第174話『大蔦』
「っ! なんだっ?」
聞こえてきた悲鳴に、セリスティアが血相を変えて叫ぶ。
刹那、少し遠くの方で、逃げ惑う人の姿が見えた。
何かが砕けるような音も聞こえてきて、ただ事では無いのは明らかだ。
すると、
「レイパーだぁぁぁあっ! レイパーが出たぁぁぁあっ!」
逃げる人ごみの中から、そんな声が聞こえてきて、事態を把握するセリスティア達。
「ちぃ! 何だってんだよ、全く……! 行ってくる!」
「私も行きまス! 希羅々! ファム! ラティアを頼んダ!」
「ファルトさんっ? 権さんっ?」
希羅々やファム、そして不安そうな目をするラティアを置いて、セリスティアと志愛は走り出す。
慌てて追いかけようとする希羅々。
だが――
「ねぇキララ! あっちも何かヤバそうだよっ?」
「はいぃ? ――っ!」
騒ぎが起きているのは、一ヶ所だけでは無い。
最初の騒ぎを皮切りに、あちこちから次々に悲鳴が聞こえてきた。
***
同じ頃、中央エリア。
こちらも人があちこちに逃げ出しており、完全にパニック状態に陥っていた。
その理由は――地面から大量に生えてきた、緑色の太い蔦の大群。
そのどれもが、全長三メートル以上もある巨大なもので、近くの女性を捕らえては首を圧し折り、殺していた。
そして、ライナと優はその蔦を見て、顔色を変える。
「ユウさんっ! あれって確か、シェスタリアで私達が戦った、あいつじゃっ?」
「うん! また現れたってわけね……!」
世界が融合し、雅が異世界組の仲間達と合流するためにシェスタリアに行った時、大量のレイパーが出現した。
この蔦……いや、『ミドル級アイビー種レイパー』は、その際に優とライナが戦い、逃がしてしまった敵だった。
あれから随分と姿を消していたこのレイパーが、今再びライナ達の前に姿を現したのである。
「とにかく、とっとと倒さないと……」
「皆! 行きますよ!」
雅とレーゼがそれぞれ、剣銃両用アーツ『百花繚乱』と、剣型アーツ『希望に描く虹』を構え、蔦に向かって走り出す。
「ユウさん! 私達はこっちに!」
「うん! 手分けしないとね!」
ライナと優は、別方向にある蔦へと向かう。
そしてその後すぐ、カームファリアのバスターの駆けつけ、混戦が始まるのだった。
***
そして愛理達も、起こった騒ぎに気が付いていた。
彼女達のいたエリアにも蔦の大群が出現しており、二組に分かれて殲滅に当たっていた。
蔦が比較的少な目なところでは、愛理とノルンの二人が戦っている。
「はぁっ!」
愛理が刀型アーツ『朧月下』を振るい、蔦の一本を斬りおとす。
「アイリさん! しゃがんで!」
ノルンの声が轟き、咄嗟に愛理が言葉の通り身を屈めると、頭上を緑色のリングが通り過ぎ、離れたところにいる蔦に命中し、木っ端微塵に破壊する。
ノルンの最大魔法、切断性に富んだ風のリングによる攻撃だ。
それを見て、愛理が顔を強張らせた。
「お、おいおい……危ないだろう」
「ご、ごめんなさい……あれが最短距離だったから……」
「流石にヒヤっとしたよ。……まぁ一先ず、ここら辺の蔦は全部倒したか」
辺りを見回し、ホッと胸を撫で下ろして愛理はそう言う。
だが、すぐに気を入れなおし、再び口を開く。
「アプリカッツァ、まだ動けそうか?」
「はい! まだまだ行けます!」
ノルンは杖型アーツ『無限の明日』を構え直し、気合の入った声を上げる。
その時――少し離れたところから、建物が壊れるような大きな音が響いて、二人は顔色を変えた。
慌ててそちらへ向かい、そこで見た光景に唖然とする。
多くの死体に、倒壊した建物。
血臭と死臭が入り混じり、本能的に鼻が拒否してしまう。
ここは大広場のようだが、その面影が無い程に、悲惨な有様だ。
特に死体の損傷がひどい。
縦や横に真っ二つになっているもの、首だけが斬り落とされているもの。四股がバラバラになっている死体も少なくなく、ノルンが嗚咽を漏らす。
無理も無い。何とか堪えているが、一人だけなら愛理は吐いてしまっていただろう。
建物の壊れ方も異常だ。何かで砕かれた、という感じでは無い。まるで、鋭利な刃物で斬られたと思う程、残骸の断面が鮮やかなのだ。
すると、
「おい! お前らもいたのか!」
「愛理! ノルン!」
声を掛けてきたのは、セリスティアと志愛。
二人共騒ぎを聞きつけ、ここにやって来たのである。
「ファルトさん……これは一体……?」
「分からねぇ……俺達も今来たところだ。だが、こりゃぁ……」
セリスティアも志愛も、この衝撃的な光景に言葉が出ない様子。
「ノルン、きつかったラ、ここを離れた方ガ……」
「だ、大丈夫です……すみません、シアさん……」
「……あまり無理をするナ」
志愛の言葉に、コクコクと何度も頷くノルン。
愛理とセリスティアは、辺りを警戒していた。
この光景を創り出した奴が、どこにもいないからだ。
状況から、まだ近くにいてもおかしくない。
その考えを裏付けるように、愛理達の耳に、重い足音が聞こえてくる。
それも、東と西の二ヶ所の建物の中から。
刹那、二つの建物に黒い線が入ったと思ったら、あっという間に建物が音を立てて崩れる。
その断面は、他の建物と同様の鮮やかさだ。
そして……唖然とする四人の前に、二体のレイパーが姿を現すのだった。
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