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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第21章 ワルトリア峡谷
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第185話『吐露』

「う……ここは……?」

「あ、カベルナさん! 気が付きました!」


 戦闘が終わって三十分後。


 目を覚ましたカベルナの視界に真っ先に映ったのは、心の底から安堵した表情のノルンだった。


 ノルンの声で、雅やレーゼ達が自分のところへと駆け寄ってくるのを、カベルナはボーッとした頭で見つめ……しばらくしてから、ようやく自分の身に起こったことを思い出す。


「カベルナさん! どこか具合悪いところは無いですか? 体とか、痛くありませんか?」

「いや、多分大丈夫……。ところで、レイパーは? 何か私、あのお婆さんの顔のお面を被って……そこから先の記憶が無いんだけど……」

「あー、それは……」


 雅が、カベルナの質問に口篭る。


 カベルナから剥ぎ取った姥の面。


 実はすぐに雅達が破壊しようとしたのだが……攻撃を仕掛けるより早く、姥の面は宙に浮かび上がり、どこかへと飛び去ってしまった。


 レイパーも謎のお面も逃がしてしまい、彼女達が落胆したのは言うまでも無い。


 そこら辺を掻い摘んで説明すると、カベルナは溜息を吐く。


「そっか……私、お面に操られて……なんかごめん。迷惑掛けちゃったみたいで」


 そう言うカベルナの視線は、レーゼ達の体の傷に向けられていた。


 明らかに自身のアーツ『セイクリッド・ラビリンス』で攻撃されて出来たものだ。どうしたって、責任は感じてしまう。


 しかし、誰もが首を横に振る。


「いえ。あんなこと誰にも想像出来ませんでしたし、仕方無いですわ」

「誰も殺されなかっタ。それだけでモ、充分でス」

「……そう言われると、恐縮しちゃうねぇ。あはははは……」


 責められないことが却って辛かったのか、カベルナの声には力が無い。


 だがカベルナは一瞬ノルンの方をちらりと見てから、自分の頬を両手でバチンと叩き、気合を入れる。


「レコベラ草は、もうちょっと先だね。少し休んだら、進もうか」

「いいのかしら? あまり無理をしない方が……」

「大丈夫大丈夫。レイパーに足止めされちゃったし、早く行かなきゃね」

「カベルナさん……」


 明らかに無理をしているようなカベルナの様子に、雅達は揃って不安そうな目を向けるのだった。




 ***




 そして、十四時三十七分。


 雅達の不安とは裏腹に、それからは特に大きな問題も無く、レコベラ草が生えている場所に到着した。


 そこは荒野であり、とても草木が育ちそうも無い場所だったが、レコベラ草というの過酷な環境化でしか育たないのだとカベルナは言う。


 ドクダミによく似た見た目をしており、かなり小さい植物のため、一行は手分けして探すことにした。


 それでも、中々に見つからない。


 レコベラ草を持ちかえるために用意したリュックは、四つ。


 一時間掛けて探しても、ようやくリュックの一つに半分くらい溜まる程度しか採取出来なかった。


 既にバスターがいくらか採取したからというのもあるだろうが、元々レコベラ草は見つけ辛いものらしい。


 ニケからそう説明されていたので覚悟はしていたが、想像以上である。


 因みにバスターが集めたレコベラ草は、レイパーの襲撃により全て駄目になってしまっていた。


 雅達は何度も休憩をとりつつ、探すこと三時間。


 日が落ちはじめた頃。


「あの、カベルナさん。ちょっと聞いてもいいですか?」

「ん? 何々?」


 丁度、雅がカベルナと二人きりになったタイミングで、雅が声を掛けてきた。


 カベルナは反応しながらも、レコベラ草を探す。


「ノルンちゃんのこと、どう思っていますか? 不躾でごめんなさい。でも、何度かチラチラ見ていたから、ちょっと気になって」


 雅の質問に、カベルナの動きがピタリと止まる。


 だが、雅は構わず言葉を続ける。


「実は、私知っているんです。ノルンちゃんの持っているアーツが、本当はカベルナさんに渡されるはずだったことを。ちょっと前に、ヴェーリエさんから話を聞いていて……」

「そっか。そう言えば姉さんが、友達が実家に滞在していたって言っていたっけ。ミヤビちゃんのことだったんだ」

「ええ。だから、ミカエルさんとヴェーリエさんの間にあるわだかまりも知っていますよ。だからこそ、カベルナさんの気持ちも知っておきたいんです。勿論、誰かに公言したりはしませんよ」


