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第18章幕間

 魔王種レイパーが姿を消した、その後。


「くっ! マズい……! この塔、倒れるぞ!」


 愛理が、塔がゆっくりと傾いていく感触に、青い顔をして叫ぶ。


 レイパーの胎児が塔の壁を突き破って外へと出たことで、崩壊が始まっていたのだ。


 シャロンは今は竜にはなれず、ファム一人では全員を抱えることはとても出来ない。


 このままでは崩れゆく塔に巻き込まれ、全滅も止む無しだ。


「とにかく、出口を作ります!」


 雅はそう叫ぶと、壁に向かって音符を放つ。


 レイパーでは無いものにも音符は効果があるかは分からないが、今はこれに賭けるしか無かった。


 魔神種レイパーに比べれば、壁に音符を蓄積させることなんて容易いこと。


 雅は十発以上もの音符を壁に撃ちこんでから、剣銃両用アーツ『百花繚乱』で思いっきり斬りつける。


 すると、轟音と共に壁に風穴が開いた。


「やった!」

「皆! これに乗って!」


 ミカエルが杖型アーツ『限界無き夢』を振ると、外に赤い円盤が出現する。


 十二人が充分余裕を持って乗れるほどの大きさだ。


 ミカエルを先頭に、次々にそれに乗り込んでいき――一行は、急いで塔から脱出した。


 二重の意味で、段々と小さくなっていく塔。


 戦いが終わったのだという安心感と、倒せたはずの敵を逃がしてしまったという悔悟感。


 誰もが、複雑な思いで、その光景を眺めていた。




 それから三時間後。


 時刻にして、午後六時二十二分。


 雅達は、やって来たドローン――新潟県警のものだ――に救出されたのだった。




 ***




 ここはオートザギアにある、とある森の中。


 雅達から逃げ遂せた魔王種レイパーは、そこで倒れていた。


 体は既にボロボロ。


 瞬間移動でエネルギーを使い果たしたため、ここに来てから結構な時間が経つが、未だ動くこともままならない。


 体力が回復――最低限動ける、という程度だが――するまでは、後六時間といったところか。それまでは、このような無様な姿でいるしかないだろう。


 レイパーの瞳は怒りに燃えており、再び動けるようになったら、真っ先に雅達を殺しにいこうという思いが頭の中を占めていた。


 だからだろうか。


 魔王種レイパーは気がつかなかった。誰かが近づいてきていることに。


 最も、それに気が付いたところで気にも留めなかったかもしれない。


 分かったのは、その存在が自分のすぐ側まで来た時だった。


「……トヤゾ、ラコリ?」


 そこにいたのは、八人の子供。


 全員女の子で、齢十歳かそこらくらいだろうか。


 先頭に立っているのは、やたらと気の強そうな目をした、ブロンドの長髪の娘だ。他の七人は、その娘の後ろに隠れるようにこちらを覗いており、何やらヒソヒソと女の子に声を掛けている。


 レイパーの耳に断片的に届いてくる、英語。「危ない」「早く逃げよう」「バスターを呼ばなくちゃ」と言っているとレイパーは解釈し、実際にそれは正しかった。


 ふと、レイパーは気が付く。


 八人の女の子の内、先頭に立つ娘を含めて四人の娘は、指輪を嵌めていることに。


 それが、雅達が身に付けているものと同じものだと分かったのは、先頭の娘の指輪が光り、子供が持つにしては大き過ぎる、スモールソード型のアーツが出現した時だった。


 実は指輪を嵌めている娘達は、イギリス人。他の娘達は、オートザギア人である。


 世界が融合したことで、イギリスとオートザギアで交流が生まれていた。親の都合で偶然オートザギアに訪れていたイギリス人の子供達が、現地の子供達と触れ合い、国境を、大陸を、世界を超えて、友情を育んでいたのだ。


 そんな彼女達が森を探検していたところで、魔王種レイパーを見つけたのである。


 消耗していた魔王種レイパーに、細かい位置を指定しての瞬間移動は出来なかった。こうして人に見つかってしまったのは、魔王種レイパーにしてみれば本当に運が悪かったとしか言いようが無い。


 女の子は、アーツを、倒れたレイパーの体に突き刺す。


 未熟な子供の一撃なんて、普段であれば傷も負わないのだが……今は事情が違った。


 ボロボロの体が、スモールソードに貫かれる。


 血を吐き、痛みに顔を歪めるレイパー。


 だが、魔王種レイパーは笑い声を上げる。


「トヤゾ、ラコリカ、ヘテノレタモ?」


 何を言われているのかなんて、子供達には分からないだろう。


 ザシュ、ザシュ……と、お構い無しに女の子は何度もレイパーを突き刺し、他のイギリス人の子供達も、自分のアーツを呼び出してレイパーに攻撃をし始めた。


 レイパーの体は、動かない。


 子供なんて普段なら、容易に虐殺している程の存在だ。いや気分によっては、猫がネズミを甚振るようにじっくりと殺しているだろう。


 何にせよ、とるに足らぬ雑魚。


 心地の良い悲鳴と、思わず笑ってしまうような命乞いをBGMに、時に刹那に、時に永久に、楽しく、面白おかしく、上機嫌に殺戮出来る、遊び道具。そんな存在だ。




 ……だが、今は違っていた。


 これまで軽い気持ちで殺していた存在に、魔王種レイパーは殺されかけていた。




 魔王種レイパーは悲鳴も命乞いもしないし、雑魚相手に「攻撃を止めてくれ」等と思うことは無い。


 攻撃される度に沸き上がるのは、彼女達への怒り。


 調子に乗るんじゃない、という思いだ。


 それは、自分の状況の理解を拒む意思の表れか。


 子供に殺される、という現実を認められるほど、このレイパーのプライドは低くない。




「ネワ……ネワルヘテタウト……!」



 動かぬ体で、レイパーは激昂の声を上げる。


 だが、子供達は止まらない。


 そして、スモールソードの刃が、レイパー体の奥深くに突き刺さった、その時。







「スドミウトォ! マタ、ムハラヤトザカ……! ラヤトザカァァァアッ!」







 レイパーの体が、黒い光に包まれる。


 オートザギア人の子供達が呼んだ、バスターが到着したのは、丁度その時。


「危ないっ!」


 バスター達が子供達を抱きかかえ、彼女達が魔法でバリアを展開した、その瞬間。







 ついに――魔王種レイパーは爆発四散するのだった。

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