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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第22章 カームファリア②
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第192話『大刻』

「ぐっ……はぁっ! やぁっ!」


 雅の薙ぐ剣銃両用アーツ『百花繚乱』と、ミドル級ワルトレオン種が振るう爪の激突する音が、夜の荒廃した街中に響く。


 気合の籠った声を上げる雅だが、その顔は険しい。


 雅はチラチラと、レイパーの腹部へと目を向ける。そこには、前に戦った時に付けた傷があった。そこに攻撃を当てたいのだが、中々敵の懐に入れないのだ。


 しかも剣と爪がぶつかり合う度に、その衝撃が雅の体に確実にダメージを与えていた。


 かといって攻撃を避けるには、敵の攻撃速度は少し速過ぎる。襲いかかる爪を弾く、というようにしなければ、あっという間に雅の体は無残な肉塊へと成り果ててしまうだろう。


 先日のワルトリア峡谷での戦いで、このレイパーの動きは把握している。だから一人でもある程度何とか出来そうだ……と思っていた雅だが、その考えの甘さを突きつけられた。


 相手の動きを把握しているのは、レイパーも同じなのだ。


 単純な力圧しならば分があると分かっているから、レイパーは派手な動きは避け、前足を掲げて振り下ろすという単調な攻撃を繰り返していた。


 攻撃は重く、雅は『共感(シンパシー)』で真衣華のスキル『腕力強化』を発動させたとしても、打ち勝てるか怪しいと思っている。


 それでも、このまま敵の攻撃を受け続けては身が持たないのも事実。


 一か八か、雅は『腕力強化』を発動させ、腕の力を上げた強力な一撃を、迫り来る爪へと叩きつけた。


 一瞬膠着する、剣と爪。


 だが……雅の踏み込みは、僅かに甘かった。


「きゃっ!」


 レイパーの攻撃に負け、よろめかされる雅。


 爪は何とか受け流せたためダメージは無いが、出来てしまった決定的な隙は致命的だ。


 しかしレイパーが勝ち誇ったように前足を上げ、雅に振り降ろした、その時。


「ハァッ!」

「っ!」


 ラティアのところから戻ってきた志愛が飛び出てきて、レイパーの腕の側面に棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を叩きつけて軌道を逸らす。


 爪は、雅のすぐ側の地面に突き刺さり、砕けた石が、土と一緒に辺りに撒き散った。


「雅! 大丈夫カッ?」

「ありがとうございます! 志愛ちゃん!」


 雅は真衣華のスキル『鏡映し』を発動させ、百花繚乱を二つに増やしながら、志愛と一緒にレイパーの方へと走り出す。


 やっと舞い込んできた、攻撃のチャンス。無駄にするわけにはいかない。


 志愛が棍を敵の顔面に叩きつけて怯ませれば、その隙に雅が敵の腹部へと潜りこみ、Xの字を書くような連撃を、傷口へと命中させた。


 レイパーは激痛に吠えながらも、その場から大きく跳び退き、雅達から距離をとる。


 そして、追撃しようと接近してくる雅達に向かって、前足を薙ぐようにして叩きつけた。


 攻撃ばかりに目が向いていた雅と志愛に、その一撃を避けることは出来ない。


 仕方なく、アーツを盾にして攻撃を受けるが、レイパーのパワーの前に、完全に防ぎきることは出来ずに吹っ飛ばされてしまった。


 雅の二本のアーツは手から離れて宙に弧を描き、志愛のアーツは砕ける。


 だが志愛は吹っ飛ばされながらも、砕けた跳烙印・躍櫛の破片を掴みとり、再び跳烙印・躍櫛へと変化させた。


 刹那、飛ばされた百花繚乱の一本が、刃の真ん中から縦に半分に割れ、それぞれが跳烙印・躍櫛の両端へとがっちり嵌りこんで合体。


 志愛は着地するや否や地面を蹴り、再びレイパーへと向かっていく。


 レイパーは志愛を近づけまいと爪を振り回して攻撃してくるが、傷を攻撃されたからか、動きのキレはやや悪い。志愛は攻撃と攻撃の隙間を縫うようにして接近し、さらに敵の腕を足場にして跳躍する。


 背中を伝って背後まで移動すると、レイパーの反撃のテールスマッシュをバク宙して躱し、勢いよく地面を蹴って相手の懐へと潜りこんだ。


 瞬間、合体アーツの刃が、紫に激しく発光する。


 自身のスキル『脚腕変換』を発動させて腕力を急激に上げながら、レイパーの腹部の傷へと強烈な一撃を放った。


 志愛の攻撃は傷の中心へと正確に命中。


 確かな手応えに、志愛は勝利を確信した。


 だが、


「グルァァァアッ!」

「――何ッ?」


 レイパーは激しく悶えるものの、絶命には至らない。


 しかも、志愛を退けようと激しく体を暴れさせ、運悪く後ろ足が志愛の背中を強打する。


 咄嗟に防御用アーツ『命の(サーヴァルト)護り手(イージス)』を発動させたものの、吹っ飛ばされる志愛。強い衝撃に肺の空気が全て吐き出され、息苦しさを覚えた瞬間に建物の壁に全身を強く打ちつけた。