 こんなことを聞いたのは、カベルナが姥の面に操られた際、真っ先にノルンへと攻撃をしたからだ。それが何となく、心に引っかかっていたのである。


 ともすれば面倒な事態を招きそうな質問だが、敢えて聞くことに踏み切れたのは、カベルナが今持っているアーツ、セイクリッド・ラビリンスの存在があったからだ。


 雅は思う。恐らくだが、カベルナは杖型アーツ『無限の明日』がノルンの手に渡ったことは、ある程度割り切れているのでは無いか、と。だから別のアーツを手に入れることにしたのだろう。


 ただ、完全に吹っ切れていたという訳でも無いはずだ。お面を被ったことで、ネガティブな感情が表に出てしまったのかもしれない。


 今は近くに他の人もいないから、丁度良いタイミングだと思ったのだ。


 雅の質問に沈黙すること、一分。


「……いやぁ、凄いね、あの子。流石姉さんの見込んだ娘なだけあるわ」


 観念したようにそう呟くと、カベルナは語り始めた。


 やはりと言うべきか、ミカエルが無限の明日をノルンに渡したと聞いた時は、穏やかではいられなかったカベルナ。


 ショックのあまり、実はミカエルへ直接文句を言いに、ウェストナリア学院に訪れたこともあったそうだ。


「でもさ、私見ちゃったんだ。姉さんとノルンちゃんが、魔法を練習しているところ。ノルンちゃんが額に汗を浮かべながら、風の魔法を操るのを見たら……姉さんがノルンちゃんにアーツを渡した理由も分かったっていうか……」


 自分とは明らかに才能が違うと、カベルナはその時そう思ったらしい。


「結局、その日は二人に会わずに帰ったんだ。それでよくよく考えたらさ、杖型のアーツなんて、私が持っていても使いこなせないよねって思って……。ほら、私の魔法って、身体能力の強化だから」

「あー、確かに。武器が杖って、ちょっと噛み合いが悪いかもしれませんね」


 フォルトギアで、ミカエルは言っていた。『無限の明日は、カベルナが持つには過ぎたアーツだ』と。その意味が、今はよく分かった。


「ただ、やっぱりアーツは欲しいなぁって思ってさ。それで、自分でアーツがありそうな場所を調べて、それでイェラニアに行ったのよ」

「アストラム家からは、代わりに別のアーツが贈られたりはしなかったんですか?」

「母さんからそういう話はあったんだけど、断っちゃった。アストラム家のアーツって、杖ばっかりで……イェラニアで自分にぴったりのアーツが見つかって良かったよ、ほんと」

「おぉぅ……。え? 大丈夫でしたか? ヴェーリエさん、怒ったり……」


 恐る恐る聞くと、カベルナははっはっはと笑い声を上げる。


「勿論怒られたよ。でも、最終的には納得してもらえたね。そこで無限の明日への未練はスパッと切れた……はずだったんだけど……」

「今日偶然ノルンちゃんに会ったら、やっぱり心がざわついた?」

「うん。自分でも意外だった。でも、それももう落ち着いたけどね」


 そう言うと、カベルナは空を仰ぎ――そのまま続ける。


「今日のレイパーとの戦いを見て、やっぱりあのアーツはノルンちゃんが持つべきだって思ったよ。ちゃんと使いこなして、凄い魔法まで使っちゃって……。多分だけど、最後に私からお面を引き剥がしてくれたのって、ノルンちゃんでしょ?」

「分かっていましたか。ええ。そうですよ。……あの、カベルナさん」

「ん?」

「もし良かったら、ノルンちゃんにもカベルナさんの気持ち、話してあげてください。あの子も、意図せずトラブルの種になっちゃって、色々不安みたいだから……」


 雅のお願いに、カベルナは一瞬黙ったが……やがて静かに「分かったよ」と言ってくれたのだった。

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