表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第22章 カームファリア②
241/669

第190話『手玉』

 シャロンに向けて投げつけられた、黒色のジャグリングボール。


 球速は速いが、シャロンに捕らえられない程では無い。


 シャロンは竜化した腕を振るい、ジャグリングボールを弾き飛ばそうとする――が。


「っ、煙幕かっ?」


 爪がジャグリングボールに触れた瞬間、球は破裂し、大量の黒い煙を噴出させる。


 怯んだシャロンに、火男(ひょっとこ)のお面を被ったピエロ種レイパーはさかさず、二つ目のジャグリングボールを投げつけた。


 今度は黄色いボールだ。


 それがシャロンの体に触れた刹那、彼女の体に強烈な電流が走る。


「こ、この……!」


 今レイパーが投げたのは、触れた対象を痺れさせる効果がある。電流は感電死する程では無いが、相手をスタンさせることは容易だ。


 二つのジャグリングボールにより、動きが封じられたシャロンへ、レイパーは、今度は赤いジャグリングボールを投げつけた。


 レイパーも自身の煙幕によりシャロンの姿は見えていないが、動きが止まった標的ならば、見えずとも当てることは難しくない。


 そしてこのジャグリングボールは、相手に当たると大爆発を起こす効果がある。


 先の二つとは違い、敵にダメージを与えることが目的のもの。その威力は、煙幕を吹き飛ばし、地面に直径五メートル近いクレーターを作る程だ。


 響き渡る爆音。


 しかし――あると思われたシャロンの死体は、どこにも無い。


 木っ端微塵になったのだろうか……とレイパーが頭に『?』を浮かべた、その時だ。


「ふんっ!」


 空からシャロンが迫り、レイパーの頭上目掛けて尻尾を叩きつけてきた。


 シャロンは、雷の力を操る竜。電流による拘束は効果が薄い。


 硬直から一瞬で復帰したシャロンは、敵が何かをする前に飛翔し、相手が油断した隙を見計らって攻撃を仕掛けたという訳である。


 だが、寸前でシャロンの奇襲に気が付いたレイパーは、尻尾が命中する前にその場を跳び退き、躱してしまった。


 それでも、シャロンに焦りは無い。


(あのジャグリングボール……厄介じゃが、特性は見切った)


 最初に投げてきた黒いボールは、煙幕を出す効果がある。


 次に投げてきた黄色のボールは、電流によるスタン効果を持つ。


 最後に投げた赤いボールは、爆発を引き起こす。


 レイパーの持つジャグリングボールは残り三つだが、それらは黄が一つと、黒が二つ。つまり、もうこちらにダメージを与えることが出来るボールは無いと思われた。


 煙幕も電流によるスタンも面倒なものだが、殺傷能力が低いのなら怖くない。


 そんなシャロンの考えを知ってか知らずか、レイパーは黒いジャグリングボールを投げつけてくる。


 これは煙幕効果のもの。


 シャロンは尻尾を振るい、ジャグリングボールを叩き割ると、予想通り大量の黒煙が噴き出てくるが、これは想定済み。


 そして煙幕ならば、敵もシャロンの姿を見失う。


 煙に紛れ、シャロンは気配を殺してレイパーに接近。


 竜の強靭な爪を掲げ、レイパーの右側から斬り裂きに掛かった。


 だが。


「ちぃっ!」


 ガキンという甲高い音と共に、シャロンの爪が弾かれる。


 どこから出したのか、ピエロ種レイパーは全長一メートル程の、刃が湾曲した刀――シャムシールだ――を取り出し、シャロンの攻撃を防いだのである。


 さらに。


「っ!」


 火男の口から炎が吐き出され、咄嗟にシャロンは飛び上がってそれを躱す。


 予想外の火炎放射攻撃に、シャロンは眉を寄せた。


 思うように敵にダメージを与えられず、苦しい展開だ。完全に竜の姿になれば攻め切れそうだが、辺りの様子を見るに、宿泊客の避難はまだ終わっていない様子。そんなところで変身すれば、下手すると自分の攻撃で人々を巻き込んでしまうかもしれない。


 何か打開策は無いものかと、僅かに思考に気を取られていると、レイパーは再び黒いボールを投げてくる。


「小賢しい! ――っ?」


 飛んでいる今は、煙幕なんて全く怖くないと思ったシャロン。故に腕を振るい、ボールを叩き割るが……その瞬間、彼女の全身に強い電流が走る。


(馬鹿なっ? 黒いボールは煙幕では……?)


