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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第22章 カームファリア②
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第191話『逃隠』

 一方、カームファリアの中央エリア。


 先日のレイパー襲撃により壊滅的な被害を受けた場所。少しずつ復旧してきてはいるが、以前この辺りに住んでいた人達が戻ってこられるような状態では無い。


 そんな人気の無いエリアに、真夜中、一人の少女がいた。


 白い髪の、息を呑む程に美しい少女。ラティアだ。


 ラティアはしきりに後ろを振り向き、何度も転びそうになりながらも、壊れた建物の陰や、積み上げられた瓦礫の山々の合間に隠れるようにして、慎重にカームファリアの外へと向かって進んでいた。


 疲れに悲鳴を上げる体に鞭を打ち、こそこそと息を潜めるその理由は……彼女を追いかける、ミドル級ワルトレオン種レイパーがいるからだ。


 先日、ワルトリア峡谷で雅達に襲ってきた、青いライオンのようなレイパー。その体は三メートルを超える程の巨体である。


 その時と違うのは、姥の面を付けていないことか。


 宿から出たラティアは途中でこのレイパーに遭遇し、襲われてしまったのだ。


 まともに逃げればあっという間に追いつかれてしまうのは明白で、故にラティアは、身を隠せるところの多い、この中央エリアへと逃げてきたのである。


 最も、そんな行動は一時凌ぎにしかならないのだが。


 今は運良くレイパーの視界から消えているラティアだが、レイパーはラティアの匂いを正確に辿っており、中々彼女の近くから離れない。見つかるのも時間の問題だろう。


 ラティアは物影からこっそり辺りを伺えば……やはり数メートル先に、地面の匂いを嗅ぐことに集中しているレイパーの姿があった。しかも、段々とこちらに近づいてきている。


 早く逃げなければ……と思ったラティアは、慎重に後退していく。


 だが。


「っ?」


 レイパーばかりに注意していたせいで、足元にあった瓦礫に足を引っ掛けてしまったラティア。


 ゴロっという小さな音がなる。夜中とは言え、余程近くにいなければ聞こえない程度の音だ。


 しかし、レイパーにははっきりと聞こえたのだろう。ムクリと顔を上げたレイパー。眼には、転びそうになったのを何とか堪えたラティアが映った。


 ラティアが、レイパーに気が付かれてしまった、ということを理解した時にはもう、レイパーは勢いよく彼女に飛び掛っていた。


 ラティアが、襲いかかってくるであろう衝撃を想像して身を固くした、その時。




「させないっ!」

「ラティア!」




 そんな声が聞こえたと思ったら、二つの人影が飛び出してきて、レイパーの体の左側に、同時に斬撃と打撃を叩きつけた。


 ラティアばかりに意識が向いていたレイパーは、その攻撃に吹っ飛ばされてしまうが、空中で一回転し、巨体に見合わぬ軽やかな動きで着地する。


 そして、突如奇襲してきたその二人を睨み、グルル……と低く唸り声を上げる。


 一方、ラティアの眼は、驚きに揺れていた。


 レイパーに奇襲を仕掛けたのは、桃髪ボブカットの少女と、ツーサイドアップのツリ目の少女。


 雅と志愛だった。


「志愛ちゃん! ラティアちゃんを安全なところへ!」

「分かっタ!」


 雅が剣銃両用アーツ『百花繚乱』を構え、ジリジリとレイパーに近づきながら、志愛にそう指示を出す。


 志愛は頷くと、棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を脇に抱え込み、レイパーに目を向けたまま、ゆっくりとラティアの方へと近づいていく。


 レイパーはそんな志愛へと突進しようと姿勢を低くするが、刹那、志愛とレイパーとの間に雅が割り込む。


「させない! お前の相手は、私です!」

「ッ!」


 雅の言葉に、レイパーは標的を彼女へと移し変え、勢いよく突っ込んできた。


 雅は『共感(シンパシー)』でレーゼのスキル『衣服強化』を発動させながら、百花繚乱でレイパーの突進を受け止める。


 その衝撃はあまりにも重い。


 足に力を込め、一瞬だけ持ち堪えたものの、あっという間に雅の体は吹っ飛ばされてしまう。飛んで行くその先にあるのは、壁だ。


 このまま壁に激突すれば、防御力を上げている状態でも大ダメージは免れない。


 しかし、雅は空中で一回転し、壁に足から着地する。膝を上手く使って衝撃を和らげ、『衣服強化』のスキルを解除すると同時に壁を蹴って、百花繚乱を振り上げながらレイパーへと飛び掛った。


 そして今度は志愛のスキル『脚腕変換』を発動させ、敵の突進から今のジャンプまでに足に加わった衝撃を全て腕力へと変換。


 強烈な斬撃を、レイパーの鼻面へと叩きこむのだった。




 ***




 雅がレイパーと戦いを繰り広げている間、志愛はラティアの手を引き、近くの建物の陰へと連れてきていた。


「よシ、ここならいいだろウ。ここに隠れていてくレ」


 志愛はラティアにそう告げると、軽く深呼吸をして、雅の元へと向かおうとする。


 すると……走り出そうとした志愛の腰に、ラティアが抱き着いてくる。


 まるで「行かないで」と懇願するかのように。


 志愛は少し驚いた顔をしたが……持っていた跳烙印・躍櫛を壁に立て掛けると、腰に回されたラティアの手を、ギュッと握り締める。


 そのまま何か言おうと口を開いたが、何を言えばいいか分からず、しばらく固まってしまった。


 それでも、


「私も本当ハ……ラティアを一人にしたくなイ」


 何とか言えたのは、そんな言葉。


「でモ、行ク。行かなきゃならないんダ。だって私はラティアよりお姉さんだかラ。年下を守るのハ、年上の役目。あいつがもうラティアを襲わないようニ、倒してくル」


 言いながら、ラティアの手を握る志愛の手に、力が籠る。


 それからゆっくりとラティアの腕を広げてから、彼女の方へと振りかえった志愛。


 ラティアは志愛の左手首を掴むが、そんな彼女に対し、志愛は、ラティアの頭にポンと手を乗せた。


「……必ず戻ってくル。雅と一緒ニ。だから絶対、ここを離れないでくレ。約束ダ」


 志愛が力強くそう告げると、ラティアの瞳が揺れる。


 一瞬だけラティアの手に力が籠ったが……やがて志愛から手を離した。


 志愛は軽く頷くと、跳烙印・躍櫛を持って、雅の所へと向かうのであった。

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