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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第20章 カームファリア
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第176話『炎蔦』

(このままじゃ……殺される……!)


 雅に何とかSOSを発信した優だが、それで状況が良くなった訳では無かった。


 蔦の拘束は強力で、アーツは地面に落とされており、反撃の術は無い。


 それはライナも同様だ。


 スキル『影絵』で分身を創り出し、蔦を斬ろうと試みるが、それは別の蔦によって阻まれてしまっていた。


 首に巻きつく蔦の力は、常人であればとっくに圧し折れている程にまで強まっている。にも拘らず二人がまだ生きているのは、一重に先日貰った防御用のアーツ、『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』のお陰だ。


 優とライナの体は白い光に包まれ、蔦がいくら強い力で締めつけようと、窒息することは無い。


 だが――命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)の効果時間は三十秒。それを過ぎた瞬間、二人の首が圧し折られてしまうのは必至。


 つまるところ、これは死を先延ばししているだけに過ぎず、それ故に二人の顔は絶望に染まっていた。


 そんな二人に攻撃するわけでも無く、ただ近くで観察している人型種アイビー科レイパー。こいつが蔦を操り、二人をこんな目に遭わせていた。


 見ているだけで手を出さないのは、優達に、これ以上打つ手が無いことを見抜いているからである。動きを封じ、武器を取り上げた段階で自身の勝利を確信しているのだ。焦らずとも、死に怯える様を楽しみながら、じっくり殺しても問題は無いと思っていた。


 このレイパーは、同じような方法で他の女性も殺害していたのだが、それを知る者はいない。


「コヅソロトノユヘキマアヘニ、ヌベソロトノ……。レンハイナカ、ザッネボホメテヘツモメワルハルホ

ヒウタカレッメワルモ」


 レイパーは優を指差し、それからライナを指差して、しかし首を横に振る。


 何とも愉快そうな仕草であったが、それに怒りを覚える余裕は二人には無い。


 すると、何とか拘束から抜け出そうと、可能な限り身を捩っていたライナの服の首元から、何かが零れ、首にぶら下がる。


 ロケットだ。


(ミ、ミヤビさん……!)


 レイパーがそれに気づき、ロケットを開く。


 そこにあったのは、ライナがスカイ・プロップの頂上で雅と撮ったツーショット。


 折角のライナとの初デート。何となく特別感を出したかった雅は、写真をロケットに入れて、ライナにプレゼントしていたのである。


「やめて……触らないで……!」


 貰ってからずっと、ライナはこれを首からぶら下げ、汚したくないから服の中に入れていた。


 それをレイパーに無遠慮に触られれば、我慢は出来ない。


 とは言っても、ライナに出来るのは怒りの声を上げることくらいなのだが。


 二人を守る命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)の効果時間は、もう十秒を切った。


 蔦の力は、さらに強まる。


(助けて……みーちゃんっ!)

(ミヤビさん……!)


 いよいよ、心の中で助けを求めるしか出来なくなった優とライナ。


 その時だ。




「レーゼさんっ! 根元の少し上です!」

「分かったわっ!」




 そんな声が轟いた。


 刹那、二人の目に飛び込んできたのは――雅が炎を纏った、剣銃両用アーツ『百花繚乱』でレイパーに斬りかかった姿。


 そのすぐ後。


 レーゼが数多の蔦の妨害を潜り抜け、ライナを拘束している蔦の根元を、剣型アーツ『希望に描く虹』で斬りつけた。


 続けざまにレーゼは、優を縛る蔦の根元に斬撃をヒットさせる。


 瞬間、あれだけ力を込めてもびくともしなかった蔦が、嘘のように緩み、二人の体が地面に落ちた。


「二人共っ! 大丈夫っ?」

「う、うん……!」

「何とか……!」


 顔を歪め、軽く咳き込む二人の体から、白い光がフッと消える。命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)の効果が切れたのだ。到着が後少しでも遅れていたら、二人は殺されていただろう。本当に間一髪のところだった。


 慌てて駆けつけた雅達。『共感(シンパシー)』でファムのスキル『拘束解放』を発動させ、蔦の弱所を見抜き、雅がレイパーの気を引いている間にレーゼが二人を助け出した……という訳である。


