第180話『細剣』
「いやー、すっごい偶然。偶々助けてくれた人達が、まさか姉さんの友達だったなんてね」
改めて自己紹介を済ませた一行とカベルナ・アストラム。
その後のカベルナの第一声がこれである。
カベルナは、世界各国の珍しいお宝を探し回っている人で、要はトレジャーハンターだ。
ミカエルとは月一くらいの頻度で手紙のやり取りをしており、そこで雅達のことも少し聞いていたらしい。勿論、顔を見たのは初めてだが。
「それにしても、カームファリアでレイパーが……。『レコベラ草』なら生えている場所を知っているから、案内出来るよ。実は私も採りに来ていてね」
仕事の都合上、怪我の治療のために薬学の知識は蓄えているカベルナ。様々な薬の原料になるレコベラ草の生息場所は、全て彼女の頭の中に入っていた。
このワルトリア峡谷にも、何度か採取に来たことがあると言う。
「ありがとうございます。一応、生えている場所は教えてもらったんですけど……カベルナさんがご存知なら、連れていって頂ける方が心強いですし」
言いながらも、雅はこっそり、ノルンの方へと視線を向ける。
ノルンは今、隠れるように希羅々の背後に立っていた。
いつもに比べるとノルンの表情は固い。カベルナに気が付かれないように努めているつもりみたいだが、明らかに緊張していた。
雅も希羅々も、ノルンがそうなっている理由は分かる。
以前、ミカエルの母親、ヴェーリエから聞いた話だが……ノルンが今持っている杖型アーツ『無限の明日』は、本当ならカベルナの手に渡るはずだったもの。
ミカエルの勝手な行動であり、ノルンは知らなかったこととは言え、図らずともノルンの目の前には、アーツを奪った相手がいるのだ。ノルンの態度がこんな風になってしまうのも無理からぬことである。
実際、ノルンの名前を聞いた時、カベルナはその名前を知っているような素振りを見せた。
ミカエルはきっとカベルナに詫びを入れているだろうが、表に出さないだけで、ノルンのことを良く思っていなくてもおかしくない。
僅かな不安を抱えつつも、カベルナを加えた一行は先へと進む。
道は相変わらず険しいが、カベルナは歩きやすいルートを把握しており、目的地までは実は若干遠回りになっていたものの、体力的には大分楽だった。
なだらかな坂を下り、短い洞窟を抜け、さらに進み……時刻は十一時二十一分。
雅達は、岩場へと辿り着く。
靴越しにも分かる、地面のゴツゴツとした感触。
しかも少し上り坂になっており、見ただけでげんなりとしてしまう。
そんな雅達を見て、『気持ちは分かるよ』というように小さな笑みを浮かべたカベルナが、口を開く。
「さて、レコベラ草が生えているのは、もうちょっと先だね。ここが一番キツいところだから、気合入れようか」
「カベルナさんは、随分体力ありますね……。ミカエルさんなら、多分バテてますよ」
「はっはっは、間違いない」
姉妹なのに、こういうところは随分違うなぁと感じる雅。
と、その時だ。
「っ? 皆さん、気をつけて!」
ノルンがスキル『未来視』により、何かを察知したのだろう。
彼女が警告の声を上げた刹那、空気を震わせるような低い唸り声がいくつも轟き、雅達がそちらを向けば、そこには雅達の倍くらいもある青白い獣の姿があった。
その数、なんと十体。
銀色の鬣を生やし、シルエットだけなら、まるでライオンのような生き物。
ワルトリア峡谷に生息する、凶暴な獣の一種である。
すると、カベルナの目が大きく見開かれた。
「『ワルトレオン』っ? どうしてここにっ?」
「知っているのですかっ?」
「二人共! 話は後です! 来ますよ!」
雅がカベルナと希羅々にそう叫びながら、右手の指輪から剣銃両用アーツ『百花繚乱』を呼び出す。
見れば、レーゼと志愛もノルンもそれぞれ剣型アーツ『希望に描く虹』と棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』、無限の明日を構えていた。
希羅々も担いでいたリュックを脇に投げると、レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を出して戦闘体勢に入る。
そして、
「奴らの動きは大体分かるわ! 私が追い払うから、皆は自分の身を守ることに専念して!」
カベルナも腰に着けていた長い獲物を抜く。
全長一メートル近い金色の細剣……エストックだ。
本体の色もそうだが、日の光を受けるとさらに神々しく輝くそれを、カベルナは体の前に持ってくる。
王宮騎士が剣の試合をする時のようなポーズで、それが非常に様になっていた。
「それハ……ッ?」
「アーツ! 『セイクリッド・ラビリンス』よ!」
「えっ? アーツっ?」
雅の驚きの声が響く中、カベルナは空を裂くような勢いで、ワルトレオンの群れへと突っ込んでいく。
