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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第19章 新潟市中央区紫竹山
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第167話『少女』

 伊織が連れてきた少女は、見た目は完全に子供。恐らく、年齢は二桁もいかないくらいだ。


 腰の辺りまで伸びた、白い髪が印象的である。白い髪といっても、白髪(しらが)のような年寄り臭さは全く無い。目を奪われる程、とても美しい髪だった。


 金色の眼や、透き通るような肌。あどけなさはあるが、すっきりとした顔立ちで、その辺のアイドルは裸足で逃げ出してしまいそうなくらい可愛らしい。


 百人いれば、百人が『美少女』と断言するであろう彼女だが、一方で、何となく心配になってしまう程、弱々しいように見える。『病弱そう』という言葉が適切だろうか。


 最も、皮肉にもそんな様子でさえ、見ている人の庇護欲を掻き立てられてしまい、それが彼女の魅力を引き立てていたのだが。


 そして、そんな女の子を見て、黙っていられるはずもない女が一人。




「やぁあん! 可愛いですぅ!」




 束音雅である。


 目に飛び込んだ瞬間、思わず体が動き、気がつけば少女を抱き締めていた。


 あまりの出来事に、全員がポカンとしてしまったのは言うまでも無い。


 顔を赤らめて息を荒げる雅は、まさに変質者のそれだ。唯一の救いは、抱き締められた当の本人が、あまり嫌そうな顔をしていないことか。


「お名前、なんていうんですかー? 私は雅! 束音雅っていいます!」

「あー、束音さん……それなんすけど……」

「……ほえ?」


 伊織は語る。


 曰く、この少女は――『声が出せない』ということを。


 失声症なのか失語症なのか、はたまた違うものなのか、詳しい原因は不明だ。一応病院で検査したが、発声器官には異常は見られなかったらしい。が、とにかく言葉が話せない。


 否、厳密に言えば、僅かだが声を出したとのこと。


 名前を聞いた時『ラ……ティ……ア……』と言ったらしい。


「どうも、『ラティア』ちゃんっていうのは分かったんすけど、それ以上のことはさっぱりでして……」

「成程……ラティアちゃんって言うんですね! 覚えました!」

「おいおい束音お前なぁ……。あー、ところで冴場さん。そのラティアって娘をどうしてここに? 私達、優一さんに呼ばれて来たのですが……」

「あー、話が前後しちまいましたね。いや実は相模原警部、ちょっと急用が入りまして……私が代わりに話に来たっつーわけです」

「はぁ……ん? ということは……?」


 ちらりと愛理の目が、未だ雅に抱かれていいようにされているラティアへと向けられると、伊織は「そうっす」と頷いた。


「相談っつーのは、ラティアちゃんのことでして……」




 ***




 七月三十一日の午後六時半頃、このラティアという少女は、新潟市内で発見された。


 ビルの壁に寄りかかって、気を失っていたところを警察官に助け出されたとのことだ。


 恐らく、スライム種レイパーの襲撃から逃げていたものの、途中で力尽きてしまったのだろう。


「んでもって病院に運び込まれたんすけど、身寄りが分からねーもんで……。ほらULフォンに、頭で思い浮かべた言葉を、文字に起こしてくれる機能があるじゃねーですか。医者があれ使って会話しようと思ったみてーなんすけど……」

「あー、ミヤビが前、誕生会でフル活用していた機能ね」


 誕生会で雅に寄せられた、大量のSNSでのお祝いコメント。雅はその一つ一つに返信する際、その機能を使っていたのだ。レーゼはそれを思い出したのである。


 しかし、唸るような表情で伊織は自分の髪をワシャワシャと揉みながら口を開いた。


「なんか、上手くいかなかったみてーで……。理由は分からねーですけど、ちゃんと言語化されねかったみてーなんすよ。他にも色々試してみたらしーっすけど、やっぱ駄目で。そこで、医者が、よく見りゃあラティアちゃん、アーツを持ってねーってことが分かって、こっちに連絡がきたんす」

「ええっ? だって、新潟で見つかったんでしょ? アーツを持っていないわけが……」


 真衣華が目を丸くするのも無理は無い。


 新潟に限らず、この世界の女性はアーツを持つというのが常識だ。


 が、そこでふと真衣華は気がついた。


 その常識は、世界が融合する前の話だと。


 異世界の女性は、一部の人しかアーツを持っていない、ということを。


 真衣華が気づいたということに、伊織も気がついたらしい。「そうなんすよ……」と困った顔をしていた。


「もしかしてラティアちゃん、異世界の娘なんじゃ……って思いまして。まぁ、どういう経緯で新潟にいるのかまでは分からねーんで、一旦異世界の事情を知っている皆さんに話を聞いてみようってことしたってわけっす。身につけている服とか、雰囲気とか、どこの国の娘かとか分からねーっすかね? ちょっと気がついたこととか、そんなのでも何でも良いんすけど……」


 伊織の目が、主に異世界出身の七人に向けられるが、彼女達も困った様子。


 ラティアの容姿は恵まれ過ぎており、それ故に、却って人種が分かり辛いのだ。


「地図とかみせて、どこら辺に住んでいたかとか、指を差してもらうとかどうだ?」

「試してみたっすけど、地図が分からねーようで、首を傾げられました……。てか、文字が読めねーみてーです」

「監視カメラとかで、追えませんの?」

「レイパーの襲撃で壊されちまって、どこにも映ってねーんすよね」

「な、中々大変だね……」


 ファムが苦笑いを浮かべて、思わずそう呟いた。


 そこで、志愛が伊織に合図して、ラティアから顔を背け、隠れるようにして口を開く。


「ご両親はいないんですカ? 子供が一人で外国に来るとは思えないんですガ……」


 最も、コソコソと聞いている時点で、恐らくレイパーに殺されたのでは、という想像をしていた志愛。


 しかし、伊織から帰ってきた回答は、予想外のものだった。


「それが……いねーみてーなんすよ」

「……いない? 独りだったってこと?」


 レーゼが怪訝そうな顔をして、会話に入ってくる。


「親御さんとははぐれちまったかって医者が聞いたらしーんすけど、首を横に振ったって。もしかすると、孤児なんじゃねーかって思うんすけどね……」

「困ったわね……本当に、手掛かりがゼロじゃない」


 はてさてどうしたものか……と全員が頭を悩ませる。


 すると十分くらいして、ミカエルが「あっ」と声を上げた。


「……私の知り合いに、人の記憶を、魔法を使って読み取る研究をしている人がいるの。確か、今はカームファリアに滞在しているはず……」

「カームファリア? あ……そこってもしかして……」


 それまでずっとラティアを可愛がっていた雅だが、会話はちゃんと聞いていたらしい。


 そして雅は、今の地名に聞き覚えがあった。


 行ったことは無いが、シェスタリアに向かう道中で聞いたのである。


 その記憶を裏付けるように、ミカエルは頷いた。




「ええ。サウスタリアの首都よ」

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