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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第21章 ワルトリア峡谷
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第183話『支配』

「カベルナさんっ!」


 運悪く、姥の面をかぶってしまったカベルナ。


 フラフラとした足取りで自分達の方へとやって来るのを見て、猛烈に嫌な予感がした雅。


 声を掛けるも、返事は無い。


 代わりに、エストック型アーツ『セイクリッド・ラビリンス』の切っ先を向けてくる。


 次の瞬間。


 カベルナとノルンの横に丸い穴が開く。


 カベルナのスキル『アンビュラトリック・ファンタズム』だ。


「きゃっ?」


 ノルンが咄嗟に跳び退くと同時に、穴からセイクリッド・ラビリンスが襲いかかってくる。


「カベルナさんっ? なんでっ?」

「無駄よノルン! きっと、あのお面に操られているんだわ!」

「雅ッ、どうすればいイッ?」


 志愛の切羽詰った質問に、雅は一瞬言葉を詰まらせるが、すぐにお面を指差す。


「あれを剥がして下さい! 一発攻撃が当たれば、何とかなります!」


 雅がそう言えたのは、『共感(シンパシー)』でファムのスキル『リベレーション』を使ったからである。


 拘束の解き方を教えてくれるこのスキルが、そうしろと雅に告げたのだ。


「来ますわよ!」


 希羅々の声がした刹那、再びノルンの横に穴が出現。


 ノルンは杖型アーツ『無限の明日』を振るい、緑の風で出来た壁を出現させるが、カベルナの突きはそれを貫通し、ノルンの頬を掠める。


 レイパーの攻撃すら防ぐノルンの防御魔法だが、カベルナの攻撃がそれを上回っているのだ。カベルナが自身の魔法で、身体能力を強化しているが故である。


 カベルナの動きを止めようと駆け出すレーゼと志愛だが、その行く手を阻むように穴が出現し、カベルナの攻撃が放たれた。


 レーゼは『衣服強化』のスキルを使いつつ腕でエストックの攻撃を受け止め、志愛は身を捩って回避する。


 だが防御に一瞬気が向いた隙を狙い、カベルナは素早くレーゼの懐に潜りこむと、彼女の腹部へと強烈な突きを繰り出した。


「っ!」


 スキルで防御しているが、それでも相当な衝撃が襲いかかり、レーゼは声も上げられずに吹っ飛ばされてしまう。


「レーゼさンッ!」

「ッ!」


 志愛の言葉には、背中から地面に叩き付けられたレーゼを心配する気持ちと、警告を発する気持ちが半々。


 何故なら、レーゼが飛ばされた場所のすぐ側には……ミドル級ワルトレオン種レイパーがいたからだ。


 お面を剥がされたからか、しばらくは大人しくしていたこのレイパーだが、既に動けるようになっていた。


 倒れたレーゼへと、レイパーは前足を振り上げる。


 防御をしても、ある程度のダメージは免れないと覚悟した、その時。


「させませんっ!」

「はぁっ!」


 雅と希羅々が横からアーツで攻撃し、レイパーの気を逸らす。


「マーガロイスさん! こいつは(わたくし)達で何とかしますわ!」

「しばらくカベルナさんを引きつけておいて下さい!」

「分かった! お願い!」


 レーゼは起き上がりながらそう叫ぶと、言われた通りカベルナの方へと走り出す。


 カベルナは今、志愛とノルンを二人同時に相手しながらも、随分と優勢に立っていた。


「多分、向こうは長くは持ちません……! 行きますよ、希羅々ちゃん!」

「ええ! 分かっていますわ!」


 雅は剣銃両用アーツ『百花繚乱』を、希羅々はレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』をそれぞれ構え、同時にレイパーに向かって地面を蹴る。


 レイパーも低く唸り、雅達の背後を取ろうと走り出す。


 だが、その速度は先程とは比べ物にならないくらい遅い。勿論、二人よりは断然速い。しかし少なくとも、雅も希羅々も、充分に目で追えるレベルだった。


 故に、敵の思惑通り背後を取られても、攻撃が来るより先に、敵が来る方向に体を向けられる。


 上から叩きつけられるようにして飛んできた前足の一撃を、雅が百花繚乱で受け止め、希羅々が懐に入り込み、鋭い突きの連打を浴びせた。


 体の柔らかいところに絶え間なく突き刺さるレイピアのポイント。


 さらに雅が百花繚乱でレイパーの前足を跳ね上げ、懐へと飛び込む。


 敵が怯んでいる、今がチャンスだ。


「はっ!」

「喰らいなさい!」


 雅と希羅々の斬撃が同時にレイパーの腹部へとヒットし、その巨体をかちあげる。


「希羅々ちゃん! アーツ!」

「ええ!」


 雅が合図した刹那、百花繚乱の刃の中心に切れ目が入り、上下にスライドする。出来た隙間に、希羅々のシュヴァリカ・フルーレがすっぽり入ると、そのまま刃ががっちりとレイピアを咥えた。


 完成したのは、全長三メートルものランス。


 シャフトが白く発光すると同時に二人でそれを持ち、「せぇのっ!」と声を合わせてレイパーの腹部に力一杯に突き攻撃を繰り出した。


 その威力は、レイパーの腹の肉を大きく抉り、血の雨を降らせる程。


 それでも、絶命させるまでには至らない。だが流石のレイパーも痛みに大きな呻き声を上げ、逃げるようにその場を跳び退いた。


 だが、その瞬間。


「束音さん、準備はよろしくてっ?」

「勿論ですっ!」


 二人の声が轟き、レイパーは顔を歪める。


 ランスで攻撃した時の手応えから、撃破はしないと悟った雅達。


 レイパーが離れる間に、既にアーツを分離させ、二人の手に戻していた。


 狙いは一つ。


 希羅々と雅が、息ピッタリの動きで同時にアーツを前に突き出すと同時に、空から巨大なシュヴァリカ・フルーレと百花繚乱が出現する。


 希羅々の必殺スキル『グラシューク・エクラ』だ。


 召喚された二つの巨大なアーツが、空気を切り裂く音を立ててレイパーへと迫る。


 手負いのレイパーに、この大技は躱せない。


 捉えた!


 二人はそう確信した。


 だが――レイパーは怒り狂ったように雄叫びを上げると、二人に背を向け、腹部を怪我しているとは思えない動きで逃げ始める。


 生き延びるために発揮した、火事場の馬鹿力に、雅も希羅々も目を大きく見開いた。


 二人共も、レイパーの力を甘く見ていたのだ。


 空振りした巨大なアーツが地面を抉り、辺り一面に土や石を撒き散らして視界を塞ぐ。


 それが晴れた時、


「しまった……!」

「しくじりましたわね……!」


 レイパーはもう、完全に姿を消してしまっていたのだった。

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