「志愛ちゃんっ?」


 雅の声に「グ……」と呻く志愛。ヨロヨロと立ち上がるが、すぐに膝を付いてしまう。


 受けたダメージは大きいが、それ以上に、今の一撃が効かなかったという事実に志愛は苦しんでいた。


 ワルトリア峡谷の時もそうだったが、どうにもこのレイパーには志愛の攻撃が通用しない。


 相性が悪いのか……もしくは、そもそも志愛の力が不足しているのか。


 どちらにせよ、今の自分では歯が立たないと知り、志愛は悔しさに歯噛みする。


 それでも、志愛はラティアに約束した。必ず戻ると。


 それを破る訳にはいかない、という使命感が圧し掛かり、しかし打つ手が無い、という現実に打ちひしがれてしまう。


 一体どうすれば……と、ダメージに鈍る思考を必死に回し、合体アーツを握る手に必要以上の力が籠める。


 痛みに悶えたレイパーも、もう落ち着きを取り戻しており、志愛へと振り返っていた。


 絶体絶命。


 その時だ。


「こっちですよ!」


 雅の放った桃色のエネルギー弾が、レイパーの後ろ足へと直撃した。


 大したダメージは無く、レイパーはお構いなしに志愛へと迫る。


 それでも雅はライフルモードの百花繚乱を構えて走り、足や胴体、頭部へと次々にエネルギー弾を放っていく。


 流石にイライラしたのか、レイパーは雅へと尻尾を叩きつけるが、それをするりと躱し、雅はさらに攻撃を続ける。


 雅のその姿が、志愛の頭をクールにさせた。


 戦っているのは、自分一人だけでは無い。


 自分の攻撃が効かなくても、雅にはまだ『グラシューク・エクラ』や『影絵』等の強力なスキルがある。上手く使えば活路は開けるはずだ。


 仲間の到着まで持ち堪えるという選択だってある。


 小さな子供(ラティア)を守るのに、自分一人で背負い込む必要などどこにも無い。


 勝ち筋が無くなるのは、諦めた時だ。


 そう思ったら、不思議と志愛の体に力が湧いてきた。


 志愛は合体アーツを脇に抱え、腰を落とし、深呼吸すると――走り出す。


 チラリと雅に目配せすると、雅は志愛のやりたいことを理解してくれたかのように、コクンと頷いた。


 自身の攻撃が効かないと決めつけるのだって、まだ早い。一撃で駄目なら、もう一発も打ち込めば良いのだから。


 倒せなくても、全く効かなかったわけでは無い。先程の一撃も、レイパーは痛みにもがき苦しんでいた。


「まだダ……!」


 雅がエネルギー弾で気を引いていてくれたお陰で、志愛の動きに気が付くのに遅れたレイパー。


 慌てて爪を振り回してくるが、焦ったレイパーの攻撃を避けるのは難しくない。


「勝つんダ……! 守るんダ……!」


 自らを鼓舞するように発せられた言葉と同時に、志愛のレイパーへと迫る速度は加速する。


 そんな志愛に、流石のレイパーも恐れを抱いたのだろう。


 彼女から距離をとろうと体を屈め、跳び退く体勢をとる。


 刹那、レイパーの腹部に、穴が出現し――そこから雅の百花繚乱が飛び出して、傷口へと直撃し、その巨体をかち上げた。


 レイパーにとって、完全に意識外の攻撃。


 レイパーのところに出現した穴は、雅の右側にもあり、彼女はそこに腕を突っ込んでいた。


 これはまさしく……ミカエルの妹、カベルナ・アストラムのスキル『アンビュラトリック・ファンタズム』だ。


 先日の一件の後、雅の『共感(シンパシー)』で新たに使えるようになったのである。


 さらに、敵が視認していない攻撃の威力を上げる『死角強打』のスキルも同時に使っており、その威力を絶大なものにしていた。


 流石にレイパーを倒せる程では無いが、志愛に攻撃のチャンスを与えるくらいに怯ませるだけならば充分。


「はぁぁぁぁアッ!」


 志愛が声を張り上げ、合体アーツを後ろへと引いた、その瞬間。




 離れた所にいた雅は、確かに見た。




 志愛の体が僅かな光を帯び、身に付けている服を変化させたことを。




 紫色の上着に、巻きスカート。それはまるで、韓国の民族衣装の、チマ・チョゴリのよう。


 志愛本人は、自分に起こったその現象には気が付いていないものの、レイパーの腹部に合体アーツを力一杯突き刺したところで、大きく目を見開いた。


 突き刺したところを中心に、レイパーの体に虎の刻印が浮かんでいたからだ。合体アーツで刻印が出るのは初めてだが、それだけではない。




 刻印はいつもの小さなものでは無く、レイパーの全身を覆う程、巨大なものだった。




 刻印の光が強まり、レイパーは抵抗するように野太く吠える。


 だが、志愛は負けじと声を張り上げ、矛を持つ腕に力を込め、全身を使ってレイパーを空中に投げ飛ばした。


 怒り狂ったようなレイパーの声が木霊するが、そうしたところで、巨大な刻印をかき消せるはずも無い。


 吠え声が一際大きくなると同時に、爆発四散するのだった。

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