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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第21章 ワルトリア峡谷
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第21章幕間

 八月七日月曜日。午前十一時十五分。日本にて。


 新潟駅南口から、そう遠くないところにある通り。


 人の通りは多くもないが、少なくもない。平日でも休日でも風景は大して変わらないこの場所を歩く、一人の女性がいた。


 外観の年齢は雅と同じくらい。背中まで伸びた、ハーフアップアレンジがされた黒髪の娘だ。若干目つきが悪いものの、それを踏まえても美人だ。


 彼女は、浅見(あさみ)四葉(よつば)。先日、雅の元に現れ、般若のお面を付けたレイパーを倒した女の子である。


 よく見れば四葉の来ている服は、少し汚れている。実は少し前、別の場所でレイパーと戦っていたのだ。


 襲ってきたレイパーを撃破し、これから会社に戻る途中なのだが、激しく体を動かしたからか、お腹が空いていた。少し早いがお昼にしようと思い、この近くにあるコンビニにでも立ち寄ろうとしていたという訳である。


 と、そんな時。


「あ……四葉ちゃん……」


 後ろから自分の名前を呼ぶ声がして、四葉は後ろを振り返ると……少し目を丸くする。


 そこにいたのは、目元が隠れるほど前髪の長いボブカットの少女。着ている服も少しヨレヨレで、お洒落には無頓着な様子が伺える。


「驚いた……。とんだ偶然ね、(あわい)


 鬼灯(ほおずき)(あわい)


 四葉の、中学校の時の同級生であり……彼女の数少ない友人だった。


「私も、まさかここで会えるなんて驚いた」


 本当に驚いたのかと疑ってしまう程、淡々とした声。彼女は、あまり感情を表に出さない娘なのだ。


 こういうところは昔と変わらないなと思いながら、四葉も頷く。


「最後に会ったのは……確か、中学二年の夏休み前だったかしら?」

「うん。四葉、忙しくなったから……お母さんの会社、手伝っているんだよね?」

「ええ。手伝い始めてから学校に行く時間も取れなくて、休み明けからはずっとリモートで授業受けさせてもらったわ。お陰で、クラスメイトで顔を覚えている人なんて、淡くらいよ」


 以前、雅と話していた時は随分と警戒心を顕わにしていたが、今淡と喋っている四葉は、普通の女の子の顔をしている。それだけ、四葉は淡に心を許していた。


 淡と友達になった切っ掛けは、本当に些細なことだ。


 四葉は、あまりお喋りが得意な人間では無い。他のクラスメイトと一緒にいても、何か会話をしなければならない強迫観念に囚われてしまうのが苦痛で、学校では一人でいることが多かった。


 そしてそれは、淡も同じ。


 二人共自然とクラスで孤立し、孤立した者同士、学校の授業で何かとペアを組むようになった。それから他愛も無い会話をするようになり、友情が芽生えたのである。


「四葉、今も会社のお手伝いしているの?」

「ええ。職業は……一応、会社員ということになるかしら? 高校も行っていないし。そっちは、高校はどんな感じ?」

「…………」


 四葉の質問に、淡は無言で下を向く。


 それで何となく、上手くいっていないのは読み取れた。苛められている、という訳では無さそうだが、孤立しているのかもしれない。


 今は夏休み中だからまだ元気があるようだが、そうでなかったらどんな様子だっただろうか。


 まぁこういう娘だから不思議では無いが、少し気の毒に思ってしまうのは仕方無いだろう。


「……私、ちょっと早いけどお昼にしようと思っていて。淡も一緒にどう?」

「いいの? 四葉、この後も仕事があるんじゃ……?」

「昼休憩するくらいの余裕はあるわ」


 昼食を摂った後は昼寝をして過ごすことが常の四葉だが、折角の再会である。淡の気晴らしにもなるだろうと思っての提案だった。


 淡が控えめに頷くのを見て、四葉はULフォンを起動させる。


 普段はコンビニでお昼を済ませる四葉だが、今回はそういう訳にもいかないだろう。当然ながら美味しいお店なんてものは詳しくないから、近くの飲食店を探し始め、内心で頭を悩ませ始めるのだった。




 ***




 それから三十分後。


 直感的に選んだにしては雰囲気が良いお店を引けたと、四葉は淡に気づかれないよう、こっそり安堵する。


 アンティークなインテリアに、控えめに流れる店内BGM。既に注文した料理は、互いに食べ終えていた。


 だが、まだ別れる気にもならず、四葉も淡も、グラスに残った水をちびちびと飲みながら、ボーッと店の空間を眺めている。会話は、殆ど無い。


 淡の学校生活のことは気にはなるが、先の反応から、これ以上突っ込んでも良いのか分からない四葉は、結局何も聞かずにいた。淡から出る数少ない言葉は、四葉の近況についての質問ばかりだ。


 だが、自分のことばかり話していたせいだろうか。


 ふと、本当に何となく、四葉の脳裏に昔の記憶がチラついた。


「何だか久しぶりね。昔は、お母さんや黒葉と一緒に、偶にはこういうお店に来ていたわね」


 黒葉くろばというのは、四葉の妹だ。


「意外。お母さん、仕事一筋でしょ?」

「今ほどじゃないわよ。前は、家族で外食する時間くらいは作っていたわ」




「変わったのは……やっぱり、妹さんが亡くなってから?」




「……っ」


 淡の相変わらずの平坦な声に、四葉のグラスを握る手に力が入る。


 彼女の質問にしばらく無言を貫いていた四葉だが――首を縦に振った。


 浅見黒葉は三年前、レイパーに殺されていたのだ。


 先日、雅に「妹は元気か」と聞かれた時、心臓を掴まれたような感触が走った。今も同じだ。あの時はつい「元気だ」と嘘を吐いてしまったが、それで却って四葉の心が苦しくなって……正直、後悔していた。


「まだ、妹さんを殺したレイパーは見つかっていないの?」

「ええ。私も、お母さんも、妹の敵をとるためだけに生きている。それは今も変わらない」


 四葉の瞳に宿るのは、憎しみの炎。


 無意識に、グラスを割ってしまいそうな程に手に力を入れていた四葉は、続ける。




「絶対に見つけるわ。――あの、お爺さんの顔のお面を付けたレイパーは」

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