 優とライナをひどい目に遭わせた人型種アイビー科レイパーに怒りの感情を爆発させながら、雅は炎の斬撃を何度も放つ。


 全身を蔦で覆われているレイパーからすれば、炎は弱点のはず……だが。


「っ?」


 攻撃が命中しても、思いの外ダメージが無いことに、雅の顔が歪んだ。


 効いていないわけでは無い。現にレイパーの体には、斬撃により出来た痛々しい傷跡がいくつも出来ている。雅の考えは正しく、このレイパーは炎には弱かった。


 しかし、このレイパーが纏う蔦は、言わば鎧。レイパーの本当の体は、蔦を掻き分け、掻き分け、掻き分けた……さらにその奥にある。


 表に出ている蔦がいくら焼かれようと、大きな問題は無い。


 さらに、だ。


「レコレコヘレサタラキ……!」

「ぐっ?」


 レイパーは攻撃する雅の隙を付き、地面から蔦を生やして彼女の腹部を叩きつけて吹っ飛ばす。


 そして全身に力を込めて唸ると、折角付けた傷が、見る見るうちに塞がり、あっという間に治ってしまった。


 驚異の再生力である。


 生半可な攻撃では、敵を倒しきれない。このままでは先に雅の方が力尽きてしまう。


 アーツを中段に構えながら、次の一手に頭を悩ませる雅。


 だが、相手は待ってくれなかった。


「――っ!」


 足元が盛り上がり、雅が慌ててその場を飛び退いた刹那、蔦が生えてくる。


 さらにそれに気を取られた雅の背後に、何時の間にかレイパーは移動していた。


 雅が振り向くより先に、レイパーの手刀が繰り出される。


 しかし、雅の体に手が当たった瞬間、レイパーはその手応えに違和感を覚え、眼を困惑に揺らす。


 アーツでの防御が間に合わないと判断した雅が、『共感(シンパシー)』によりレーゼのスキル『衣服強化』を発動したのだ。


 攻撃を防ぎ、敵の隙を創り出した雅は、そのままがら空きの腹部へと強烈な斬撃を叩きこむ。今度は真衣華のスキル『腕力強化』の効果を乗せた一撃である。


 大きく吹っ飛ばされるレイパーだが、すぐに、何事も無かったかのようにムクリと起き上がった。


 斬られた腹部に付いた傷跡が、再生しかけた、その時。


「はぁぁぁあっ!」


 レイパーの右側から、レーゼが声を張り上げ斬りかかってくる。


 虹の軌跡と共に、素早く放たれる八連撃。レイパーに蔦を呼び出す暇も、傷を治す暇も与えない。


 負けじとレイパーも掌底や蹴りを繰り出し応戦するが、レーゼは『衣服強化』のスキルと命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を発動させることで、攻撃をその身に受けながらも斬り返す。


 そして、雅が付けた傷口にレーゼの斬撃がヒットしたことで、ようやくレイパーは呻き声を漏らした。


 僅かに怯んだレイパーに、休む暇を与えぬように群がる大量の分身ライナ。


 レイパーは蔦を呼び出して分身達を薙ぎ払うが、その合間を縫うようにして、本体のライナとレーゼが近づいていた。


 今度は剣と鎌の攻撃が、間髪入れずに二発、レイパーの体に命中。


 レイパーは怒り狂ったような声を上げ、一際巨大な蔦を呼び出し、二人に叩きつけて纏めて吹っ飛ばす。


 だが、レイパーは気が付かなかった。


 二人の目的は、意識を自分達へと向けることだった、ということに。


 云わば囮だったのだ。


 それに気が付いたのは、凄まじい熱量が迫る気配を感じ、そちらへと視線を向けた時。


 レイパーの視界に映ったのは、炎の矢。否、それと見紛う程の速度で放たれた、雅のアーツ『百花繚乱』だった。


 雅は二人がレイパーの気を引いている内に優の元へと駆け寄り、二人で一緒に弓型アーツ『霞』に、炎を纏った百花繚乱を番え、合体させたのである。


 合体アーツによる強烈な攻撃は――レイパーの眼へと直撃。


 雅は思った。如何に全身を覆う蔦が分厚く、再生力に優れていようとも、全身を完璧に守りきれているわけではないだろう、と。


 例えばそう。あの赤い眼等は、本体の一部が剥き出しになっているだろう、と。


 目を貫かれた瞬間に全身が燃え出したレイパーの姿を見て、雅はその考えが正しかったことを確信する。




 苦しむようにもがき、断末魔の悲鳴を上げ――ついに人型種アイビー科レイパーは爆発四散した。

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