表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第19章 新潟市中央区紫竹山
211/669

第169話『般若』

 般若。


 現れたレイパーを一言で表すなら、それが最も適切だ。


 最も、頭部だけを見るのならば、だが。このレイパーは、顔が般若になっていた。


 首から下……つまり体の部分については、いかんとも形容し難い。


 人型であるのは間違いないとして、随分と細身なのだ。少し力を加えれば、折れてしまいそうな程に。


 くすんだ茶色のボディは、どう見ても最初からこのような状態だったとは思えず、まるで干乾びてしまったようにも見える。


 唯一、爪だけは長く、しっかりとしており、女性達の体に付いていた傷は、これによるものだろうと雅とレーゼは思った。


 ただ、それを見てもなお……このレイパーを見た二人が、「弱そう」と感じてしまったのは無理も無い。


 しかし現実として、ここで何人もの女性を殺している以上、見た目程弱くは無いのは明らかだ。二人は油断せずに、アーツを構える。


 雅の手には、メカメカしい見た目をした、全長ニメートル程の剣。剣銃両用アーツ『百花繚乱』だ。


 レーゼの手に握られるは、美しい空色の剣。剣型アーツ『希望に描く虹』である。


 睨み合う、雅達とレイパー。


 一瞬の沈黙が流れ……駆け出したの、同時。


「はぁっ!」

「はっ!」


 鋭い声と共に繰り出された二人の斬撃。


 しかしレイパーは、それを腕で軽々と受け止めてしまう。


 目を見開く、雅とレーゼ。


 レイパーの体は、やはりというべきか見た目以上に丈夫であったのだが、二人の想像を遥かに超えた硬さだったのだ。


 まともに攻撃しても、傷が付く気がしない。


 雅達の剣と、レイパーの腕の力が拮抗。


 だがレイパーがさらに腕に力を込め、腕を振って二人を押しのける。


 体勢を崩した二人。レイパーはレーゼに目を向ける。


 素早くレーゼに近づき、爪を叩きつけてくるレイパー。


 咄嗟にスキル『衣服強化』を使い、着ている服の強度を上げつつ、攻撃を腕で防いだレーゼだが、その顔は痛みに歪んでいた。


 この体から繰り出されるとは思えない程、重い一撃だったのだ。


 続いてレイパーが繰り出した回し蹴りも、レーゼは腕で受け止めるが、その威力を殺しきれず、吹っ飛ばされて壁に激突して崩れ落ちてしまう。


「レーゼさんっ? ――っ!」


 人を心配する余裕等雅には無い。


 レイパーは素早く雅に近づくと、鋭い爪を振り上げる。


 咄嗟に雅は自身のスキル『共感(シンパシー)』により、レーゼのスキル『衣服強化』を発動。


 さらに防護服型アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』も発動。最近『StylishArts』から貰った新型アーツは、他のアーツを使っている最中にも使うことが出来る。


 雅の体が淡い光に包まれ、さらに防御力が増加。


 レイパーの爪が胸部にヒットするも、彼女にダメージは無い。


 そのまま雅はレイパーに斬りかかる。


 同時に、真衣華のスキル『腕力強化』を発動し、パワーアップした一撃をお見舞いする。


 だが――


「っ?」


 強烈なはずの一撃は、敵の体に傷を付けることが出来なかった。


 スキルと命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)の効果が終了した瞬間、レイパーの膝打ちが雅の腹部にヒット。そのまま彼女を吹っ飛ばしてしまう。


 痛みに呻く雅を見たレーゼは、


「ミ、ミヤビっ! 何をしているのっ? あの時の、あの音符を操る力! あれを早く使いなさい!」


 魔神種レイパーと戦った時に手に入れた、雅の新たな力。燕尾服を模した服装を身に纏い、音符を敵の体に蓄積させ、自身の攻撃のダメージを何倍にも上げられるあの力を、何故使わないのかと、声を荒げる。


