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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第20章 カームファリア
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第172話『姫服』

 一方、カームファリアの東エリアにある、服屋では。


「ぜっっっっったいに嫌だ!」


 愛理が顔を真っ赤にして、全力で首を横に振る。


 何もそこまでタメて言うことも無いだろうと、一緒にいた真衣華、シャロン、ミカエル、そしてノルンは苦笑いを浮かべていた。


 ノルンの手には、ピンク色の、まるでアイドルが着るような可愛らしい衣装。


「で、でもきっとアイリさんにも似合うと思いますけど……」

「ぜっっっっったいに私には似合わない! アプリカッツァが着るならともかく! そんなフリフリの付いた服、私が着たら服に失礼だろうっ?」

「ええい、折角アプリカツァが選んでくれたんじゃ。観念してさっさと試着せい」

「ガ、ガルディアルさん! あなた、絶対に面白がって言っているでしょう!」


 窘めるような口調のシャロンだが、その顔は笑いを堪えるのに必死そうなもので、愛理が文句を言う。


「もう、早く着なよ。希羅々に写真で送るんだから」

「止めろ橘! 絶対に止めろ!」

「こらこらアイリちゃん。そんなに騒いだらお店の人に迷惑よ?」

「アストラムさん! 自分が標的にされないからって――」


 雅達と同じようにカームファリアを観光していた愛理達。最初はアクセサリショップで年頃の女の子らしくはしゃいだり、スイーツを食べ歩いていたりしていたのだが、ふと真衣華の目がこの店に止まり、皆で入ってみようということになったのだ。


 思えばそれが、愛理にとって、運の尽き。入った瞬間、彼女は顔を強張らせた。


 ここは普通の服屋とは違い、一体どこで着るんだと言いたくなるような可愛い服――所謂『甘ロリ系』というやつだ――を専門に取り扱っていたのだ。


 見た目は可愛くても値段は可愛くないから買うことは出来ないが、少し体にあてがったり、試着してみるだけでも充分楽しめそうで、きゃいきゃいはしゃぐノルンと真衣華、シャロン。そんな三人を、愛理とミカエルは遠巻きに眺めていた。


 シャロンがこういう服に興味を持つなんて意外だなー、なんて、この時は暢気にそう思っていたのである。


 だがノルンが「あ、これアイリさんに似合いそう!」と言いはじめた辺りから空気が一変。


 年齢的にノルンは勿論、小柄な真衣華、見た目は幼いシャロンが着るならともかく、比較的大人びた愛理が着るにはあまりにも可愛過ぎる服を見せられ、愛理は青い顔で後ずさった。


 しかし、運悪く逃げ場は無く、ノルンが笑顔で「折角だから、着てみてください!」と言われ、今に至るというわけである。


 断っておくが、愛理だって可愛い服には興味がある。寧ろ好きと言っても良い。ただ、壊滅的に自分には似合わないと思っているから、人前では着られないだけだ。


 ……もしもここに誰もいなければ、恐らく試着していたかもしれないが。


「ええぃ! 分かった! 譲歩しよう! 着る! 着る……が、皆に着た姿は見せない! それならどうだっ?」

「は? それじゃ意味ないじゃん! ちゃんと見せるとこまでセット!」


 いやいや何言っているのさ、と呆れた目を向ける真衣華に、愛理はギリっと奥歯を鳴らす。


「困った奴じゃのぉ。仕方ない……。タチバナ、アプリカッツァ。奴を拘束するぞ」


 ラジャー! という二人の悪魔の声。


 助けを求めるようにミカエルを見る愛理だが、彼女は優しい顔で首を横に振ってしまい、顔を絶望に染める。


 全力で抵抗しようにも、店の中だからそういう訳にもいかず、小さな悲鳴と共に愛理は試着室へと放り込まれてしまったのであった。




 ***




 ――数分後。


「や、やっば……愛理ちゃん、めっちゃ似合うじゃん!」

「嘘付け橘! 顔が笑っているぞ!」

「……ぷくく」

「聞こえたぞアプリカッツァ……。後で覚えていろよ?」

「ご、ごめんなさい!」


 結論を言うと、甘ロリコスの愛理はかなり『イタい』感じで、本人の言う通り、超絶に似合っていなかった。


「く……屈辱だ……!」


 赤い顔でワナワナと震える愛理を、真衣華は笑いながら写真を撮っていた。


 因みにシャロンとミカエルは、愛理から顔を背け、無言で肩を震わせている。


 そんな四人の態度に、ついに愛理は吹っ切れた。


 真衣華の頭に拳を落とし、ノルンにデコピン。シャロンの脛を蹴り、ミカエルに不気味な程素敵な笑みを向けると、口を開く。


「さあ、後着ていないのはアストラムさんだけですね!」

「駄目よアイリちゃん? 絶対駄目。年齢を考えて頂戴。悲惨なことになるわ」


 身の毛もよだつ愛理の言葉に、急に顔を強張らせるミカエル。どう考えても、年齢的にも立場的にも甘ロリファッションはアウトだ。


 だが、


「あ、実は師匠にも似合いそうな服があったんですよ!」

「ちょっとノルンっ?」


 額を押さえながら、ノルンが服を取りに行くと、ミカエルは大慌て。


「ちょっとアイリちゃん! ヒドいじゃないっ?」

「はっはっは! 道連れです!」

「ししょー! これなんてどうですかっ?」

「絶対駄目よノルン! ありえないわ!」


 ノルンが持ってきたのは、メイド服。ハートがたくさん散りばめられたその服は、愛理が着せられたもの以上に可愛らしい。


 それを見て、愛理や真衣華、シャロンの口角が上がる。


「儂も着ているところ、見てみたいのぉ!」

「写真とりたーい!」

「よし決まりですね! さぁアストラムさん! こっちへどうぞ! 遠慮せずに!」

「きゃー!」


 腕を掴んで引っ張るその力に驚きながら、ミカエルも試着室へと放り込まれてしまうのだった。




 因みに、この時撮られた写真は皆にも拡散され、愛理とミカエルの黒歴史となったのは言うまでも無い。

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