第177話『騎侍』
一方、街の大広場。
建物を破壊し、愛理、セリスティア、志愛、ノルンの四人の前にやって来た二体のレイパー。
その姿は、例えるならば『侍と騎士』だろう。
黒と白、和と洋、角の強い形状と丸みのある形状……二つの鎧や兜は、どこを取っても対照的だ。
持っている武器も、刀と剣。
共通しているのは、鎧や兜の隙間から見える本体が、まるで真っ黒いマネキンのような不気味な様相をしていること。
そして――誰がどう見ても、そこらのレイパーとは圧倒的に『格』が違うということである。
分類は、『侍種レイパー』と『騎士種レイパー』。
愛理やセリスティア、志愛は顔を強張らせながらも、現れた二体のレイパーを相手に戦闘態勢を取る。
近づいてくるレイパーと、愛理達との距離が、十メートルを切った刹那。
「っ!」
ノルンが杖型アーツ『無限の明日』を振るい、巨大な竜巻を発生させ――愛理とセリスティアを吹っ飛ばす。
「ノルンッ? 何ヲ……ヲ?」
一体何故、と、愛理達が浮かべた疑問はすぐに消えた。
それまで二人が立っていた場所の近く……愛理のところには騎士種レイパー、セリスティアのところには侍種レイパーが、それぞれ立っていたからだ。
まるで、敵に斬りつけた後のようなポーズをとって。
いや、『まるで』では無い。
スキル『未来視』は、ノルンにある光景を見せていた。
愛理とセリスティアの首が、この二体のレイパーにより刎ねられた光景を。
つまりこのレイパー達は、重いはずの鎧を着込んでいるにも関わらず、ほんの一瞬の内に二人に近づき、斬撃を放ったのである。
それが分かったからこそ、ノルンは動いた。
わざわざ魔法で吹っ飛ばすといった方法をとったのは、危険を知らせるのでは間に合わなかったからだ。
しかし――実はそれも、少し遅かった。
愛理とセリスティアの頬から、ツーっと血が流れ落ちる。
二人を襲った斬撃が、僅かに掠っていたのだ。
ゴクリ……と、愛理とセリスティアは唾を呑む。
だが、息を吐く暇は無い。
何となく湧き上がった嫌な予感に、愛理もセリスティアも、咄嗟にそれぞれのアーツを体の前に持ってくる。
瞬間、身の毛もよだつ程の激しい金属音が響き、再び二人は吹っ飛ばされた。
またしても二体のレイパーから攻撃されたのだと分かったのは、その後。
(な……なんだ? 全く攻撃が見えなかった……!)
(何つー重い一撃だっての……! あの魔王のような奴と同じか、いや、それ以上……!)
攻撃を防いだ際の衝撃により、手が痺れる感触を覚えながらも、愛理とセリスティアはついそんなことを思った。
すると、
「トヤゾ。ダヤボレ、ヨイオナノノモリハルトラヤトジソトレモ」
「ラカヘアレ。ヨノヘソ、ハマタモノトヌモレナヘロレノレタゾボ……」
騎士種レイパーが愛理を指差しそう言えば、侍種レイパーは小さな笑い声を上げ、セリスティアを指差す。
「ジソ、ヨノヘソマタヌキヌモレユ。ザネオボホメテマアヒウモ、ヘワルグゾト」
何を言っているかは相変わらず分からないが、自分達が負けるとは欠片も思っていない様子に、湧き上がった感情は怒りでは無く戦慄。
ゆっくりと近づいてくるレイパー。立ち上がり、アーツを構えながらも、愛理もセリスティアも一歩、また一歩と後退。
迂闊に敵の間合いに入り込めば、待っているのは死だ。
そこで、二人の目に映ったのは、志愛が棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を構え、敵の背後からゆっくりと接近する姿。
さらにノルンも、悟られないように魔力を集中させ、奇襲を仕掛ける体勢をとっていた。
愛理とセリスティアの手に、力が籠る。
だが――
「ッ!」
前進していた志愛が、何かを察知してピタリと足を止めた刹那。
構えていた跳烙印・躍櫛の先端が、斬れて地面に落ちる。
侍種レイパーが、ちらりと振り向いたのを見て、志愛はすぐに、侍種レイパーが攻撃してきたのだと悟った。
志愛が棍の斬り口の鮮やかさに目を奪われた、その瞬間、
「シアさん危ない!」
ノルンの声が轟いた時には既に遅し。
志愛の体に強烈な衝撃が襲いかかり、気が付けば彼女は遠くまで吹っ飛ばされていた。
騎士種レイパーが、志愛を斬ったのだ。
奇襲しようという志愛の考えは、どちらのレイパーもお見通しだったわけである。
体が真っ二つにならなかったのは、咄嗟に防御用のアーツ、『命の護り手』を発動していたからだ。
「権っ!」
「グ……ウゥ……」
即死は免れたものの、志愛が受けたダメージは大きい。
命の護り手で防いでも尚、しばらくは動けなくなる程に。
「サル。ヅレグヤボヤデワルトモオゾゾ……」
「ハマタ、マクフキソザルモト……?」
そしてレイパーの意識がノルンに向けられると……彼女の顔が青くなる。
