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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第21章 ワルトリア峡谷
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第181話『年老』

 ワルトレオンは、水が近くにある場所を縄張りにする生き物だ。狩りで捕らえた獲物を持ち帰り、水と一緒に食べるという習性がある。


 そして何より、ワルトレオンは一度決めた縄張りから外に出ることはほとんど無い。


 このワルトリア峡谷において、水が豊富に摂れる場所はいくつかあるが、それらは全て、ここよりももっと奥だけ。


 そういった点を踏まえると、やはり先程ワルトレオンに襲われたのは、明らかにおかしいとカベルナは言う。


 一体何があったのか、とカベルナがあれこれ悩む中、レコベラ草が生えている場所へと向かう雅達。


 どこまでも続く岩場を進むこと、二十分。


 雅達は、Y字路に差し掛かる。


 徐々に地面に雑草が顔を見せてきて、だんだんと薬草が生えていそうな場所へと近づいているのだと実感していると、先頭を歩くカベルナが急に足を止めて右手を横に伸ばし、雅達を制止させた。


「どうしたんですか、カベルナさん?」

「静かに。あまり音を立てないように、こっちに来て」


 カベルナの強張った顔を見て、雅達はのっぴきならない事態を察し、言う通りにする。


 そしてカベルナの後を着いて、別の道へと進路を変える時、雅達は見た。


 進む予定だった道の先に、五十匹を超えるワルトレオンが屯していたことを。


「エ……なんだあレ……?」


 ここに来るのが初めてな志愛でさえ、あれがおかしいことは分かる。


 それくらいに、異常な光景だった。


 志愛の零した疑問に、カベルナも首を横に振る。


「わっかんないわよ、なんなのよ、もう……!」

「でも、どうしますの? あそこを通らないと、レコベラ草まで辿り着かないのではなくて?」

「……結構遠回りになっちゃうけど、別の道があるの。ちょっと歩くのが大変な道だけど、この際仕方ないわ」


 げんなりとした顔をするカベルナに、これから進む道の険しさが想像出来、雅達の顔も強張った。


 それを証明するように、岩壁に挟まれた細い道を進み、幅七十センチ程度しか無い崖路を通り、凹凸の激しい岩道を歩く。


「ま、全く……いい訓練になるわね、これ。ランニングコースに加えようかしら?」

「危ないですよぉ」

「……冗談よ」

「いやぁ、流石にキツいね。でも、もうすぐ休憩出来そうな場所に出るから。そこは、野生動物もあまりいないはず……ん?」


 説明の途中で、カベルナが眉を傾ける。


 過酷な道に体が悲鳴を上げる中、一行は広いスペースに出たのだが、先客がいた。


 しかし、様子がおかしい。


 スペースの一角にはテントがあるが、壊れているのだ。


 嫌な予感を覚えつつ、雅達は壊れたテントへと向かう。


 そして、テントの周りに出来た染みを見て、その予感が正しいと悟った。


 恐る恐るテントをどかすと……血の臭いが鼻を刺激する。


「コ、これハ……」

「バスターね。間違いないわ……」


 そこにあったのは、うつ伏せで倒れる、五人の女性の死体。


 近くにアーツも転がっており、レーゼがそう断言する。


「そう言えば、ニケさんが言っていました。カームファリアのバスターの人もレコベラ草を採りに来たのに、連絡が取れなくなったって……。きっとこの人達のことです」

「ねぇ、向こうにも誰か倒れているよ!」


 カベルナが指を差して声を上げた。


 よく見れば、それ以外の場所にも人が倒れている。全部で四ヶ所だ。


 レーゼ、希羅々、ノルン、カベルナがそちらへと向かい、雅と志愛はテントを調べる。


 すると、


「雅! この死体、なんだか変だゾ……!」

「え、ええ! こっちもです!」


 志愛と雅が、死んだバスターをひっくり返し、顔を強張らせた。




 死体の顔が、やたらと老けているのだ。




 身につけているものや、体の感じは明らかに十代から二十代の女性なのに、顔だけはヨボヨボで、九十を超えているのではと錯覚してしまう程。


「レーゼさん! そっちはどうですかっ?」


 雅が遠くのレーゼに向かって声を張り上げると、レーゼは振り向き、首を横に振る。


 遠くで倒れていた人も、死んでいた。こちらは頭部が砕けており、全身の骨も折れている。


 死体のすぐ側には岩壁があり、上の方には血痕が付着してことから、恐らく何かに撥ね飛ばされ、岩に頭を打ちつけたのだろうとレーゼは推測した。


 しかし、顔はいたって普通だ。雅達が見た死体のように、不自然に老けているというようなことは無い。


 希羅々とカベルナが向かった方にも、同じような状態の死体があった。


 さらに――


「……こレ、ワルトレオンの死体カ?」

「酷い……」


 テントの近くには、殆ど肉塊となったワルトレオンが転がっていた。


 先程襲ってきた生き物とは言え、こういう姿を見ると胸が苦しくなる。


 雅達の元に戻ってきたレーゼ達も、ワルトレオンの死体を見ると、言葉を詰まらせる。


 少しの間黙りこくっていたレーゼだが、やがて辺りを見回しながら口を開いた。


「彼女達を殺したのは、このワルトレオンかしら? それとも別の生き物?」

「いえ、そんなはずはないわ。ここは、野生動物があまりいない場所なの。だから、バスター達も拠点にしていたんだろうし……」

「それに、あの顔が変な死体……明らかに、動物がやったって感じじゃありませんでした」

「それにレーゼさん、もしそうだとしても、ワルトレオンがこんなやられ方をしている理由が分かりません」

「じゃあ、一体何故……。はっ、まさか、レイパー?」

「ッ! そうカ……。もしかしてワルトレオンがあんな場所にいたのモ、レイパーが近くをうろついていたかラ? ワルトレオン達、逃げてここまで来ていたのカ?」


 これまでの不自然な現象が、レイパーのせいだと言われれば、繋がるような気がした、その時。


 ノルンの『未来視』が再び発動する。


 そして同時にレーゼも、迫ってくる殺気に気づく。




 咄嗟に前に出て、剣型アーツ『希望に描く虹』を体の前に構えた瞬間、何かが激突した。

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