔を顰める。


 すると、


「あの、こちらは関係者以外立ち入り禁止で――」

「彼女も部外者では? 一般人でしょ?」


 伊織がいきなりやって来たことに驚きながらも、四葉にそう言いかけるが、当の本人はギロリと睨みながら文句を言い、伊織の言葉を遮る。


 警察相手に中々に度胸がある態度だと、一周回って感心してしまう雅は、苦笑いを浮かべながら口を開いた。


「私はちょっと事情があって、特別に中に入れてもらっているんです。向こうで話をしましょうか。――伊織さん。少し席を外しますね」


 一言そう断りを入れてから、雅は四葉の腕に自分の腕を絡めると、反抗の声を上げる彼女を連れて、半ば強引にその場を離れる。


 流れるような雅の行動は、四葉に抵抗する暇を与えない。あまりに手慣れたようなその行為に、四葉のみならず伊織さえも戦慄の目を向けた。




 ***




「お面を付けたレイパーに会った? どんな奴だったっ?」


 数分後、雅が何故ここに呼ばれたのか……カームファリアでの出来事を簡潔に説明したところ、四葉の第一声がこれだ。


「一体はお婆さんの顔のお面で、もう一体は火男のお面でした」


 随分な剣幕に雅はたじろぎながらもそう答えると、四葉は小さく舌打ちをする。


「違う奴ね……」

「あの、四葉ちゃん。どうしました?」

「何でもないわ。まぁ、もうレイパーが逃げてしまったのなら、ここには用は無い。私はこれで――」


 と、四葉がそこまで言いかけたところで、雅のULフォンに着信が入る。


 レーゼからだ。


「四葉ちゃん、ちょっとごめんなさい。――もしもし?」

『ミヤビ! レイパーが出た! お面を付けた奴よ! 今場所を送ったわ!』

「ありがとうございます! ええっと、南万代(みなみばんだい)町から駅を通り過ぎて、紫竹山(しちくやま)方面に逃走中……って、私の家がある方向じゃないですかっ?」

『そうよ! 私もそっちに向かっている! イオリさんと一緒に、すぐに現場に行って頂戴!』

「分かりました!」


 そこで通話を切ると、雅は伊織のところへ戻ろうとして……肩を、四葉に掴まれる。


「話は聞こえた。お面を付けたレイパーでしょ? 案内しなさい!」


 有無を言わせない、四葉の言葉。


 伊織も一緒に……と雅が告げる間もなく、四葉の装着しているプロテクターが淡い光を放ち、雅と一緒に宙に浮く。


 そのまま、驚く雅の声と共に、紫竹山方面へと飛んでいくのだった。

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