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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第19章 新潟市中央区紫竹山
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第165話『知合』

 夜の街で見かけた少女、浅見(あさみ)四葉(よつば)は、自分の知り合いだと言う雅。


 早速声を掛けた……のだが、


「……誰?」


 四葉は、ナンパしてくる男を追い払うような目つきで雅を睨み、そう言った。


「……ちょっと。彼女、みーちゃんのこと知らないじゃん」

「あははは。ごめんなさい、久しぶりですもんね。私です、束音雅ですよ。四年くらい前にあった、アーツセミナーにいた、あの雅です」


 アーツセミナー。


 小学生から中学生を対象とした、レイパーとの戦い方を学ぶために開催されたセミナーだ。学校でもレイパーとの戦い方は学ぶが、それとは別に、国や県、市、あるいは企業がやっている。内容もより実戦的なものだ。


 百花繚乱は、雅が祖母から中学校入学祝に買ってもらった物。新しい武器を使いこなすために、丁度良い機会だからと、雅は中学一年の夏休みの時、一週間の宿泊セミナーに参加していたことがあった。


 その際、雅は浅身四葉を見かけていたのだ。


 そして、その記憶は正しい。事実として、雅と四葉は同じセミナーを受講していた。


 だが、


「……いや、覚えていないんだけど」

「まぁ、会話したわけじゃないですしねぇ」

「いや、あんた……」


 呆れたような、戦慄したような、どっちともつかない表情の優。


 そう、雅は『見かけていた』のである。つまり発言の通り、何か会話をしたわけでは無い。


 ただ四葉のことを、遠くからチラっと見ただけだったのだ。


「本当はお話したかったんですけど、仕方が無かったんですよぅ。五十人くらい人がいて、多過ぎるからって班分けされていたんです。違う班の人達とは初日と最終日のちょっとの時間しか会えなくて……。私はB班だったんですけど、確か四葉ちゃんはC班でしたよね?」

「いえ、そんなこと言われても……もう覚えていないわよ……。確かに、昔セミナーに参加したことはあったけど」


 四葉は難しい顔をして言葉を返すが、当たり前である。覚えている雅が異常なのだ。


「……大体、会話もしていないなら何で私の名前も知っているの? 何? ストーカー?」

「初日に皆が集められた時、自己紹介させられましたからねぇ。あはは」

「それで、今の今まで覚えていた、と……。ちょっと怖いんだけど……」


 四葉が思わず漏らした本音に、優が噴き出す。


「四葉ちゃんだけじゃ無いですよ。全員、ちゃんと覚えてますもん、私。余程容姿が様変わりしていなければ、分かると思いますよ」


 優に若干のジト目を向けながら雅は言うが、四葉からしてみれば尚更怖い。普通にドン引きしていた。


「まぁそんなことはさて置いて――四葉ちゃん、妹ちゃんがいましたよね? 確か、セミナーにも参加していた……。黒葉(くろば)ちゃん。あの子、元気ですか?」


 浅見黒葉。こちらも雅は直接会話したわけでは無いが、四葉といつも一緒にいた、小学三年生くらいの子がいたのだ。


 顔形も、当時の四葉を幼くしたような感じであり、『よく似ている姉妹だなぁ』なんて雅は思っていた。


「……ええ、まぁ。それより、もういいかしら? 明日も早いから、そろそろ帰りたいの」


 素っ気無い返事。最も、雅は特に気にもしないのだが。


「おっと、それは失礼しました。私達ももう行きましょうか、さがみん」

「そうね。――浅見さん、いきなりごめんねー。じゃあ、お互い気を付けて」


 そう言って去っていく雅と優から、興味を無くしたと言わんばかりに四葉は視線を逸らし、残っているアイスを一気に口に入れると、カップをゴミ箱にいれるのだった。




 ***




「全く、みーちゃんの女性限定の記憶能力には呆れさせられるけど、今日はトップクラスにヤバかったわ」

「えー? そうですかねぇ?」


 おどけてみせる雅の鼻を、優は人差し指でツンと突く。


「折角の私との散歩なのに、他の女の子にかまけるなんてねー?」

「う……さがみん、ごめんなさい。つい、ほら、ね? こう……衝動的に? あるじゃないですかー」


 ちょっと焦ったように何やら言い訳――それも、何の弁明にもなっていないのだが――を始める雅。


 そんな親友の様子が面白く、「うりうりー」と言いながら優は脇腹を小突き始めた。


「ちょっ? さがみんっ? くすぐっ? くすぐったいですっ! やめてやめてっ!」

「悪い子はいねがー? おまえかー?」

「さがみん、それなまはげ! ここ新潟だから止めましょう! 後使うシチュエーションもちょっと違う気がします! ごめんごめん!」

「おりゃおりゃー」

「分かりました! これあげるから! これあげるから許して!」


 そう言って、雅は、家を出てからずっと片手にぶら下げていた、小さな紙袋を差し出す。


 優へのプレゼントだった。散歩が終わったら渡そうと思っていたのだ。


「……全く、しょうがないわねぇ。それに免じて、許してやるとしますか」

「センキュー! あ、どうぞどうぞ開けて下さい」

「じゃあ、早速。――およ? これはこれは……」


 中に入っていたのは、ヘアゴム。


 全体的に緑を基調としており、黄色いミモザを模した小さな髪飾りがついていた。


 優は、今自分の髪をサイドに纏めているヘアゴムをなぞる。


 実はこれも、随分昔に雅に貰ったものだった。


「確かそれ、小学生くらいに買ったものでしたよね? 色々考えていたんですけど、それそろ切れちゃう頃かもって。ほら、最近激しい戦いが続いていましたし」

「……うん。実は、私もヤバイなーって思ってた」


 優はヘアゴムを外す。黒い、飾りっ気も何も無い。当時の雅のお小遣いでは、それが精一杯の贈り物だった。


 そんな物を、優は今日までずっと、大事に使用していたのだが……外されたヘアゴムはよく見ると、所々擦り切れており、辛うじてまだゴムとしての役割が残っているというところまで消耗していたのだ。


「ところで、これ……もしかして手作り?」


 雅が新しく贈ったヘアゴムは丁寧に梱包され、まるで売り物にしか見えないのだが、何となく温もりで、優はそう思ったのだ。


 当たっていたようで、雅は「バレちゃいました?」と言って小さく舌を出す。


「相変わらず器用だよね、みーちゃん。……ありがとう。本当に嬉しい」


 そう言ってから、優は早速それを着ける。


「――思った通り、似合いますねぇ」


 月明かりに照らされ、少しハニかむ優を見て、雅は思わずそう呟くのだった。

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