それでも無限の明日を振り、巨大な緑風のリングを放ったその気概は見事というべきか。
逃げ切れないと思い、これしか手が無かったとも言えるが。
並のレイパーなら体がバラバラになる程、切断性に富んだノルンの最大魔法。
だがその攻撃を、侍種レイパーは刀を一振りし、明後日の方へ弾き飛ばしてしまう。
ノルンは驚愕に顔を染め、それでも杖を振って風の球体を次々に放つが、このレイパーが相手では結果は同じ。
何度も攻撃を仕掛けていたノルンだが、ついに侍種レイパーにより弾き飛ばされた風の球体が、ノルンへと迫る。
慌ててもう一つ風の球体を放ち、跳ね返された魔法を空中で相殺するが、その際の爆発の衝撃により、ノルンも吹っ飛ばされてしまった。
倒れたノルンと志愛に止めを刺しに行こうとするレイパー。
しかしその瞬間、愛理とセリスティアは動き出していた。
自分に背を向けているこのチャンスを、逃すわけにはいかない。そう思っての行動。
愛理は刀型アーツ『朧月下』で騎士種レイパーを斬りつけ、セリスティアは爪型アーツ『アングリウス』を前に突き出しながら侍種レイパーへとタックルしにいく。
だが――
「っ?」
「っ!」
二人の渾身の一撃は、レイパーの鎧に阻まれ、虚しく高い音を鳴らすのみ。
鎧の頑丈さたるや、傷一つ付かないレベルだ。
特にセリスティアの一撃は、スキルで速度を増したにも関わらず、これまで経験したことの無いような手応えの無さだった。
愛理の顔も険しい。彼女の基本戦術は『空切之舞』のスキルを使い、敵の死角から攻撃することだ。しかしこのレイパーの防御力なら、スキルの発動条件である『敵に攻撃を躱される』ことを満たせない。避けずとも、充分受けきれるからだ。
二人はさらに腕や足に力を込めるが、レイパーの体はまるで巨大な岩の如く動かない。
不意を付いたつもりが、逆に自分達の隙を作ってしまったことに、愛理もセリスティアも即座に命の護り手を発動する。
同時に、二体のレイパーは振り向き様に強烈な斬撃を二人の首に叩き込んだ。
志愛のように吹っ飛ばされることは無かったが、続けざまに二発、三発と斬撃が二人に襲いかかる。
レイパーは決して、全力で攻撃しているわけではない。
二人がギリギリ踏ん張れる程度まで威力を弱めているのだ。
何度も何度も、斬りつけるために。
二体のレイパーから、微かな笑い声が漏れる。
命の護り手により敵の斬撃を防げている事実が、却ってこのレイパー達を興奮させてしまっていた。
斬撃の嵐に揉まれる中、愛理もセリスティアも何とか敵の攻撃を捌こうともがくが、敵の攻撃がさっぱり見えない。
愛理もセリスティアも理解する。
この二体のレイパーは、自分達の手に負えるような相手では無い、ということを。
「ぐっ……にゃろうっ!」
それでもセリスティアは一瞬の隙を付き、スキル『跳躍強化』を発動させて上に跳び上がる。
そして愛理と騎士種レイパーの間に着地すると、愛理を突き飛ばした。
「ファルトさんっ?」
「アイリ! 逃げろ! ――うぐっ!」
このまま戦っていても殺されるだけ。
セリスティアは無我夢中で、とにかく自分以外の三人を避難させることを優先したのだ。
しかし、現実は甘くない。
騎士種レイパーは、自分と愛理との戦いを邪魔されたことが気に食わなかったのか、セリスティアの腹部に、つい力を込めた斬撃を入れてしまう。
その威力は、セリスティアが弾丸のようなスピードで吹っ飛ばされてしまうレベルだった。
そしてセリスティアの体は愛理も巻き込み、二人揃って、奥にあったボロボロの建物の壁を突き破り、中へと消えていく。
刹那、ただでさえ壊れそうだった建物は音を立てて倒壊。
騎士種レイパーがしまった、というように動きを硬直させた時には、愛理とセリスティアは崩壊した建物の下敷きになってしまっていた。
すると、騎士種レイパーの足を、侍種レイパーが蹴りつける。
「メホコタヒレジ、ノタヘケボシッニヘコッノジソトレモ!」
「ヌレネモオボソレッノタゾ! ヘモノロウコレ!」
あれでは流石に二人共生きてはいまい。そう思ったのだろう。
言い争うように声を荒げるレイパーだが、すぐに互いに黙り込み、まだ生き残っているはずの志愛とノルンの姿を探す。
だが、見つからない。
実はノルンは、レイパーが愛理とセリスティアを相手にしている内に、動けなくなった志愛を抱えて避難していたのだ。
「……テビノモ。マイカメホコタヒレゾダ」
「ゾコイ。トヤジカヨノヘタヒレテフウト」
レイパーも、それに気が付いたのだろう。
つまらなさそうな唸り声を上げると、どこかへと去っていくのだった。
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