 明らかに黄色のボールが持つ、スタン効果。


 思いもかけない現象に驚愕するシャロンへと、レイパーは黄色いボールを投げつけてくる。


 空中で硬直させられ、動揺しているシャロンは、それを避けきれない。


 ボールが体に命中した途端、大爆発が巻き起こる。


「――っ」


 声も上げられず、地面に墜落したシャロン。


「お……おのれ……狡い真似を……!」


 体を強く打ちつけ、うつ伏せのまま苦しみながらも、そう呟かずにはいられなかった。


 ボールの色と、持っている効果は、一切の関連が無かったのだ。シャロンが勝手に決めつけていただけだった。


 己の馬鹿さ加減を呪う彼女に、ゆっくりと近づいてくるレイパー。


 爆発のダメージで動けないシャロンに跨ったレイパーは、シャムシールを振り上げた。そのまま彼女を串刺しにして殺すつもりだ。


 万事休すか……シャロンがそう思った、その時。


 突如、レイパーの体に白い矢型のエネルギー弾が直撃し、レイパーを吹っ飛ばす。


「シャロン! 大丈夫っ?」

「サ……サガミハラ……?」


 シャロンの目に、宿の屋根の上に登った優の姿が映る。


 優もライナも、当然この騒ぎには気が付いていた。


 今まで姿を見せなかったのは、ライナと一緒に宿泊客の避難誘導をしていたからだ。そちらがある程度落ち着いたため、ライナ一人に任せてこちらに加勢に来たという訳である。


 そしてレイパーを狙撃すると同時に自身のスキル『死角強打』の効果を使い、相手が視認していなかった攻撃の威力を上げたことで、レイパーを吹っ飛ばしたのだ。


 無論、それで倒される程、弱い相手では無い。レイパーはすぐに起き上がると、足に力を込め、屋上まで跳躍する。


 優は迎え撃とうと、弓型アーツ『霞』の弦を引いた。


 しかし。


「っ? こんな時に……!」


 エネルギー弾が、中々装填されない。中の部品が壊れていて、それが不具合を起こしていた。


 前から調子が悪かったが、それでもほんの僅かに矢の充填速度に遅延があった程度。だが今は、今までにないレベルで充填速度が遅い。


 弦を引く手に力が入る優。それでも中々矢を放てるところまでいかない。そしてその間も、レイパーは近づいてきていた。


「こ……こんのぉぉぉおっ!」


 跳躍中のレイパーが、シャムシールを振りかざす。優を攻撃の範囲に収めるまで、後僅か。


 すると、焦る優の叫びに呼応するように、一気に霞にエネルギーが集束し、矢型エネルギー弾が出来上がった。


 レイパーが湾刀を振り下ろすのと、優が矢型エネルギー弾を放つのは同時。


 一瞬先に敵に攻撃を当てたのは――優の方だ。


 大きな爆発音と共に、レイパーは吹っ飛ばされ、地面に背中から叩きつけられる。


 かつてない程の威力の矢型エネルギー弾。部品の不具合が功を奏し、エネルギーを過剰に充填したために起こったことだった。


 だが、追撃のために優が弦を引いても、今度は小さな矢型エネルギー弾が出来上がるだけ。


 これでは追撃出来ないと、優が歯噛みする。


 その間に、レイパーは起き上がり……今自分が攻撃を受けたところを、手で擦った。


 そこには、大きな火傷の跡。


 レイパーは低く、しかし楽しそうに唸ると、踵を返す。


「な……待て!」

「おのれ……」


 優とシャロンの言葉を背中に受けながらも、レイパーはそのままどこかへと去っていくのであった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