 しかし、


「で、出来ません!」

「はぁっ?」

「使えないんです! と、いうか……使うための姿への変身の仕方、分からなくて……っ!」

「なんですって……?」


 起き上がりながら返された、雅の絶望の言葉。


 レーゼの顔も青白くなる。


 ゆっくりと近づいてくるレイパーに、雅とレーゼは後ずさり。


「……レーゼさん! こっちです!」


 雅は百花繚乱の柄を曲げ、ライフルモードにすると、レイパーの顔面や足元へと、桃色のエネルギー弾を連射。


 僅かに怯み、さらに爆発による煙に紛れ、二人はその場から逃げ出すのだった。




 ***




 逃げ出した、と行っても、近くにある別の横断BOXへと隠れただけの雅とレーゼ。


 壁に寄りかかり、肩で息をしながら、ズルズルと崩れるように地面に座りこむ。


 しばらく呼吸を整えていた二人だが、落ち着いてきた頃、レーゼが口を開いた。


「……さっきの話、本当なの? あの力、使えないの?」

「え、ええ。ごめんなさい……」

「いや、謝る必要は無いわ。使えないものはどうしようもないんだから……」


 擁護したものの、レーゼの顔は険しい。使えない、というには、余りにも痛手だった。


「と、とりあえず、今の全力で、あいつを何とかするわよ……うっ」

「レーゼさん!」


 立ち上がった瞬間、腹部を押さえて片膝をついてしまったレーゼ。


 そんなところに攻撃はされていないはずだが、尋常じゃ無い痛みを覚えている様子だ。


 そんな彼女に、雅は眉を八の字に傾け、口を開く。


「レーゼさん。やっぱり、あいつと戦った時のダメージがまだ……」

「…………」


 雅の言葉に、レーゼは唇を噛みしめる。


 魔神種レイパーと戦った際、敵の攻撃を体一つで何度も受けていたレーゼ。


 防御力を上げるスキル『衣服強化』を使っていたとはいえ、魔神種レイパーの攻撃は強烈であり、とても防ぎきれるものでは無かった。


 そのため、戦いが終わって数日経った今でさえ、レーゼの体には多数の痣が残っている。


 実は雅は、薄々気がついていた。


 先日、ボディタッチを嫌がった時から「もしや……」と思っていたのだ。それが今の彼女の様子を見て、確信に変わった。


「……レーゼさん、ここで休んでいて下さい。あいつは、私が何とかします」

「馬鹿言わないで。――あなただって、体、キツいんでしょ?」

「…………あ、あはは。バレていましたか……」


 レーゼの指摘に、雅は一瞬目を見開いたが、すぐに誤魔化すように笑う。


 最も、力の無い笑い声だったが。


 レーゼ程では無いが、雅の体も既に悲鳴を上げていた。魔神種レイパーとの戦いのダメージは、まだ癒えていない。


 いや、もっと言うなら……魔神種レイパーと戦ったメンバーで、完全に回復している者は誰一人としていないだろう。


 それ程までに、激しい戦いだったのだから。


 誰も表に出そうとしないのは、他の皆に心配を掛けないため。


「……不調なのはお互い様でしょ。助け合わないと、ね?」

「……はい」


 弱々しい顔で、互いに頷き合った、その時だ。


 二人は殺気を感じ、咄嗟にその場を逃げ出す。


 ぬっ……と、先程のレイパーが姿を現したのは同時だ。


「くっ……まだ作戦も決めてないっていうのに……!」

「さがみん達には連絡済みです。到着まで、何とか時間を稼がなくちゃ……!」


 さっき息を整えている最中、助けを求めるメッセージを優達に送っていた雅。しかし、すぐに来られるはずも無い。


 このままでは、彼女達が到着する前にやられてしまう。


 嫌な汗が、二人の背中を伝った、その時だ。


 ふわりと、風が二人の体を撫でる。




 誰かが、空から降りてきた。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