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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第22章 カームファリア②
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第194話『保護』

 八月十一日土曜日、午前十時四十六分。


 一行は、カームファリア北東にある病院にやって来ていた。


 目的は二つ。


 一つは、入院していたセリスティアと愛理が退院するため、その迎えに来たということ。


 もう一つは、ラティアを連れて来ることだった。


 元々雅達がカームファリアに来たのは、ラティアの故郷の手掛かりを探すためである。その為にはラティアの思考や記憶を読み取る必要があり、そういう魔法の専門家兼、この病院の院長でもあるニケ・セルヴィオラを訪ねる予定だったのだが、レイパーの大規模な襲撃事件が発生し、先延ばしになってしまっていた。


 雅達がレコベラ草を採取したことで、怪我人の対応もある程度落ち着いてきたため、改めて伺うことになったのである。


 そういう訳で病院のエントランスで待つこと十分。雅達は、ニケのいる診察室まで呼び出された。


 ぞろぞろと部屋まで行き、扉を開けると、そこには白衣を着た、ブロンドの短めの髪の女性がデスクに座っていた。彼女がニケである。


 そして、その横にいたのは、


「うぃっす、出迎えサンキュー」

「心配をお掛けしました。もう大丈夫です」


 セリスティアと愛理だった。


 二人の様子は、骨を何本も折っていたとは思えない程、普段通りのものだ。驚くべき異世界の医療技術である。


「二人共、もう平気なの?」

「まあな。今レイパーが出てきても戦えるくらいには元気だぜ」

「派手に動くと、流石に体は痛みますが……」


 グルグルと右肩を回してみせるセリスティアに、愛理は驚きと呆れの入り混じったような目を向ける。同じことをすれば、愛理なら痛みに顔を顰めてしまうだろう。鍛え方が違うからなのかと、内心少し凹んでしまった。


「医者の私から言わせてもらうと、二人共レイパーと戦うのはまだ控えてもらいたいのですが……せめて自衛くらいに留めて頂きたいですね」


 ニケは念を押すように、若干言葉を強めに忠告する。最も、こう言ったところで大人しくしてくれる患者は稀だと分かってはいたが。


 軽く溜息を吐くと、ニケは早速本題に入るべく、再び口を開く。


「ミカエルから簡単に事情は聞いています。何でも、彼女の故郷を知りたいとか」

「ええ。事の経緯なんですけど――」


 ミカエルが詳しい事情を説明し始める。


 ラティアが日本に一人でいるところを保護されたこと。


 言葉が喋れず、地図も読めないため、故郷が分からないこと。


 そこで彼女の思考や記憶を読み取り、何か手掛かりを見つけたいということ。


 そういった話を、ニケは自分の顎に手をやり、フムフムと頷きながら聞いていた。


「……成程。事情は分かりました。皆さんにはレコベラ草でお世話になった恩もあります。私が出来る範囲で良ければ、力になりますよ」


 精神的に病んでしまったり、怪我等が理由で声が出せない患者は偶にいる。そうでなくても、生まれたばかりの赤子の診察をすることもあるニケ。そういった際に、人の思考や記憶を読み取る魔法は重宝する。


 ラティアはパッと見た限りでは、喋れないことを除けば健康そうだ。読み取り作業はスムーズにいきそうだと、ニケはそう思っていた。


「じゃあ、早速始めましょう。どうぞ、そこにお掛け下さい」

「よろしくお願いしまス。ほラ、ラティア」

「束音。ラティアは随分と権に懐いているようだが、何かあったのか?」


 志愛に手を引かれ、椅子に座るラティアを見て、愛理が雅に耳打ちする。


「……あー、実は昨日の夜……ん? 今日の夜ですかね? まぁ数時間くらい前のことなんですけど」


 病院にいた愛理とセリスティアには、まだラティアの脱走事件のことは伝えていなかった。


 概要をざっくりと説明すると、愛理は浅く息を吐く。


「そうか……大変だったな。お疲れ様。ところで束音」

「ん? 何ですか?」

「……私が何か喋る度に、ゾクゾクした顔をするのは止せ」

「……えぇ? だって仕方ないじゃないですか。こういうの、久しぶりなんですから」

「ちょっと二人共、うるさいわよ」


 コソコソ話が何時の間にか大きくなっていたようで、呆れ顔のレーゼに窘められてしまう。


 そうこうしている間に、ニケはラティアの頭に右手を乗せ、読み取り作業を始めていた。


 だが……ニケの顔は、段々と険しくなっていく。


 時折「ん?」とか「あれ?」等と呟いており、どうにも上手くいっていない様子だ。


 しばらく頑張っていたものの、やがて力なく首を横に振る。


「申し訳無い……読み取れませんでした」

「ええっ? どうして?」

「分からない……。この娘の思考を読み取ろうとすると、何故か弾かれてしまう。こんなことは初めて……」


 読み取る相手との相性が悪く、上手くいかないことは偶にある。だがそういう場合でも断片的な情報は読み取れるものなのだが、今回はそれすら無かった。本当に、全く何も読み取れなかったのだ。


 最初は自分の魔法がちゃんと発動していなかったのかとも思ったのが、どうもそういう感じでもない。


「この娘の頭の周りにバリアでも張られていると思ってしまう程、手応えが無い。困ったわ……」

「先輩。何か他に、手は無いんですか?」

「うーん……。この感じだと、私より技術のある者が試したところで、何がどうなるという感じでも無さそう。どうしたものか……」


 心底困り果てたように、頭を掻くニケ。


 ミカエルも、ニケが唯一の頼みの綱だっただけに、難しい顔で唸るしか無い。


「申し訳無い。折角来て貰って、危険な目にも遭ったというのに、こんな結果になってしまって……」

「いえ、先輩のせいではありません。でも、ラティアちゃんはどうしましょう……?」


 手掛かりが無いなら、ラティアの面倒を誰かが見る必要があるだろう。まさかこのまま放り出すわけにもいかない。


 勿論、ラティアを最初に保護した新潟県警に、彼女の今後の世話を任せるという手もある。


 しかし……志愛や雅、そして他の皆にチラチラと視線を送るラティアを見れば、そういう選択肢を取るのも心苦しかった。


 ならば必然、雅は口を開と、


「取り敢えず、何か他に手掛かりが見つかるまで、私の家で面倒を見るということでどうですか?」


 そう提案するのであった。

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