第166話『令嬢』
優の誕生日が終わった、次の日。
八月四日土曜日、午前九時三十六分。
新潟県新潟市西区、新潟県警察本部の二階、応接室に、全員が集まっていた。
優一から『相談がある』とのことで、呼ばれたのである。
ULフォンでの通話では無く、わざわざ呼ばれたということは、余程のことなのだろう。
丁度雅達はやって来たばかりで、優一が来るまでの間は雑談タイムだ。
そんな中、雅と優、ノルンとセリスティアの四人のグループでは、
「――と、こんなことがあったのよ」
「そ、そりゃあ相手の人も怖かっただろうな……」
優が、昨日の出来事を二人に話していた。
夜の散歩の件は雅と優だけの秘密だから上手くぼかし、つい最近の話だということにしてあるが、それ以外はありのままに伝えたところ、セリスティアが顔を引き攣らせた。
「ちょっと怖がられたかもしれませんが、嫌われてはいないはずなので大丈夫です!」
「いやミヤビさん、何が大丈夫なんですか……?」
ノルンが前髪のクセ毛をピョコピョコとさせ、呆れたような視線を向けられるが雅はスルーして指を空中でスライドさせ、ウィンドウを出現させる。
「因みに、こんな娘でした」
「みーちゃん、あんた何時の間に写真なんか……」
ウィンドウに映っていたのは、四葉の写真。声を掛ける前に撮ったものだった。
「……良い感じのコンビニだなーって思ったから、撮っただけですよー? そこに偶々四葉ちゃんが映っていただけです」
「嘘つけ」
セリスティアの半眼が雅に突き刺さる。四葉が真ん中にでかでかと映っており、コンビニなんて外壁しか入ってない。言われなければコンビニだとは分からず、明らかに四葉を撮影したものだ。
にも拘らず平然と『人ではなくコンビニを撮った』等と言う雅は、下手な口笛を吹いてそっぽを向く。
すると、
「あれ? この人……」
ノルンが小首を傾げて、目を丸くしていた。
「ノルンちゃん?」
「あ、いえ。なんか見覚えがあって……。この間の戦いの時、スライムみたいなレイパーから私達を助けてくれた人にそっくりだなって……」
雅達が塔で魔王種レイパー達と戦っている頃、日本ではノルンと優香、伊織の三人で、大量発生したスライム種レイパーと戦っていた。
ある程度の敵を倒したところで、一際大きなスライムがやって来たのだが、ノルン達の代わりにそのレイパーを倒した人が、四葉にそっくりだと言うのだ。
「ヘルメットやプロテクターを着けていたから断定は出来ませんけど、雰囲気というか立ち姿というか、それがあの人に似ているような……」
と、その時だ。
「おや? その方……『アサミコーポレーション』の令嬢ではありませんの」
それまでミカエルやシャロン、真衣華と会話していた希羅々が、雅の出したウィンドウを見てそう声を掛けてきた。
「え? 希羅々ちゃん、知っているんですか?」
「ええ。以前『StylishArts』が開催したパーティ会場で、少しだけお話をしたことが……。そうそう、真衣華もその時いましたわ。真衣華、覚えていますか?」
「うーん……何年か前の話だし……でも、確かこんな人だったかも」
話を振られた真衣華は唸る。大人達ばかりのパーティの中で、同じくらいの年の子がいたから、ちょっと会話しただけなのだ。
「……てか、『アサミコーポレーション』? 初めて聞く会社なんだけど、何をしている会社な訳?」
「あ、あなた……ちょっと世間知らずにも程がありますわ」
希羅々が、優に向けてジト目を向ける。それが何となくイラっとして、優は「うっさい」と言いながら希羅々の脛を軽く蹴った。
すると希羅々が反撃と言わんばかりに優のお腹を指で小突き、それに対して優がやりかえして……。
「おいおい、ガキじゃねーんだから」
あっさりセリスティアに仲裁され、何事も無かったかのようにキャットファイトが終了。
そして話が戻る。
「『アサミコーポレーション』は、アーツ製造販売会社。要は『StylishArts』と同じですわ。村上市にあった会社だったはず……。最も、うち程大きな会社ではありませんが」
「えっ? 新潟県に二個もアーツ関係の会社があるのっ? みーちゃん知ってた?」
「ええ。寧ろ、さがみんが知らなかったことに驚きです。四葉ちゃんがそこの令嬢だっていうのは流石に知りませんでしたけど」
「ほら、やはり束音さんは知っていたじゃありませんの。まぁ、国内で『アサミコーポレーション』産のアーツを使っている人は少数派かもしれませんわね。主な販売相手は海外。ヨーロッパ辺りに輸出しているらしいですわ」
聞けば、魔王種レイパーを倒したイギリスの少女が使っていたアーツも、『アサミコーポレーション』の物だったらしい。
「ところで、何故束音さんが『アサミコーポレーション』の令嬢の写真を?」
「昔参加したアーツセミナーで、四葉ちゃんのことを見たんですよ。それで、先日偶然再会して……写真は、その時に」
「おい、ついに本人を撮ったことを否定し無くなったぞ……」
「おっと失礼。良いコンビニの写真を撮ったら、そこに偶然映りこんでいたんです」
わざわざ誤魔化しなおした雅に、希羅々と真衣華も苦笑いを浮かべるが、ここで突っ込めば話が脱線するためスルーだ。
「な、なるほど……。彼女、元気そうでした?」
「ええ。あと彼女、妹がいるんですけど、その娘も元気だと仰っていました」
「……はい? 妹? それを、浅見さんが?」
「……? ええ」
何か変な事を言ったのだろうか錯覚する程、雅の言葉に希羅々はポカンと口を開ける。
どうしたのか、と聞こうとした、その時だ。
「遅くなっちまって、すまねーっす!」
応接室に、慌しく冴場伊織が入ってきた。
――白髪の、とても美しい少女の手を引いて。
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