一見するとあまりにも無謀な行動に、思わず雅達が制止の声を掛けようとするが、ワルトレオンの動きの方が速い。
鋭い爪のついた前足を上げ、勢いよくカベルナへと叩き付ける――が。
「っ! 速いっ!」
カベルナが一瞬でワルトレオンの後ろに回り込み、後ろ足をエストックで突き刺す姿を見て、レーゼが驚愕の声を上げた。
しかも、それだけでは無い。
別のワルトレオンがカベルナに同じように前足で攻撃を仕掛けるも、カベルナは細い剣で軽々とその一撃を受け止め、逆に弾き返してしまう。
相当に人間離れした身体能力に、一行は唖然とした。
実はカベルナは、魔法で身体能力を上げているのだ。
彼女はミカエルのように、分かりやすい攻撃魔法は使えない。その代わり、強力な支援魔法を使うことに長けている。
カベルナに反撃され、ワルトレオンは力の差を理解したのだろう。半数のワルトレオンは、慌ててその場から逃げ出した。
それでもまだ尚闘志を消していなかった一匹が、カベルナに飛び掛り、牙を向く。
すると、カベルナの近くの空間と、ワルトレオンの右側の空間に丸い穴が出現した。
カベルナが穴にエストックを突っ込むと、もう一方の穴からエストックが現れ、ワルトレオンの胴体を突く。
突然の攻撃に怯んだワルトレオンに、カベルナはエストックを向けると、流石に実力の違いを理解したのだろう。
唸りながらも下がり、そのままどこかへ逃げていく。
「さぁ、残りも……って、あれ?」
「残りなら、私達で撃退しましたわ」
辺りを見回すカベルナに、希羅々が得意気な表情でそう告げる。
彼女が戦っている間、雅達もボーッと突っ立っていたわけでは無かったのだ。
「すっごい……あなた達、強いのね」
「アストラムさんこそ……最後の攻撃も、あなたの魔法ですの?」
「ああ、あの穴のやつのこと? 違うよ、あれは『アンビュラトリック・ファンタズム』っていうスキル。面白い技でしょ? 攻撃する以外にも――」
言いながら、カベルナは再度スキルを発動。
空中に出現した穴の中に手を入れ、一体どうするのかと希羅々が思っていると……カベルナは戦闘前に希羅々が投げ捨てたリュックを取り出す。
この穴は、要はワームホールのように空間が繋がっており、先程はこれにより敵の死角から攻撃を仕掛けた、というわけである。
「こんな使い方も出来る。まぁ、半径十メートル以内にしか穴が出せないっていう制約はあるけどね。はい、これ」
「ありがとうございます。便利なスキルですわね。うらやましいですわ」
リュックを受け取りながら、希羅々は視線をカベルナのアーツへと向けた。
因みに、雅も同じように彼女のアーツを見つめており、どうしても気になってつい口を開く。
「あの、カベルナさん。そのアーツって、どこで手に入れたんですか?」
「えーっと、エスティカ大陸に『イェラニア』っていう国があるんだけど、そこの寂れた神殿の奥を探検していたら、たまたま見つけたのよ」
「へー……」
雅がこんな質問をしたのは、カベルナのアーツを見て、不思議に思ったからだ。
アストラム家がカベルナに別のアーツを渡したのかと思ったのだが……それにしては、渡すアーツの種類が杖と細剣では種別があまりにも違い過ぎる。
だから『どこで手に入れたのか』と聞いたのだが、回答は先の通り。
しかしそうなると、果たしてヴェーリエはどう思ったのか非常に気になった。ヴェーリエは、アストラム家が持つアーツを、カベルナに使って欲しかっただろう。もしかすると、ヴェーリエとカベルナの間でもひと悶着あったのではないかと心配になる。
ミカエルとヴェーリエが揉めるのを見た者としては、諸々突っ込んで聞きたいのだが……デリケートな質問過ぎて、してもいいものか雅は非常に悩んでいた。
因みに希羅々もノルンも何か聞きたそうな目をしており、雅と同じことが気になっているのは明らかだ。
特にノルンの顔は青い。
カベルナが別のアーツを手にしたのは、無限の明日が手に入らなかったからだろう。きっと代わりのアーツを求めたのだ。しかもそれが原因でヴェーリエと喧嘩になってしまったのではないかと思うと、吐いてしまいそうだった。
カベルナは頭に『?』を浮かべていたが、やがて「まぁいっか」と呟くと、軽く息を吐いてから、ワルトレオンが逃げていった先に鋭い視線を向ける。
「……それより、何だかおかしいわね」
「おかしイ?」
「ええ。あのワルトレオン……普段は、もっと峡谷の奥に住んでいるのよ。なんでこんな場所にいたのかしら? それもあんなにたくさん……」
カベルナの疑問に、誰も答えることは出来ない。
何となく、嫌な予感がした。
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